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28話 黒幕の過去

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⸺⸺諸国会議室⸺⸺

「おお! ユカリ! 来てくれたのだな!」
「国王さま!」

 私たちがその部屋に入るなり、フォーリア国王がユカリをキツく抱きしめた。
 近隣諸国の権力者たちは一斉にざわつき始める。

「もうユカリに触れても大丈夫だな」
 と、国王陛下。首を傾げるユカリ。
「触っちゃいけなかったの?」

「愛する女性に触れない呪いをかけられていたからね」
「! 国王さま、ユカリのこと愛してた?」

「もちろんだよ。私だけじゃない、妻も、君のことを心から愛していた」
「じゃぁなんで王妃さま来てくれなくなったの?」

「君を嫉妬させないためだよ。でも逆に寂しい思いをさせてしまったんだね。すまなかったね」
「うわぁぁぁん、国王さま、ごめんなさい……!」
「よしよし、もう大丈夫だからね。それよりも、みんなを治してくれてありがとうね」
「うん……!」

「フォーリア国王よ、そろそろ続きをいいかね」
 どこかの国の偉そうなちょび髭のおじさんがそう口を挟む。

「サルジーナ国王、申し訳ない。続きを話そう。お前たちもそこに座って聞いていきなさい」

 私たちはうなずくと、空いている席へと腰を下ろした。

 フォーリア国王は衝撃の事実を口にする。
「バルド宰相は……30年前に私が召喚した召喚者なのだ」

「えっ!?」
 思わず声が出て、うるさくしてはならないと私はすぐに口を手で塞いだ。
 しかし皆驚きの反応を見せていて、思いっ切り叫んじゃっても良かったなと少しだけ後悔した。

「私と妻はなかなか子を授かることができず、古い書物に召喚者の特別なスキルがあれば可能になるかもしれないと書いてあり、魔道の心得のあった私はわらにも縋る思いで彼を召喚した」

 フォーリア国王はここで一息つく。鎖で繋がれたバルド宰相は無表情で国王を睨んでいた。

「しかし彼を召喚したものの、スキルを測る技術がなく、彼が自分自身のスキルを把握していない以上、どうすることもできなかった。彼には勝手に呼び出した挙句、意味のないものになってしまったせめてもの償いで、宰相の地位についてもらうこととなった。それから私と妻は、もう召喚に手を出すのはやめようと心に誓ったのだ」

「ではなぜ20年前にも召喚を行ったのだ?」
 と、サルジーナ国王。

「バルド宰相が昔私の使っていた召喚魔法陣で召喚を行ったのだ」

「彼が行ったのか。ではなぜ当時それを言わずに自身の行いだとしたのだ」
 別の優しそうなおじさんがそう尋ねる。

「ステリア国王よ。私は単純に彼を庇ったのだ。彼を呼び出してしまった罪悪感から、彼を裏切ることは私にはできなかった……」
 フォーリア国王がそう答えると、黙っていたバルド宰相が口を開いた。

「お前は私を裏切ったではないか! 私が自分のスキルを使ってなんとか王妃に子を授けてあげられないかと……10年も研究したというのに……。王妃は私の力なぞ借りなくとも自力で懐妊した……!」

「私は彼がそのような研究をしていたなど知らずに、こちらはこちらで治療してしまっていたのだ……。そして20年前、妻はドムを身ごもった。その頃からだった、彼がおかしくなっていったのは……」

「まさか、その逆恨みでユカリ殿を召喚したというのか?」
 ステリア国王がバルド宰相へと尋ねる。

「逆恨みとは心外だな。私は10年も頑張ったというのに、誰にも気付いてもらえず、気付けばあの国王が幸せそうに笑っていた。私の気も知らないで、自分だけ解決したような顔をしやがって……」

「その研究のことはなぜフォーリア国王へ話さなかった?」
 ステリア国王が再び尋ねる。

「普通気付くだろ!? 召喚してしまったと罪悪感を感じて私を大切に思っているのなら! 今どこで何をしてたんだ、くらい聞くだろ!? そうすれば私だって打ち明けたさ。けどあいつは私がどこで何をしていても、“今日も国のために頑張ってくれてありがとう”しか言わないんだ。国じゃない、お前のために頑張っていたのに!」

「私はこんなガキなおっさんに利用されていたのか……」
 彼の隣でドム王子がそう言ってはぁっとため息をついていた。
「私がガキだと!? ガキの分際で調子に乗るなよ童貞青二才が!」
 子供のようにムキになるバルド宰相おじさん。

 ここでサルジーナ国王がバンッと机を叩く。
「バルドよ。それを逆恨みと言うのだよ。そんなくだらない逆恨みで召喚を行い、召喚者へ自身のスキルを使って体の自由を奪い、ローレンツ王都を滅ぼしたこと。貴様は万死に値するぞ」

 近隣諸国の権力者たちは、皆揃ってうなずいた。


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