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第四章 氷の女王と氷の少女

73話 記憶、そしてすれ違い

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「あぁ、これがクッカの楽園かぁ。すげー神々こうごうしい場所だな……」
 クライヴはうっとりしている。

「ミオ、いけるか?」
 クロノはミオを覗き込むと、彼女は立ち上がりパンパンとローブを払った。
「うん、パウラにちょっと“せーれーぱわー”をもらったからなんとかね」

「なら、融合とアルバウスとどっち先にする?」
「先にアルバウスに行こう。パウラはこれからノアと大切なお話があるから」
 ミオがそう言ってパウラを見ると、彼女は大きくうなずいた。

「分かった、じゃぁ行くぞ」
 ルフレヴェの皆で頷き合い、ゆっくりと光差す地へと向かった。

 皆がアルバウスへ入ると同時に、何かが始まると悟ったクライヴも慌てて駆け込んだ。


 ミオがアルバウスへ入るとすぐに懐中時計へ光が集まり、やがて消えていく。
 そしてやはり今回も、皆の脳裏にある記憶の一部が流れ込んだ。

⸺⸺

 あるお城の中庭。
 黒髪の赤ん坊がよちよちと歩いている。
 前回の母親に抱かれていた頃よりも少しだけ時が進んでいたようである。

 その紫の髪の母親も視界に映り、赤ん坊へ優しい視線を送っている。


 赤ん坊がこちらへよちよちと歩いてきて、この視点の持ち主に抱き着いてきたため、こちらも抱き止めた。
 赤ん坊は目をくしゃっとつぶりながら、幸せそうに笑っていた。

 すると突然何かに引っ張られ、赤ん坊を手放してしまう。
 赤ん坊は地面に突っ伏す形となり、泣きだしてしまった。
 赤ん坊の母親がすぐに駆け付け、抱き上げてあやしていた。

 引っ張られた方へ視線を向けると、金髪のお団子ヘアーの女が不機嫌そうにこちらの腕を掴んで歩いていた。
 そして彼女は振り返ると、物凄い形相で何かを怒鳴りつけていた。
 相変わらず声は聞こえなかったが、せっかく綺麗に化粧をした顔が台無しである。


 引っ張られながらも再度紫の髪の女性を振り返ると、彼女は心配そうにこちらを見つめており、小さく手を振ってくれていた。

⸺⸺

 今回の映像はここで途切れ、皆現実へと戻ってくる。

「あの赤ちゃんちょっと成長してた」
 と、ミオ。

「あの赤ちゃんと家族かと思ったけど、違うっぽいな~」
 エルヴィスも言う。

「貴族同士のお友達とかかな?」
「母親同士は仲良くなさそうだったけどな」
 チャドにケヴィンも興味津々で推測する。

「あのヒステリックみてぇなやつが俺の母親かもしれないのか……? すげぇ嫌だな」
『オイラもあんなお母さんはやだな~』

 あからさまに嫌そうな顔をしているクロノをよそに、クライヴはぽかんとしていた。

「あれ、まさかお前もあれ見たのか!?」
 ケヴィンが彼に気付き突っかかる。

「見た……けど、あれ、何……?」
「お前にはぜってー言わねー! これはルフレヴェだけの秘密だ!」

「ケヴィン俺のこと嫌いすぎない!?」
 クライヴは涙目になる。それに対しケヴィンはベーっと舌を出した。

「お前には、後で話す」
 と、クロノ。
「何でだよ船長!」
「マジ? やったクロノ大好き!」

「経緯はどうであれ、Aランククエストや今回の緊急クエストに貢献したのは事実だ。少なくとも俺はその戦い方によこしまな気持ちは見えなかった」
 クロノはクライヴを素直に評価していた。

「ふーん、ま、船長がそう言うならしゃーねぇ、信じるよ」
 と、ケヴィン。

「ありがとうケヴィン信じてくれて!」
「ちげー、俺はお前じゃなくて船長を信用したんだ!」
「がびーん」
 クライヴが項垂うなだれると、周りからは笑いが起こった。

⸺⸺

 一方パウラとノアは……。
「そんな、消えちゃうなんてそんな急に言われても僕……」
 ノアは酷く動揺していた。

「ノアがいっしょうけんめいパウラの氷溶かしてくれたおかげ。パウラおうちに帰れる」

「そんな、僕は嫌だ! なんでパウラそんなこと言うの? ヒドイよ……!」
 ノアはそう言って大泣きしながら楽園を飛び出した。

「あ、ノア……」
 パウラはポツンと一人突っ立っていた。

「パウラ!」
 ミオが彼女の元へと駆け付け、残りの皆もすぐに合流した。

「ノア、パウラのこときらいになった」
 パウラがしょぼんとすると、ミオが彼女を抱きしめた。
「それは違うよ! パウラのことが大好きだから、急にお別れしなくちゃいけなくなって悲しいんだよ」

「ノア、パウラのことだいすき?」
「そうだよ」

「パウラもノアのことだいすき。お別れかなしい。だから、ちゃんとお別れする」
「そうだね、このままじゃ嫌だよね、追いかけよう」
 ミオがそう言うと、クライヴが止める。

「待ってミオちゃん。なんでお別れしなきゃなんないのか俺にはサッパリだけど、ノア君もちょっと時間がいると思う。俺に任せて、ちょっと時間頂戴ちょうだい

 いつになく真面目に微笑むと、彼もノアの後を追いかけて楽園から出て行った。

 その後をクロノがフォローする。
「まぁ、女王に報告だけして、今日は宿に泊まろう。お前らも野営明けで疲れてるだろ」

 一同は頷くと、とぼとぼと城へ向かった。



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