上 下
198 / 228
第十一章 精神世界

198話 大切

しおりを挟む
「えーっ!? 未来の異世界から私を助けに!?」

 俺はここへ来た目的を正直に全て話した。ミオは終始そんな反応で、いつかコーヒーカップを倒すんじゃないかとヒヤヒヤさせられた。
『どうせ忘れちゃうからな。確かに話しちゃうのはありかもしれないけど……変な人だと思われそう……』

「まぁ、信じらんねぇよな……わりぃ、忘れてくれていい」
 俺がそう言うと、ミオは力強い瞳ですぐにこう返してくれた。
「いえ、信じます! だって、目、赤いし、なんか不思議にもわもわってしたオーラを放っているような……気がして……。私も変ですね、すみません……」

「いや、魔力を感じ取っているんだろう。どうだ、そのもわもわってのはもっと大きくなったか?」
 俺は自分の魔力を抑えるのを少しだけやめてみる。すると、ミオは俺の周りを驚いた表情でキョロキョロと見て明らかに何かが見えているようだった。

「わわわわ……! お、大きくなりました……!」
 ミオは目をパチクリとしている。そんな表情を見て、思わずふっと吹き出してしまった。
「元気になったみてぇだな」

 ミオは「あっ」と声を上げる。
「そんな事もうとっくに忘れちゃってました。それに、今そうやって言われても、もう振られた事とかどうでもよくなっちゃってるや」
 ミオはえへへっと笑ってコーヒーを飲み干す。
 俺も微笑み返しコーヒーを飲み終えると、ミオは2人分のコーヒーカップを持ってキッチンへ行き、洗い物を始める。
 カウンターの向こうに見えるミオはじっと一点を見つめ、何か考え込んでいるようだった。

 そして、ミオはポツンと呟いた。
「おばあちゃん以外に、そんな身体を張って守ろうって思える人がいるなんて、ビックリだなぁ……」
「そう、なのか?」
「うん、だって……元カレとまだお付き合いしていたとして、目の前に刃物を持った人が走ってきて元カレを刺そうとしても……多分私はかばわないと思う。でもそれがおばあちゃんだったら、絶対守ろうって思えるから……」

『つまりミオちゃんの中でクロノは、元カレよりも上の存在だと……』

「学校は……つまんねぇか?」
「うん……でも、おばあちゃんには心配をかけたくないから、楽しいって事にしておいてもらえませんか?」
「それは構わねぇが……今お前は17だったよな……」
「うん」
「……俺の17の頃と考えがそっくりだ。思えばお前の事、知っているようで何も知らなかったんだな、俺は……」

 きっとミオがルフレヴェの皆の気持ちに寄り添えたのは、誰よりもミオ自身が寂しい事を知っていたからなんだ。
 身体を張って守ろうと思えるほど大切なおばあちゃんには心配かけまいとその事を相談できずに、ずっと一人で寂しい気持ちを抱え込んできた。
 俺も、その気持ちは良く分かる。

「黒野さんも学校つまらなかったの? 居場所……なかった?」
「そうだな、島にいた頃に通っていた学校はつまらなかったし、居場所もなかった。目、赤いだろ? 悪魔が住んでるって島の奴らには言われていたんだ」

「悪魔!? ……いないよ、どこにも」
 ミオはそう言って俺の瞳をじっと覗き込んできた。そう、ミオならそう言ってくれると思った。
「そっか、それなら良かった……」
 だからこそ、俺も……。

「なぁ、ミオ。お前にはもう少し寂しい思いをさせる事になる。けど、俺らのところに来てからは、そんな思いはさせねぇって約束する。だから、もう少しだけ頑張ってくれ」

「……みんな黒野さんみたいに良い人なんですか?」
「俺みたいかどうかは分からねぇが、皆良い奴だ。少なくともこっちに来てからのお前は幸せそうに見えた。俺も、皆も……そんなお前の事を、心から大切に思ってる」
 俺がそう言うと、大粒の涙がキッチンへポタポタとこぼれ落ちた。

「あっ、ごめんなさい……そんな事言われたの初めてで……」
 慌てて制服の袖で涙を拭うミオ。気付いたら俺はキッチンへと向かい、そんなミオのことを強く抱き締めていた。

「大丈夫だ、お前はひとりじゃない」
「うん……」

 抱き合ってミオを慰めていると、ふと真後ろの気配に気付く。
『ありゃ、気付いてなかったんだ……』

「あらあら、こりゃおばあちゃんお邪魔虫だったね……」
 慌てて振り返ると、帰宅したおばあちゃんが口元を手で抑えて目をパチパチとさせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」 世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。 ”人類”と”魔族” 生存圏を争って日夜争いを続けている。 しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。 トレジャーハンターその名はラルフ。 夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。 そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く 欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、 世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...