5 / 35
5話 ばあや
しおりを挟む
「フローラ様、バーバラが参りました」
コンコンとノックされた後、そうご年配の方のゆったりとした声が聞こえてくる。
「はい」
私が返事をすると、すぐに優しそうなお婆さんと、レベッカ様が部屋へと入ってきた。
「初めましてフローラ様、本日よりあなた様のお世話をさせていただきますバーバラと申します。ぜひお気軽に“ばあや”とお呼びくださいませ」
「ばあや様……とお呼びすればいいのですね。よろしくお願い致します」
私は深く頭を下げる。
「おやまぁ……レベッカの申す通り、謙虚なお方ですね。オスカー様がわたくしめをご指名なさったこと、全てご理解致しました」
ばあや様はそう言って優しく微笑んでいた。何のことか分からず私がキョトンとしていると、ばあや様は再度口を開いた。
「ではフローラ様。いらして早々で申し訳ないのですが、お部屋を移動しましょう。ここは一般様の客間でございますので、公爵夫人用のお部屋へご案内致します」
「え、私がそんな奥様用のお部屋に移動しても良いのですか?」
「はい、もちろんでございます。お疲れでなければ、すぐにでも参りましょう。レベッカ、お荷物をお持ちしなさい」
「はい、バーバラ様」
私はばあや様についていき、公爵夫人の部屋へと案内された。
「うわぁ……もっと広くなりました……」
「こちらは生前のオスカー様の母君がご使用していたお部屋になります。寝室は奥の扉の向こうにございます」
「ありがとうございます……」
私は恐縮しながら中へと入り、ソファにちょこんと腰掛ける。
「オスカー様が戻られるまで、もう少しそのお綺麗なドレスでお待ち下さいませ。胸元がお苦しいでしょうが、今しばしご辛抱下さいませ」
ばあや様は、そう言って私の座っているソファの脇に立っていた。
「分かりました。こんな綺麗なドレスは初めて着たので、もう少し堪能します。ばあや様もレベッカ様も一緒にお待ちになるのであれば座ってください」
「なんとお気遣いいただきありがとうございます。それでは、失礼致します」
「失礼致します!」
ばあや様とレベッカ様は、私を挟むようにしてソファへと腰掛けた。
「フローラ様は、そのようなドレスは初めて着られたとのことですが、普段はどの様なお召し物を着られていましたか?」
と、ばあや様。
「えっと……ドレスはすぐに破れてしまうので、召使さんの着られるメイド服を着ておりました」
「なんと……そうでございましたか。それではこのばあやがフローラ様のためにメイド服のように動きやすいドレスを仕立てましょう」
「ばあや様、お洋服の仕立てができるのですか? すごいです! でも、私なんかのためにすみません……」
「このばあや、オスカー様が幼少期の頃から服を仕立てております、仕立て師にございます。どうかお任せ下さいませ」
「わぁ、すごいです。ありがとうございます!」
「それでは早速、採寸を致しましょう」
「はい、お願いします」
ばあや様とレベッカ様が手際良く採寸してくれる。
「フローラ様……かなりお痩せになっているようですね。食事はあまりお好きではありませんか?」
と、ばあや様。
「えっと……お食事は、好きです……でも、あまり食べられなくて……」
私がそう言って俯くと、ばあや様は採寸を終えて優しく微笑んでくれた。
「では、本日のご昼食は喉を通りやすい柔らかい物に致しましょう。レベッカ、厨房にそう伝えてきなさい」
「はい、おばあちゃ……あぁ、バーバラ様! かしこまりました!」
レベッカ様は慌ててそう言い直すと、急いで部屋から出ていった。
「全くあの子は……すみません。わたくしめの孫娘でございますが、何卒新米なもので……」
ばあや様はそう言ってゆっくりと頭を下げた。
「まぁ、お祖母様なのですね。えっと、お祖母様というのは、お母様のお母様で……えっと、お父様のお母様……?」
お祖母様という私には無縁の単語を、必死に理解しようとする。
「わたくしめはレベッカの父の母になります。フローラ様は、お祖母様がいらっしゃいませんでしたか?」
「はい、お母様も私を産んで亡くなってしまわれたので……」
「そうでございましたか……。オスカー様が必死になられるのも頷けますね」
「オスカー様が必死に……とは?」
「そうですね、あなた様をご安心させるためにもお話ししておきましょう」
ばあや様は、そう言って私の方へと向き直った。
