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第五章 欲望渦巻くレユアン島

85話 冷静に

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 クロノらはポールを拾い、公共トイレの洗面台でバシャバシャと洗い、固く絞る。

 まだアルノーに思いっきり踏まれた分の足跡と泥臭いニオイが残ったが、後はミオに何とかしてもらうことになった。

 そして彼らは人気のない東の方へと移動して、ポールから簡潔に一部始終を聞く。


「嘘だろ……おっさんが……」
「相当思い詰めてたんだね……」
 ケヴィンとチャドが動揺を見せる中、クロノは少し考え冷静に判断する。

「……ここでぐだぐだ言ってても仕方がねぇ。今は2人を助け出す、そのことだけ考えるぞ」

「せやなぁ。ふた手に分かれた方がよさそうやね」
 と、フランツ。


「俺とチャドはポールを連れて、ミオを探して助け出す。ケヴィンとクライヴは森の北東へエルヴィスを探しに行ってくれ」
「了解」
 3人とも短く返事をする。

「あくまでも今回の目的は2人の救出だ。なるべく“幻想”との交戦は避けろ。エルヴィスはとても無傷だとは思えない。時間が惜しい。一刻も早く2人を助け、ミオにエルヴィスの回復をさせる」
「了解」

 ここでケヴィンが質問をする。
「相手が少数だった場合は、後をつけられないためにも仕留めていいか?」
「構わない。そこはお前の判断を尊重する」
「うっす」


「ほんならワシもレーヴェ号にウチの救護班連れてお邪魔しときますわ。もしエルヴィスはんの方が早かったら、応急処置だけでもしときます」

「あぁ、フランツ助かる。これ、船の鍵だ」
 クロノはカードキーのようなものをフランツへと手渡す。

「おおきに。ほんならワシも、これをチャドはんに託しましょか」
「うん?」
 チャドはフランツから何やら説明を受け、小さな装置を受け取っていた。


 そして一同は一斉に3方向へと散っていく。それぞれの責務を果たすために。

⸺⸺

 フランツは急いで自身の乗ってきた豪華商船へと戻り、医務室へと飛び込んだ。
「事件や、ちょい手伝って欲しいねんけど!」

 そこにいたのは杖を構え、背中から小さな羽を生やした小人、エルフ族の女性と、白衣に見を包んだダイナマイトボディのウサ耳、クルス族の女性であった。

「なぁに、フランちゃん、もう死んだの?」
 クルス族の女性がもったりと言う。

「カリスさん、会長はまだ生きてますよっ」
 エルフ族の女性は一生懸命にツッコむ。それに対しフランツは、いつもは乗る冗談も今ばかりはスルーした。


「カリスはん、ミリィはん、ホンマ悪いねんけど、ホンマもんの一大事やねん。今すぐ医療道具一式持って、ワシに付いてきてほしいんや。詳しい説明は道中でするで」

 フランツがそう言うと、だらんと足を組んで座っていたクルス族のカリスは、人が変わったようにピシッとえりを正した。


「すぐ用意します。ミリィ、あなたはこの圧縮バックにありったけの回復アイテムを詰め込んで。アタシは医療魔導具の調整と準備をします」
「はいっ、すぐに!」
 2人はあっという間に身支度を整える。


「はぁ……普段もそれくらいしっかりしとってくれたらええねんけど。まぁええわ、ほな行くで」
 フランツはたまたま医務室に在籍していた2人の医療班を連れて、レーヴェ号へと急いだ。


⸺⸺レーヴェ号⸺⸺

「あぁ、この獅子の装甲懐かしいわぁ。あれからもう4、5年が経つんかぁ。ホンマはもっとゆっくりと船内を歩きたかったけど、それは全部済んでからやな」

「いいから早く行きましょう」
「あ、はい……」
 フランツはカリスに急かされて、クロノから借りた鍵を使って船内へと入っていった。


「よっしゃ、なんとか一番乗りで到着できましたわ。ふぅ、じゃぁエルヴィスはんの個室に医療魔導具を展開しましょか」
「はい」

 3人でエルヴィスの部屋を簡易医務室へと模様替えをさせると、準備の整ったカリスはまたもやダランとだらけ出した。

「ふぅ、あとはこれでエルヴィスさんを待つだけね。アタシ疲れちゃった。フランちゃん、食堂でなんか飲み物貰ってきてちょうだい」

 再びもったり話すカリスに、フランツは深くため息をついた。
「ホンマしゃーないな。ミリィはんはいるんか?」
「あっ、私も欲しいです」
「ほいほい」

 有名老舗商会の現会長が部下の女性の尻に敷かれ、パシリに使われている瞬間であった。


⸺⸺ケヴィン、東の森⸺⸺

 ケヴィンはクライヴと東の森の北側の門から中へと入る。

 ポールが来て慌ただしくなり有耶無耶うやむやになってしまったが、何の根拠もなしに頭に血が上ってクライヴを疑ってしまったことを、彼は後悔していた。


 ケヴィンの中でクライヴだけが一番情報が少なく、その時折見せるふざけたようなノリに勝手に不信感を募らせていた。

 冷静に考えるとクライヴから見ても自分やチャドも同じように情報は少ない。
 相手のことをよく観察もせずに、浅はかだったと反省をしていた。


 しかし今はそんな話をしている場合ではなく、すぐに感じたことのある魔力痕を見つけた。

「ここ、すげー分かりやすいミオの魔力痕がある」
「ポールの言ってた着地の時のやつだね。ってことはこっから真東……急ごう」
「おぅ」

⸺⸺

 彼らは弱々しいエルヴィスの気配を感じ取り、急いで駆け付けると、そこには“幻想”の最後の一人と相打ちになってお互いに倒れていくエルヴィスの姿があった。

 彼が倒れた地面には、みるみるうちに血溜まりが広がっていく。


「おっさん!」
 ケヴィンは呼吸と脈の確認をする。

「……“幻想”の死体は32人。全部おじさんが一人でやったのか……。ケヴィン、おじさん生きてる……?」
 と、クライヴ。

「あぁ、なんとか生きてるよ……。とりあえず回復薬で止血をする」
 ケヴィンはそう言ってポーチから回復薬を取り出すと、エルヴィスの頭を少し持ち上げ、口に回復薬を流し込んでいった。


「ケヴィン。7人来る。援軍みたいだ」
 クライヴはスッと槍を構える。
 普段のチャラいノリとは雰囲気が一変した彼を見て、ケヴィンは少し驚いていた。

 そう言えば彼が戦うのを見たのはロスカ島のクッカの楽園で1度きり。
 それもケヴィンはミオの横で呑気のんきにおしゃべりをしていただけで、ちゃんと見てはいなかった。


「おっさんの血は止まった。7人なら、このまま一気にやるぞ」
「了解」


 ケヴィンもメイスを構えると、“幻想”らが彼らを捉える前に一気に間合いを詰め、2人であっという間に7人全員を全滅させた。

 そしてケヴィンがエルヴィスを抱えると、ひと目につかないよう中央エリアは避けて鉄格子沿いに港へと駆けていった。

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