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第九章 人魚姫と刻の解放

157話 浮気の末の緊急事態

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 ダリアは語る。
「実は私、召喚されたのはヴァルハイムじゃなくて、この真下にある人魚の町なの」
「え!? 人魚の町って本当にあるの!?」
 ミオは目をキラキラと輝かせ、そんな彼女を見たエルヴィスは「良かったね」と笑っていた。

「あるわよ。その町から行ける海底神殿にアルバウスがあるの。最初はそこで大人しく待っていたんだけど、人魚が迎えに行かないと町に入れないから、そろそろかと思って地上に上がってきたのよ」

『町に入れないって、何で?』
 と、ポール。
「うん。人魚の町は酸素を閉じ込める特殊な結界で覆われているし、外からは見えないようにカモフラージュされてるから、外からの侵入は不可能なの。町に入る唯一の方法は人魚の特殊な魔力で転送魔法陣を起動させること。それで、この姿でもできるかやってみたんだけど……魔法陣が出せなくなっちゃってるの」
 ダリアはそう言って涙ぐむ。

『なるほど……。つまり、アンネリーゼを助けても彼女が許してくれない限り、その町に入れないと……』
「そう言う事です……」
 ポールとダリアは揃って落ち込む。

 ここでケヴィンがある事に気付く。
「なぁ、クリストフ殿下がカエルである事には何か支障があんのか?」
「ないわね」
 ダリアは即答する。

「そんな! この僕の美貌が見れないのは皆にとってなんと辛い事か……!」
「あなたは少しその姿で反省なさい」
 と、コルネリア。
「ガーン……!」
 クリストフは膝を突いて魂が抜けたように白目を剥いていた。

 呆れ顔で黙って聞いていたクロノがため息を吐き、口を開く。
「……そのカエルは放っておくとして、マキナを捜していたのはなぜだ?」

 その問いに対しアウグストが答える。
「うむ。クラン支部からの報告によると、その暗黒種の魔物は出現後一目散にベルトラム公爵の屋敷に向かい、庭に居座っているとのことだ。どうやらその魔物はマキナに恨みを持っているようで、それに気付いたアンネリーゼは屋敷に籠城をする事で、町への被害を防いでおるのだ」

「めちゃんこ良い子じゃない」
 と、エルヴィス。
「俺らの事も危ないからって気遣ってたぜ」

 アウグストは大きく頷く。
「左様。アンネリーゼは心優しい子なのだ。ダリアをクラニオの姿にしてしまったのも、まさかダリアがそんな使命を抱えておるなど知らぬ故。話せばきっと分かってくれる」

「それで、ミオが来る前に腕の立つマキナを捜して、暗黒種の魔物を遠くの森へおびき寄せてもらって、そこに結界で閉じ込めようと思ってたの。それで自由になったアンネリーゼと和解して、人魚の姿に戻ってミオを待つ……つもりだったんだけど……」
 と、ダリアが付け加えた。

「なるほどな、その依頼を引き受けてくれるマキナを見つける前にミオの方が先に合流をしてしまった、と」
 そう言うクロノに対しダリアは「仰る通りでございます」と返事を返した。

「話せば分かるんなら話は早い。暗黒種を討伐すれば済む話だ。何もミオを囮にする必要はねぇな。ウチのクランの奴なら誰でも出来る依頼だ」
「誰でも? ミオ以外に暗黒の核を破裂させずに倒せる人がいるの?」
 ダリアは目をパチクリさせながら問う。

「お前なら感じ取れるんじゃねぇか? この国綱の気配、それから……ケヴィンやエルヴィスの腕輪に込められている魔力……」
 クロノがそう言いかけると、ダリアはハッとする。
「ミオの魔力……! そっか、暗黒はもう攻略済みなんだ。なら早く、アンネリーゼの家族を助けてあげましょう!」

 こうしてルフレヴェはダリアとコルネリアを連れて、ベルトラム公爵の屋敷へと向かう事となった。
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