コンコンとノックされた後、そうご年配の方のゆったりとした声が聞こえてくる。
「はい」
私が返事をすると、すぐに優しそうなお婆さんと、レベッカ様が部屋へと入ってきた。
「初めましてフローラ様、本日よりあなた様のお世話をさせていただきますバーバラと申します。ぜひお気軽に“ばあや”とお呼びくださいませ」
「ばあや様……とお呼びすればいいのですね。よろしくお願い致します」
私は深く頭を下げる。
「おやまぁ……レベッカの申す通り、謙虚なお方ですね。オスカー様がわたくしめをご指名なさったこと、全てご理解致しました」
ばあや様はそう言って優しく微笑んでいた。何のことか分からず私がキョトンとしていると、ばあや様は再度口を開いた。
「ではフローラ様。いらして早々で申し訳ないのですが、お部屋を移動しましょう。ここは一般様の客間でございますので、公爵夫人用のお部屋へご案内致します」
「え、私がそんな奥様用のお部屋に移動しても良いのですか?」
「はい、もちろんでございます。お疲れでなければ、すぐにでも参りましょう。レベッカ、お荷物をお持ちしなさい」
「はい、バーバラ様」
私はばあや様についていき、公爵夫人の部屋へと案内された。
「うわぁ……もっと広くなりました……」
「こちらは生前のオスカー様の母君がご使用していたお部屋になります。寝室は奥の扉の向こうにございます」
「ありがとうございます……」
私は恐縮しながら中へと入り、ソファにちょこんと腰掛ける。
「オスカー様が戻られるまで、もう少しそのお綺麗なドレスでお待ち下さいませ。胸元がお苦しいでしょうが、今しばしご辛抱下さいませ」
ばあや様は、そう言って私の座っているソファの脇に立っていた。
「分かりました。こんな綺麗なドレスは初めて着たので、もう少し堪能します。ばあや様もレベッカ様も一緒にお待ちになるのであれば座ってください」
「なんとお気遣いいただきありがとうございます。それでは、失礼致します」
「失礼致します!」
ばあや様とレベッカ様は、私を挟むようにしてソファへと腰掛けた。
「フローラ様は、そのようなドレスは初めて着られたとのことですが、普段はどの様なお召し物を着られていましたか?」
と、ばあや様。
「えっと……ドレスはすぐに破れてしまうので、召使さんの着られるメイド服を着ておりました」
「なんと……そうでございましたか。それではこのばあやがフローラ様のためにメイド服のように動きやすいドレスを仕立てましょう」
「ばあや様、お洋服の仕立てができるのですか? すごいです! でも、私なんかのためにすみません……」
「このばあや、オスカー様が幼少期の頃から服を仕立てております、仕立て師にございます。どうかお任せ下さいませ」
「わぁ、すごいです。ありがとうございます!」
「それでは早速、採寸を致しましょう」
「はい、お願いします」
ばあや様とレベッカ様が手際良く採寸してくれる。
「フローラ様……かなりお痩せになっているようですね。食事はあまりお好きではありませんか?」
と、ばあや様。
「えっと……お食事は、好きです……でも、あまり食べられなくて……」
私がそう言って俯くと、ばあや様は採寸を終えて優しく微笑んでくれた。
「では、本日のご昼食は喉を通りやすい柔らかい物に致しましょう。レベッカ、厨房にそう伝えてきなさい」
「はい、おばあちゃ……あぁ、バーバラ様! かしこまりました!」
レベッカ様は慌ててそう言い直すと、急いで部屋から出ていった。
「全くあの子は……すみません。わたくしめの孫娘でございますが、何卒新米なもので……」
ばあや様はそう言ってゆっくりと頭を下げた。
「まぁ、お祖母様なのですね。えっと、お祖母様というのは、お母様のお母様で……えっと、お父様のお母様……?」
お祖母様という私には無縁の単語を、必死に理解しようとする。
「わたくしめはレベッカの父の母になります。フローラ様は、お祖母様がいらっしゃいませんでしたか?」
「はい、お母様も私を産んで亡くなってしまわれたので……」
「そうでございましたか……。オスカー様が必死になられるのも頷けますね」
「オスカー様が必死に……とは?」
「そうですね、あなた様をご安心させるためにもお話ししておきましょう」
ばあや様は、そう言って私の方へと向き直った。
38
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる