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第五章 欲望渦巻くレユアン島
95話 剥がれる偽善の仮面
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フランツは講演を進めていく。
「ではまず、こちらをお聞きください」
フランツのその合図で、裏方のミオはポチッとスイッチを入れる。
『私はそろそろあのエーベルとかいう商会で偉そうに胡座をかいているチビデブをこの世から消し去りたいのだよ』
先程のアルノーの挨拶と同一の人物の衝撃の音声が流れ、会場は一気にざわつく。
「は……!? な、何だこれは……」
アルノーは顔を真っ青にして固まっていた。
ミオは観客のざわめきに負けないよう、音量のレバーをグッと“大”の方向へと押した。
『ディザイア様、それは、あなたの父君のように暗殺するということでしょうか……』
「ディザイア……!?」
「それって確か裏組織の“幻想”の?」
ざわつく観客。
『それ以外に何があると言うのだ? あのエルマーとかいうクソ親父の元へ、あのチビデブも送ってやるのだ。くっくっくっく……』
「エルマー・ブランシャール氏……前ブランシャール商会の会長で、アルノー氏の父親だ……」
と、観客。
ここでカリスがスイッチを押す。
『作戦はこうだ。私は12月5日にレユアンで商会会長らの講演会を開く。その時にあのチビデブが講演中にスナイパーに撃ち殺されるという衝撃の出来事が起こる。会場がパニックになる中スナイパーが顔を出し、トリトン商会の会長に命じられ逆らうことができませんでした! と土下座をする。そこへ駆け付けた私がそのスナイパーを射殺、3番手のトリトン商会も蹴落とし、我がブランシャール商会がトップに上り詰めるという訳だ!』
ここでその商会の3番手のトリトン商会の会長がステージへと上がってくる。
「これは一体どういうことかねアルノー君」
「あわ……あわわわ……」
アルノーは白目を向いてステージに膝をついた。
音声の再生はまだ終わらない。
『スナイパーを射殺って……我ら“幻想”のメンバーを1人犠牲にするということですか!?』
『そんな訳がないだろう。銃声音だけでその場に倒れて血糊を撒いてくれればそれでいい。お前たちは皆私の大切な家族なのだ。殺すわけがない』
『そ、そうですよね! ディザイア様がそんなことするはずがないですね!』
『あぁ。だから当日はお前、水無月がスナイパーをやってくれ。お前の射撃の腕を見込んでの頼みなのだ』
『はい、ディザイア様のためなら……エーベル商会の会長でも誰でも射殺してみせましょう!』
『頼りにしているぞ。では、下がっていい』
『はい、失礼致します』
『ガチャッ』
『くくくっ。本当にあいつも射殺してしまえばこの事実を知るのは私だけ……』
ここで、チャドがそのスナイパー役の水無月を連れてステージに上がってくる。
「お、お前は……水無月……」
アルノーはガクガクと震えながら声を漏らす。
水無月は、ただただ何も言わずにアルノーを睨んでいた。
そして最後に、ミリィがスイッチを入れる。
『私の商会の奴らは一切気付いていないよ。まさかこの別荘の地下が“幻想”のアジトと繋がっているなんてなぁ』
それは、クライヴがアルノー宅で流したものと同じ音声だった。
『アルノー様……どうかお助けください……』
『黙れ! 商品にしゃべる価値などない。貴様らはそこで研究所にでも売れるのを待っているんだな!』
『ガンッ、ガンガンッ』
『ひぃぃぃ……』
ここで、アルノー宅のメイドの1人がステージへと上がってくる。
「私はブランシャール別荘のメイドです。この音声の通り、立入禁止の地下室にはたくさんの牢が並び、その中には大勢の人が監禁されていました。今は、エーベル商会様のお力を借りて、全員エーベル商会様の客船で保護してもらっています……」
彼女はそう言うと、一礼してステージから降りていった。
ここで、フランツが口を開く。
「ちなみに、ここにいる水無月という彼がわたくしの射殺をするはずだったスナイパーです。彼はアルノー氏の洗脳から覚め、改心して思いとどまってくれたために、わたくしが本日射殺されることはございませんので、どうかご安心ください」
観客の安堵の吐息が会場に響き渡る。
「この音声の事実をどう受け止めるか、それを皆様にご判断いただきたく、本日は流させてもらいました。以上、予告していた内容とは大幅に変更を行ってしまいましたが、わたくしの講演はこれにて終了とさせていただきます」
ここで会場はより一層ざわつき、駆けつけていたたくさんの記者たちは皆ものすごい勢いでメモを取っていた。
「ひぃ……ひぃぃぃぃ~」
アルノーは抜かした腰もそのままに、ステージから這うように出て行った。
「おっ、捕まえる?」
と、チャド。
「放っておけ。もうこうなった以上、何処へ行っても地獄しか待ってねぇ」
クロノがエーベル商会の帽子を脱ぎ捨てながらそう言った。
そしてこの騒ぎの中、講演会が継続されるはずもなく、会はこれでお開きとなった。
フランツは講演ができなかった商会の会長らに深く頭を下げに行ったが、皆口を揃えて「それよりももっとすごいものを見せてもらったし、フランツ氏が無事で本当に良かった」と彼をフォローしていた。
また、危うくアルノーに罪を擦られるところだったトリトン氏には大いに感謝されており、これからも共に商会を盛り上げていこうと固く結託した。
「ではまず、こちらをお聞きください」
フランツのその合図で、裏方のミオはポチッとスイッチを入れる。
『私はそろそろあのエーベルとかいう商会で偉そうに胡座をかいているチビデブをこの世から消し去りたいのだよ』
先程のアルノーの挨拶と同一の人物の衝撃の音声が流れ、会場は一気にざわつく。
「は……!? な、何だこれは……」
アルノーは顔を真っ青にして固まっていた。
ミオは観客のざわめきに負けないよう、音量のレバーをグッと“大”の方向へと押した。
『ディザイア様、それは、あなたの父君のように暗殺するということでしょうか……』
「ディザイア……!?」
「それって確か裏組織の“幻想”の?」
ざわつく観客。
『それ以外に何があると言うのだ? あのエルマーとかいうクソ親父の元へ、あのチビデブも送ってやるのだ。くっくっくっく……』
「エルマー・ブランシャール氏……前ブランシャール商会の会長で、アルノー氏の父親だ……」
と、観客。
ここでカリスがスイッチを押す。
『作戦はこうだ。私は12月5日にレユアンで商会会長らの講演会を開く。その時にあのチビデブが講演中にスナイパーに撃ち殺されるという衝撃の出来事が起こる。会場がパニックになる中スナイパーが顔を出し、トリトン商会の会長に命じられ逆らうことができませんでした! と土下座をする。そこへ駆け付けた私がそのスナイパーを射殺、3番手のトリトン商会も蹴落とし、我がブランシャール商会がトップに上り詰めるという訳だ!』
ここでその商会の3番手のトリトン商会の会長がステージへと上がってくる。
「これは一体どういうことかねアルノー君」
「あわ……あわわわ……」
アルノーは白目を向いてステージに膝をついた。
音声の再生はまだ終わらない。
『スナイパーを射殺って……我ら“幻想”のメンバーを1人犠牲にするということですか!?』
『そんな訳がないだろう。銃声音だけでその場に倒れて血糊を撒いてくれればそれでいい。お前たちは皆私の大切な家族なのだ。殺すわけがない』
『そ、そうですよね! ディザイア様がそんなことするはずがないですね!』
『あぁ。だから当日はお前、水無月がスナイパーをやってくれ。お前の射撃の腕を見込んでの頼みなのだ』
『はい、ディザイア様のためなら……エーベル商会の会長でも誰でも射殺してみせましょう!』
『頼りにしているぞ。では、下がっていい』
『はい、失礼致します』
『ガチャッ』
『くくくっ。本当にあいつも射殺してしまえばこの事実を知るのは私だけ……』
ここで、チャドがそのスナイパー役の水無月を連れてステージに上がってくる。
「お、お前は……水無月……」
アルノーはガクガクと震えながら声を漏らす。
水無月は、ただただ何も言わずにアルノーを睨んでいた。
そして最後に、ミリィがスイッチを入れる。
『私の商会の奴らは一切気付いていないよ。まさかこの別荘の地下が“幻想”のアジトと繋がっているなんてなぁ』
それは、クライヴがアルノー宅で流したものと同じ音声だった。
『アルノー様……どうかお助けください……』
『黙れ! 商品にしゃべる価値などない。貴様らはそこで研究所にでも売れるのを待っているんだな!』
『ガンッ、ガンガンッ』
『ひぃぃぃ……』
ここで、アルノー宅のメイドの1人がステージへと上がってくる。
「私はブランシャール別荘のメイドです。この音声の通り、立入禁止の地下室にはたくさんの牢が並び、その中には大勢の人が監禁されていました。今は、エーベル商会様のお力を借りて、全員エーベル商会様の客船で保護してもらっています……」
彼女はそう言うと、一礼してステージから降りていった。
ここで、フランツが口を開く。
「ちなみに、ここにいる水無月という彼がわたくしの射殺をするはずだったスナイパーです。彼はアルノー氏の洗脳から覚め、改心して思いとどまってくれたために、わたくしが本日射殺されることはございませんので、どうかご安心ください」
観客の安堵の吐息が会場に響き渡る。
「この音声の事実をどう受け止めるか、それを皆様にご判断いただきたく、本日は流させてもらいました。以上、予告していた内容とは大幅に変更を行ってしまいましたが、わたくしの講演はこれにて終了とさせていただきます」
ここで会場はより一層ざわつき、駆けつけていたたくさんの記者たちは皆ものすごい勢いでメモを取っていた。
「ひぃ……ひぃぃぃぃ~」
アルノーは抜かした腰もそのままに、ステージから這うように出て行った。
「おっ、捕まえる?」
と、チャド。
「放っておけ。もうこうなった以上、何処へ行っても地獄しか待ってねぇ」
クロノがエーベル商会の帽子を脱ぎ捨てながらそう言った。
そしてこの騒ぎの中、講演会が継続されるはずもなく、会はこれでお開きとなった。
フランツは講演ができなかった商会の会長らに深く頭を下げに行ったが、皆口を揃えて「それよりももっとすごいものを見せてもらったし、フランツ氏が無事で本当に良かった」と彼をフォローしていた。
また、危うくアルノーに罪を擦られるところだったトリトン氏には大いに感謝されており、これからも共に商会を盛り上げていこうと固く結託した。
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