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6話 オスカー様のお考え
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「現在オスカー様は、皇帝陛下のもとへ妻であるあなた様の名称をフローラ様であると訂正に向かわれています。エリーゼ様がいらっしゃる時には全くもって無関心であったため、このばあや、少し驚いておったのです」
「え、それでは……私がエリーゼお姉様ではなかったために、婚姻の取り消しを為さっているのではないのですか?」
「とんでもございません。むしろ、エリーゼ様でなくてフローラ様のままでいいと、今頃皇帝陛下へ進言なさっているはずです」
「そう、なのですね……なんだか夢のようで、信じられません……」
堪えていたはずなのに、嬉しさからか涙が溢れ出て来る。
「おやまぁ、フローラ様、いかがなさいましたか」
ばあや様はすぐにハンカチで涙を拭ってくれる。それでも、涙は止めどなく溢れてしまっていた。
「すみません……私、ここに居られるのが、嬉しいのです……」
「それはそれは、嬉しいお言葉をありがとうございます」
安心で胸が一杯になり、ここでオスカー様が戻られてこの部屋に入ってきたことなど、この時の私は全く気付いていなかった。
「私……こんなに皆さんに親切にしていただいたの生まれて初めてで……しかも、一度お会いして素敵だと思いお慕いしていた方の妻で居られるなど……そんな、そんな幸せなことがあって良いのでしょうか……」
「そうでございましたか。よしよし……困りましたね……この後お写真を撮るのですが……」
「お、お写真……?」
ハンカチで涙を拭いながら顔を上げると、ばあや様の少し後ろでオスカー様が真っ赤な顔で驚いているのを発見した。先程合ったときのローブとは違い、白のタキシードを着用していた。
彼は私と目が合うと、すぐにサッと視線を逸らした。
「オスカー様……!」
私がそう呼ぶと、ばあや様も驚いた顔で振り返っていた。
「オスカー様! おかえりなさいませ。気付かず申し訳ございません。お写真なのですが……少しお待ちいただいても……?」
と、ばあや様。
「……あ、あぁ、そうだな。落ち着いて出かけられるようになったらロビーへ来い」
「かしこまりました。オスカー様、良くお似合いですよ」
「ばあ……っ、バーバラ。俺への気遣いは無用だ。フローラを頼んだぞ」
「はい、かしこまりました」
ばあや様がそう返事をすると、オスカー様は部屋から出ていってしまった。
「オスカー様、素敵なお洋服を着られていました……」
私はポツンとそう呟く。
「ええ、ええ、本当に。あのオスカーぼっちゃまがご結婚をなさるなど……このばあやも涙が出てきてしまいそうです……」
「まぁ……大丈夫ですか?」
「ええ、お気遣いありがとうございます。オスカーぼっちゃまの奥様がフローラ様のような素敵なお方で、ぼっちゃまもあんなに前向きになられて、ばあやも幸せにございます。フローラ様、ありがとうございます」
「前向きに、ですか……?」
「ええ。これからフローラ様とぼっちゃまは、シュナイダー城で婚姻のお写真を撮られるのですよ。それをぼっちゃまがご自身で提案されたのです。それを前向きと言わずになんといいましょうか」
「オスカー様が……!? や、やっぱり私、信じられません……」
「とにかく一度お顔を洗って、お化粧を直しましょう。今は信じられなくても、だんだんと信じていただければこのばあやも嬉しく思います」
「分かりました。目、腫れてしまいました……回復薬で治りますでしょうか……」
「回復薬! フローラ様、それは良いお考えです。早速試してみましょう、さぁ、こちらへ」
「はい」
それからばあや様は戻ってきたレベッカ様と一緒に、私のお化粧をし直してくれた。
「え、それでは……私がエリーゼお姉様ではなかったために、婚姻の取り消しを為さっているのではないのですか?」
「とんでもございません。むしろ、エリーゼ様でなくてフローラ様のままでいいと、今頃皇帝陛下へ進言なさっているはずです」
「そう、なのですね……なんだか夢のようで、信じられません……」
堪えていたはずなのに、嬉しさからか涙が溢れ出て来る。
「おやまぁ、フローラ様、いかがなさいましたか」
ばあや様はすぐにハンカチで涙を拭ってくれる。それでも、涙は止めどなく溢れてしまっていた。
「すみません……私、ここに居られるのが、嬉しいのです……」
「それはそれは、嬉しいお言葉をありがとうございます」
安心で胸が一杯になり、ここでオスカー様が戻られてこの部屋に入ってきたことなど、この時の私は全く気付いていなかった。
「私……こんなに皆さんに親切にしていただいたの生まれて初めてで……しかも、一度お会いして素敵だと思いお慕いしていた方の妻で居られるなど……そんな、そんな幸せなことがあって良いのでしょうか……」
「そうでございましたか。よしよし……困りましたね……この後お写真を撮るのですが……」
「お、お写真……?」
ハンカチで涙を拭いながら顔を上げると、ばあや様の少し後ろでオスカー様が真っ赤な顔で驚いているのを発見した。先程合ったときのローブとは違い、白のタキシードを着用していた。
彼は私と目が合うと、すぐにサッと視線を逸らした。
「オスカー様……!」
私がそう呼ぶと、ばあや様も驚いた顔で振り返っていた。
「オスカー様! おかえりなさいませ。気付かず申し訳ございません。お写真なのですが……少しお待ちいただいても……?」
と、ばあや様。
「……あ、あぁ、そうだな。落ち着いて出かけられるようになったらロビーへ来い」
「かしこまりました。オスカー様、良くお似合いですよ」
「ばあ……っ、バーバラ。俺への気遣いは無用だ。フローラを頼んだぞ」
「はい、かしこまりました」
ばあや様がそう返事をすると、オスカー様は部屋から出ていってしまった。
「オスカー様、素敵なお洋服を着られていました……」
私はポツンとそう呟く。
「ええ、ええ、本当に。あのオスカーぼっちゃまがご結婚をなさるなど……このばあやも涙が出てきてしまいそうです……」
「まぁ……大丈夫ですか?」
「ええ、お気遣いありがとうございます。オスカーぼっちゃまの奥様がフローラ様のような素敵なお方で、ぼっちゃまもあんなに前向きになられて、ばあやも幸せにございます。フローラ様、ありがとうございます」
「前向きに、ですか……?」
「ええ。これからフローラ様とぼっちゃまは、シュナイダー城で婚姻のお写真を撮られるのですよ。それをぼっちゃまがご自身で提案されたのです。それを前向きと言わずになんといいましょうか」
「オスカー様が……!? や、やっぱり私、信じられません……」
「とにかく一度お顔を洗って、お化粧を直しましょう。今は信じられなくても、だんだんと信じていただければこのばあやも嬉しく思います」
「分かりました。目、腫れてしまいました……回復薬で治りますでしょうか……」
「回復薬! フローラ様、それは良いお考えです。早速試してみましょう、さぁ、こちらへ」
「はい」
それからばあや様は戻ってきたレベッカ様と一緒に、私のお化粧をし直してくれた。
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