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9話 美味しいご飯
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⸺⸺シュナイダー公爵のお屋敷⸺⸺
お屋敷に帰ると再びたくさんの使用人に出迎えられ、オスカー様は一人で2階へ上がっていき、私はばあや様とレベッカ様に連れられて、自分の部屋へと戻った。
「皇帝陛下とお話はされましたか?」
ばあや様は私のドレスを脱がせながらそう尋ねてくる。
「はい、アーレンス城を攻めてきた時と違って、お優しそうな方でした」
「そうでしょう。あなた様の故郷を攻めたのも、何か相当の理由があってのこと。どうか皇帝陛下をお恨みになりませんよう……」
「そんな、私全く恨んでなどおりません。むしろ皇帝陛下もオスカー様も、私をあの逃げ場のない鳥かごから逃してくれた恩人です」
「そうでございましたか。その鳥かごでは出来なかったこと、これからこのお屋敷でこのばあやと一緒に叶えていきましょう」
「ばあや様……ありがとうございます! まぁ、なんて可愛らしいドレスなのでしょう!」
私は大きな姿見の前で、くるくると回ってみせる。
そのばあや様が仕立てて下さったドレスは、メイド服のように黒をベースとしているものの、上品さも可愛さも兼ね備えており、動きやすく苦しくもなかった。
腰についている大きな白いリボンが特にお気に入りになった。
「ええ、良くお似合いですよ。こちらで宜しければ色違いを何着かお作りしましょうか」
「良いですか!? ぜひ、お願い致します!」
私が嬉しくなってはにかむと、ばあや様もレベッカ様も優しく微笑んでくれた。
「ではフローラ様、お食事の準備ができておりますので、そちらへ向かいましょう」
「……はい」
“お食事”と聞いて、私はろくに食べられなかった日々を思い出す。
私にとってお食事の時間とは、熱いスープで火傷をさせられて、火傷をした箇所を強く擦られて、美味しそうな料理に香辛料をかけられ目の前で食べられなくなる。そういうものなんだ。
⸺⸺
お食事の席につくと、既にオスカー様が向かいに座って食べ始めていた。
「わぁぁ……美味しそうです……」
私は思わずよだれが出そうになるのを堪え、因縁のスープを口に運ぶ。
「ふぇ……美味しいです……」
ポロポロと、大粒の涙が溢れてしまった。私、このお屋敷に来てからこんなことばっかりだ。
「フローラ様……! レベッカ、料理長を呼んで来なさい」
ばあや様はそう言って優しく涙を拭ってくれる。
「はい、ただいま!」
涙が止まらないまま美味しそうなお肉を口に頬張ると、旨味が口いっぱいにジュワーっと広がり、更に涙が出てきてしまった。
「このお肉もすごく美味しいです……」
ばあや様の涙を拭いてくれる手が全然間に合っておらず、ボロボロと涙を流しながら次々に料理を口に運んでいった。
「バーバラ様、料理長、お連れしました!」
「料理長のジョージです! な、何か不手際がございましたでしょうか……えっ!?」
料理長のジョージ様は、私を見るなり口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「あなた様が作って下さったのですね……! どの料理も美味しくて美味しくて、涙も手も止まりません……!」
私が涙でぐちゃぐちゃの顔で満面の笑みを浮かべると、「このジョージ、光栄の極みでございます!」と言ってジョージ様も涙を流されていた。
私が出ていた料理をペロッと平らげると、オスカー様が私を見つめて呆然としていることに気が付いた。
しかも、彼の料理は私が席についたときから一切減っていなかった。
「オスカー様……? すみません、私、こんなはしたない食べ方でご迷惑でしたよね……!」
私がそう言うと、彼ははっと我に返っていた。
「いや、ぜひこれからもジョージの前で食べてやってくれ。何か食べたい物があれば、遠慮なくバーバラかジョージにでも言えばいい」
オスカー様はそう言って残っていた料理を再び食べ始めた。
「はい!」
