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15話 救いようのない-エメリーヌ視点-
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⸺⸺魔の森⸺⸺
魔の森の入り口に着くと、馬はなぜか全力で森へ入るのを嫌がった。なんて役に立たないのでしょう。
仕方がないので馬を森の入り口に繋いで、徒歩で森の中へと侵入した。
きっと帰れなくなったあの子はどこかでびーびー泣き喚いているに違いない。少し歩いていればすぐに見つかるでしょう。
そう思ったのに、あの子は一向に見つからなかった。
それどころか、認めたくはないけれど、さっきから何度も同じところをグルグルとしているような気がしてくる。
まさか、迷った? いや、まだ全然奥には行ってないはず。迷うはずがない。慌てて木に目印を付けて来た道を引き返すが、さっき付けた目印のところへと戻ってきてしまった。
「う、嘘……」
戻れなくなってしまったかもしれない恐怖に襲われ、呼吸が荒くなる。
すると、わたくしの足元にできていた影がスーッと地面から湧き上がり、鏡の様にわたくしの姿を映した。
「なっ……なに、これ……」
わたくしが恐怖に怯えているのを嘲笑うかのように、目の前のわたくしはニヤリと笑ってこう言った。
『邪魔なあなたはここへ捨てていきます』
「それは……さっきわたくしがあの子に言った言葉……」
『ええ、そうですわ。あなたもあの子をここに捨てたんですもの。だから、わたくしもあなたをここに捨てていきます』
影はそう言うとわたくしを映すのをやめて、真っ黒な人影へと戻った。
「あっ……アンデットの魔物……!」
確かシャドウと言う名の魔物。しかし、ここの魔物は人間を襲わないはずでは……。
『さぁ、ここからどこへなりとも行ってしまいなさい。行けるものならなぁ!』
シャドウは真っ黒な魔法弾をわたくしの足へと撃ち込んだ。
「うぐっ……い、痛っ……! 嘘、なんで攻撃して……!」
『ほらほら、逃げろよ。もっと痛くなってもいいのか?』
「ひっ、ひぃぃぃぃ!」
足をズルズルと引きずり、必死にシャドウから逃げる。すると、今度は目の前に紫色のキノコの魔物が現れた。
『君、自分の姉にウイルスを打ち込んだんだって?』
「な、なぜそれを……!」
『じゃ、ボクも毒撒いちゃお』
キノコの魔物が頭の傘を揺らすと、紫色の胞子が辺りに散らばった。
「うっ、ごほっ、ごほっ!」
吸ってしまった……! 身体がピリピリとしびれて、呼吸が苦しくなる。
『よし、じゃぁオベロン様が来るから、この辺の空気は綺麗にしていくね』
キノコの魔物は傘の中心で辺りの胞子を全て吸い込むと、鼻歌を歌いながら去っていった。
「うっ、くるし……」
目が霞んでくる中、今度は目の前に妖精の羽を生やし、耳の尖った殿方が現れた。
「ほら、この子を探しに来たんだろ?」
その殿方がパチンと指を鳴らすと、彼の隣の空間にある映像が映し出された。
そこには、楽しそうに魔導具をいじっているあの子の姿があった。
「あっ……見つけ……た……」
「ティニーは無事だ。今もこうして元気に魔導具を作ってる」
「あぁ、良かった……これで、わたくしも……王妃に……」
「……救いようのないクソババアだな。興醒めだ、つまらん」
彼は、そう言うとあの子の映像を消し、背中についている羽をキラキラとはためかせてどこかへ飛び去ってしまった。
苦しい、苦しいのがずっとなくならない……。そうか、姉も、わたくしがこうやって苦しめたんだ……。
そうか、あの殿方が妖精王……わたくしは、あの子の姿を見て、一番にあの子の無事を喜ぶべきだった……。
せめてあの時ああしていれば、この時こうしていれば……。
どれだけ後悔しても、もう遅すぎたのでした。
魔の森の入り口に着くと、馬はなぜか全力で森へ入るのを嫌がった。なんて役に立たないのでしょう。
仕方がないので馬を森の入り口に繋いで、徒歩で森の中へと侵入した。
きっと帰れなくなったあの子はどこかでびーびー泣き喚いているに違いない。少し歩いていればすぐに見つかるでしょう。
そう思ったのに、あの子は一向に見つからなかった。
それどころか、認めたくはないけれど、さっきから何度も同じところをグルグルとしているような気がしてくる。
まさか、迷った? いや、まだ全然奥には行ってないはず。迷うはずがない。慌てて木に目印を付けて来た道を引き返すが、さっき付けた目印のところへと戻ってきてしまった。
「う、嘘……」
戻れなくなってしまったかもしれない恐怖に襲われ、呼吸が荒くなる。
すると、わたくしの足元にできていた影がスーッと地面から湧き上がり、鏡の様にわたくしの姿を映した。
「なっ……なに、これ……」
わたくしが恐怖に怯えているのを嘲笑うかのように、目の前のわたくしはニヤリと笑ってこう言った。
『邪魔なあなたはここへ捨てていきます』
「それは……さっきわたくしがあの子に言った言葉……」
『ええ、そうですわ。あなたもあの子をここに捨てたんですもの。だから、わたくしもあなたをここに捨てていきます』
影はそう言うとわたくしを映すのをやめて、真っ黒な人影へと戻った。
「あっ……アンデットの魔物……!」
確かシャドウと言う名の魔物。しかし、ここの魔物は人間を襲わないはずでは……。
『さぁ、ここからどこへなりとも行ってしまいなさい。行けるものならなぁ!』
シャドウは真っ黒な魔法弾をわたくしの足へと撃ち込んだ。
「うぐっ……い、痛っ……! 嘘、なんで攻撃して……!」
『ほらほら、逃げろよ。もっと痛くなってもいいのか?』
「ひっ、ひぃぃぃぃ!」
足をズルズルと引きずり、必死にシャドウから逃げる。すると、今度は目の前に紫色のキノコの魔物が現れた。
『君、自分の姉にウイルスを打ち込んだんだって?』
「な、なぜそれを……!」
『じゃ、ボクも毒撒いちゃお』
キノコの魔物が頭の傘を揺らすと、紫色の胞子が辺りに散らばった。
「うっ、ごほっ、ごほっ!」
吸ってしまった……! 身体がピリピリとしびれて、呼吸が苦しくなる。
『よし、じゃぁオベロン様が来るから、この辺の空気は綺麗にしていくね』
キノコの魔物は傘の中心で辺りの胞子を全て吸い込むと、鼻歌を歌いながら去っていった。
「うっ、くるし……」
目が霞んでくる中、今度は目の前に妖精の羽を生やし、耳の尖った殿方が現れた。
「ほら、この子を探しに来たんだろ?」
その殿方がパチンと指を鳴らすと、彼の隣の空間にある映像が映し出された。
そこには、楽しそうに魔導具をいじっているあの子の姿があった。
「あっ……見つけ……た……」
「ティニーは無事だ。今もこうして元気に魔導具を作ってる」
「あぁ、良かった……これで、わたくしも……王妃に……」
「……救いようのないクソババアだな。興醒めだ、つまらん」
彼は、そう言うとあの子の映像を消し、背中についている羽をキラキラとはためかせてどこかへ飛び去ってしまった。
苦しい、苦しいのがずっとなくならない……。そうか、姉も、わたくしがこうやって苦しめたんだ……。
そうか、あの殿方が妖精王……わたくしは、あの子の姿を見て、一番にあの子の無事を喜ぶべきだった……。
せめてあの時ああしていれば、この時こうしていれば……。
どれだけ後悔しても、もう遅すぎたのでした。
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