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最終章 刻の軌跡

208話 帝都突入

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 ヴァース暦1685年4月6日早朝。
 数隻の魔導船がスティバン帝国のソルテ港周辺の海域に留まっていた。

⸺⸺9時。

 結界が消えていき、ジン隊らが予定通りサクルム霊廟の結界を破壊出来た事が予想された。
 魔導船は一斉にソルテ港の船着き場へと侵入し、続々と人が降りてくる。そのソルテ港の黒い気の濃さに、彼らは思わず手で口元を押さえた。

⸺⸺白の領域⸺⸺

 各隊の聖霊らが一斉に白の領域を広げ各々の隊員を守る。
 そして、黒魔症の人々の中に混在している魔物を見て、ハミルトン卿が口を開いた。
「他の魔物とはオーラが違うようだ。あれが暗黒種というものなのか」
「そうだ。武器を改良しておいて良かったな」
 と、クロノ。ホプキンズ卿が頷き答える。
「あなた方が居なければ結界を壊して中に入れたとしてもここで詰んでいましたね」

 ハミルトン卿も頷き、大きな声で皆へ呼びかけた。
「予定通りまずは港の結界を復活させる。黒魔症の人々は浄化を、暗黒種の魔物は聖なる武器で殲滅を。各々行動を開始してくれ!」

 解放軍の皆は元気良く雄叫びを上げ、魔物の討伐を開始した。

⸺⸺

 ミオや聖霊らが黒魔症の人々を浄化する度に周りからは歓声が上がった。
 そして、正気を取り戻して呆然としている帝都民らは次々に魔導船内の救護室に運ばれていく。カリスやアンネリーゼらもいきなり大忙しであった。

 やがて港の結界が復活し、後方支援部隊により港のあちこちにテントが設営されていく。
 黒魔症から解放された人々らも飲み込みの早い人は既にテントの運営に参加していた。

 順調に各隊がそれぞれの持ち場へ散っていったのを見て、ハミルトン卿は感慨深くなっていた。
「初めは帝都を捨てる覚悟でいたのを覚えているか、アベル……」
「もちろんですよ。あの頃はまさか黒魔症の人を治すことができるなんて思ってもいませんでした。ルフスレーヴェのおかげでここまで来ることができましたね」

「あぁ。ルフスレーヴェももちろんだが、彼らの助けに、と集ってくれた多種多様な人々の助けも大きい。我々の“ヒュナム至上主義”と言う昔からの考え方が、いかにくだらないものかを、思い知らされたよ」
「ええ、その通りですね。これを機に国は変わるべきです。種族も身分も、全部を見直す時なのでしょう」
「そうだな……さて、今の所問題はなさそうだ。我々も行動しよう」
「はい、ルドルフ。行きましょう」

 ハミルトン卿とホプキンズ卿は自らも武器を取り、港周辺で陣地を広げるエルヴィス隊に加勢した。


⸺⸺帝都下層、ダウンタウン⸺⸺

 海底トンネルからダウンタウンの南側へ侵入したケヴィン隊とチャド隊は東西に分かれて侵攻していった。

 東側ケヴィン隊。エルフらの魔法によって黒魔症の人々が拘束され、ティニーのもとへと運ばれていく。
 そして帝都民がいなくなりその辺一帯が魔物のみになると、魔法生物のカカシさん、ライオンさん、そして兵隊さんが前へと出た。隊長であるケヴィンはちっちゃい隊員らのとてつもない破壊力に圧倒されることとなる。

⸺⸺地属性上級魔法⸺⸺

「グランドティエラ!」
 カカシさんが魔法を放つと、あちこちの地面から岩が突き上がり、魔物を串刺しにしていく。

⸺⸺水属性上級魔法⸺⸺

「フォンティス!」
 次にライオンさんが魔法を放ち、魔物がたちまち洪水に飲まれていく。

⸺⸺風属性上級魔法⸺⸺

「ブラストバーン!」
 最後にカカシさんが魔法を放ち、残った魔物は跡形もなく消え去っていった。

「……マジなの?」
 ケヴィンは引き気味の反応をする。そんな彼の表情を見たオベロンが笑いながら補足をする。
「はは。彼ら強いだろう。魔法生物は魔力の塊だから魔法覚えたら強いんじゃないかと思って教えてみたんだ。通常長い静唱がいる上級魔法もこの通りノータイムで撃ち放題さ」
「あ、そうですか……」

⸺⸺

 ダウンタウンもあっという間に制圧が完了し、サクルム島から向かってきていたジン隊とも合流を果たし、下層組も帝都の上層へと上がった。

 彼らが上層に来る頃にはほとんどの場所で町の結界機能が復活しており、黒い気の発生も押えられて順調そうに見えたが……。

「なんなんだ、あのでっかい竜……」
 スティバン城の前にそびえ立ち、動かずに威嚇を続ける巨竜を見上げて、ジンがポツンとそう呟いた。
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