それからと言うものの、私はお食事の時間が楽しみで楽しみで仕方がなくなってしまった。
お屋敷に帰ると再びたくさんの使用人に出迎えられ、オスカー様は一人で2階へ上がっていき、私はばあや様とレベッカ様に連れられて、自分の部屋へと戻った。
「皇帝陛下とお話はされましたか?」
ばあや様は私のドレスを脱がせながらそう尋ねてくる。
「はい、アーレンス城を攻めてきた時と違って、お優しそうな方でした」
「そうでしょう。あなた様の故郷を攻めたのも、何か相当の理由があってのこと。どうか皇帝陛下をお恨みになりませんよう……」
「そんな、私全く恨んでなどおりません。むしろ皇帝陛下もオスカー様も、私をあの逃げ場のない鳥かごから逃してくれた恩人です」
「そうでございましたか。その鳥かごでは出来なかったこと、これからこのお屋敷でこのばあやと一緒に叶えていきましょう」
「ばあや様……ありがとうございます! まぁ、なんて可愛らしいドレスなのでしょう!」
私は大きな姿見の前で、くるくると回ってみせる。
そのばあや様が仕立てて下さったドレスは、メイド服のように黒をベースとしているものの、上品さも可愛さも兼ね備えており、動きやすく苦しくもなかった。
腰についている大きな白いリボンが特にお気に入りになった。
「ええ、良くお似合いですよ。こちらで宜しければ色違いを何着かお作りしましょうか」
「良いですか!? ぜひ、お願い致します!」
私が嬉しくなってはにかむと、ばあや様もレベッカ様も優しく微笑んでくれた。
「ではフローラ様、お食事の準備ができておりますので、そちらへ向かいましょう」
「……はい」
“お食事”と聞いて、私はろくに食べられなかった日々を思い出す。
私にとってお食事の時間とは、熱いスープで火傷をさせられて、火傷をした箇所を強く擦られて、美味しそうな料理に香辛料をかけられ目の前で食べられなくなる。そういうものなんだ。
⸺⸺
お食事の席につくと、既にオスカー様が向かいに座って食べ始めていた。
「わぁぁ……美味しそうです……」
私は思わずよだれが出そうになるのを堪え、因縁のスープを口に運ぶ。
「ふぇ……美味しいです……」
ポロポロと、大粒の涙が溢れてしまった。私、このお屋敷に来てからこんなことばっかりだ。
「フローラ様……! レベッカ、料理長を呼んで来なさい」
ばあや様はそう言って優しく涙を拭ってくれる。
「はい、ただいま!」
涙が止まらないまま美味しそうなお肉を口に頬張ると、旨味が口いっぱいにジュワーっと広がり、更に涙が出てきてしまった。
「このお肉もすごく美味しいです……」
ばあや様の涙を拭いてくれる手が全然間に合っておらず、ボロボロと涙を流しながら次々に料理を口に運んでいった。
「バーバラ様、料理長、お連れしました!」
「料理長のジョージです! な、何か不手際がございましたでしょうか……えっ!?」
料理長のジョージ様は、私を見るなり口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「あなた様が作って下さったのですね……! どの料理も美味しくて美味しくて、涙も手も止まりません……!」
私が涙でぐちゃぐちゃの顔で満面の笑みを浮かべると、「このジョージ、光栄の極みでございます!」と言ってジョージ様も涙を流されていた。
私が出ていた料理をペロッと平らげると、オスカー様が私を見つめて呆然としていることに気が付いた。
しかも、彼の料理は私が席についたときから一切減っていなかった。
「オスカー様……? すみません、私、こんなはしたない食べ方でご迷惑でしたよね……!」
私がそう言うと、彼ははっと我に返っていた。
「いや、ぜひこれからもジョージの前で食べてやってくれ。何か食べたい物があれば、遠慮なくバーバラかジョージにでも言えばいい」
オスカー様はそう言って残っていた料理を再び食べ始めた。
「はい!」
それからと言うものの、私はお食事の時間が楽しみで楽しみで仕方がなくなってしまった。
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