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26話 王子のお守役

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⸺⸺グランシア城、ジークハルトの部屋⸺⸺

 今日は、社会科見学その2、である。私はジークに連れられて、グランシア城のある部屋を訪れていた。
 その部屋の片隅にある机には大量の書類が積まれており、セドリックが集中して書類に目を通していた。

「この部屋は……セドリックの仕事部屋?」
「いや、俺の……第二王子の部屋」
 ジークはそう言うとセドリックのいる机のそばまで行き、一緒に書類を眺め始めた。私もそばへ歩み寄り、その光景を見守る。
「この書類の山は……?」
「俺が遠征中に放ったらかしてた公務だな」
 ジークはそう言って書類の隅にグッと印を押した。

「遠征後も、だけどな」
 セドリックがそうツッコミを入れたことで、私はハッとする。
「もしかして私の面倒見てくれてるから……!?」
 私のせいで公務が出来てないんじゃ……! そう思うと罪悪感が一気にこみ上げる。
「いやいや、ちげぇって! セドリックてめぇ、何でもっとこうユアの気持ちを考えらんねぇのかね」
 ジークはそう必死に弁明していた。

「ん? あぁ、悪い。ユアはまだジークの“公務アレルギー”の事知らないんだったな。これは今に始まった事じゃない。むしろ、俺がジークのお守役になってからの、俺の仕事と言っても過言ではない」
「公務アレルギー……!?」
 ジークの方を見ると、なんとも渋い顔をしながら書類に印を押していた。
「こうやって今書類に目を通して俺の手伝いをしてる風な事をしているが、それもユアに対して格好つけたいだけだぞ。普段はこの部屋に来ることすらしない」
「えっ……!?」

「セドリック……いつも代わりに公務やってくれて助かってるよ。けどさ……格好つけてんの分かってんだったら黙ってくれてたって良いじゃねぇかよ……!」
 ジークはそう言ってショボンと落ち込んだ。
「あ、図星だったんだ……!」
「まぁ、今日はセドリックはギルドメンバーではあるけど、普段は俺の公務を代わりにやってくれてるんだってところを見せたかっただけだったんだが……つい、格好つけたくなっちまった」
 ジークはそう言っててへっと笑って誤魔化した。そんな彼を見て、私は思わずふっと吹き出してしまう。
「あっ、ユア笑うなよー!」
「あれは笑ってんじゃない。幻滅しているんだ」
 と、セドリック。
「そ、そんな事ないよ!? 何だかジークらしいなって思ってさ」
 そう言って笑うと、ジークも「ま、これが俺だから」と一緒になって笑っていた。

⸺⸺

 結局その後もジークとあれこれ話していると、セドリックに「イチャつきに来ただけなら帰れ! 邪魔だ!」と怒られてしまい、私たちは部屋から追い出されてしまった。

「イ、イチャついてるように見えたかな……」
「あれ? 俺はイチャついてるつもりでいた……」
「えっ、そうなの!?」
 まさかの発言にドキッと顔を赤くして彼を見ると、彼もまた頬がほんのりと赤らんでいた。
「おうよ……」
「で、でも、いつものやり取りと変わらなかったよね……?」
「つまり、いつもイチャついてるつもりでいたってこと」
「えぇぇぇぇ~!?」
 大きな声を出すと、目の前の扉がバンっと開く。
「いつまで部屋の前でイチャついているんだ! さっさとデートでも何でも行ってこい!」
「「ごめんなさい!」」

 そう逃げるようにお城の階段を駆け下りると、セドリックの言うとおり王都でデートをして私の社会科見学その2は幕を閉じた。

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