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第四章 氷の女王と氷の少女
61話 残る謎
しおりを挟む「それで結局パウラの家族も見つからんもんで、このままこの村で二人で暮らしとるだよ。パウラはその時のショックで心を閉ざしちゃったのか、全く感情を表に出さんのだよ」
ノアが話し終えると、いつものようにミオにケヴィン、それに加えてチャドまでもが大号泣をしていた。
「お前らガキ二人でどうやって生活してる?」
と、クロノ。
「あのね、あの日以来毎月知らない人が村長に寄付してくれて、いつもそこに同封されとるメモには“ノアたちを頼みます”って書いてあるだって。だから村長からそのお金をもらって生活できとる。最近は僕も王都で働けるようになってきたで、そろそろ寄付もいいだけどね」
「そうか……」
ここでこっそり泣いていた酒場のマスターが割って入ってくる。
「その寄付はね、カタリーナ様からだって噂なんだ……ぐずっ」
マスターは鼻水をすする。
「カタリーナ様って元気になったの!?」
ノアが勢い良く立ち上がりながら問う。
「いや、まだ療養中らしい……」
「5年も経ってるのに?」
と、クライヴ。
「俺も詳しいことは分からんだけど、そうやって聞いとるよ」
「そっか……」
「それってカタリーナ様はもう……」
エルヴィスがそう言いかけると、マスターが人差し指を口へ当てて口止めの仕草をしたため、エルヴィスは口のチャックを閉める仕草で返した。
「パウラ、チャドお兄ちゃんと遊ぼっか」
皆がしんみりしていると、チャドがそう言ってパウラを覗き込む。
パウラもこくんと頷くと素直にチャドについていき、二人で酒場から出て行った。
皆がガラス張りの部分から外を眺めていると、追いかけっこをしている二人の姿が見えた。
一見微笑ましい光景だが、大人のチャドがヘラヘラ笑っており、子供のパウラは無表情で彼を追いかけるというなんとも異様な光景だった。
「なら俺らはクエストでも見に行くか。なんかやって欲しいやつがあったんだろ?」
と、クロノ。
「うん、教えるね、こっちこっち」
「あぁ、行くぞお前ら」
クロノがそう言うとエルヴィスもクライヴも立ち上がる。
ミオも立ち上がろうとすると、ケヴィンに肩を押さえられて立ち上がることができなかった。
「船長……俺チャドを見てたいんだけど、ミオと留守番しててもいいか?」
というケヴィンのあまりない申し出にクロノは一瞬戸惑ったが、すぐに「あぁ、たまには休んでろ」と了承した。
ケヴィンは「さんきゅー」とお礼を言うとポールをノアの頭へと乗せてヒラヒラと手を振った。
ミオも状況はよく分かっていなかったが、温かい室内に居れるなら、とノリで手を振って皆を見送った。
「あれ、俺も休憩してていいやつ?」
と、クライヴがクエストボードの前で呟く。
「いや、お前は戦力に数えてる。S級クランの役に立てるんだ、光栄に思え」
「うわぁいいように使われてる……もう俺どんなことがあっても楽園に行けるまで君らから離れないから」
『離れない……ドキドキ……』
「そこ、ときめくの禁止っ!」
「だはははは」
クライヴとポールのやり取りを見て、エルヴィスが馬鹿笑いをする。
「……で、あぁ、これだな」
クロノがクエストボードを確認すると、Aランクのクエストは一つしかなかったためすぐに気付くことができた。
「そうそう、ここ事件以来全然人が通らなくなっちゃって、Aランクの魔物が大量発生しちゃっとるだよ」
と、ノア。
「事件場所の近くか?」
「うん、結構近い。だもんで僕が案内するよ」
「おいおい、大丈夫か? 怖い場所でしょ」
と、エルヴィス。
「大丈夫だよ。もう5年も前のことだし」
「ノアっちは強い子なのね」
エルヴィスはそう言って微笑んだ。
クエストボードの横にいるクラン職員からクエストを受けると、クロノ、エルヴィス、クライヴ、ノア、ポールのパーティメンバーで山脈へと出かけていった。
⸺⸺
クロノらは村を出て山脈への道を進んでいく。
強い風であまり声が通らないことを利用して、クライヴがクロノへコソッと話しかける。
「ねぇねぇ、カタリーナ殿下はやっぱもう死んじゃってるかな」
「……どうだろうな」
「あとさ、消息不明の黒魔症の女の子の行方、気にならない?」
「楽園だって、言いてぇんだろ?」
「やっぱクロノもそう思う? 俺もそうなんじゃないかなぁと」
「その楽園という場所が隔離できるとすれば、黒魔症のやつを隠すことはできるだろうな」
「まぁでも、いつまでもそのままって訳にはいかないよねぇ」
「あぁ」
⸺⸺
一方、酒場に残ったケヴィンとミオは……。
「あのさミオ、俺ミオにお礼が言いたくて」
「お礼? なんの?」
ミオはキョトンとする。
「チャド、ちゃんと笑えるようになってたから……」
「あぁ、そのことかぁ。ふふ、どういたしまして。もしかしてそれが理由で私も残ったの?」
「おぅ……ダメだったか?」
「全然、ここ温かいから逆にありがたい」
ミオがそう言って笑うと、ケヴィンもつられて「だな」と笑い返した。
「チャドから……なんか聞いたか? ガキの頃の話」
「うん……お母さんを……」
ミオが遠慮がちにそう言いかけると、ケヴィンは続けるように促した。
「ケヴィンの前で殺しちゃったって、言ってたよ」
周りに聞こえないよう少しトーンを下げてミオが答える。
「何でかって、言ってたか?」
「えっと、虐待されてたって……」
「誰が虐待されたっつってた?」
「えっ、誰とは言ってなかったから、てっきり二人のことだと思ったけど……」
ミオがそう答えると、ケヴィンは悲しそうな顔をして俯いた。
「虐待されてたのは、ほとんど俺なんだよ」
「えっ、チャドじゃないの!?」
「……なぁ、あんま気分良い話じゃねーけど、俺も聞いてもらっていいか? 話してスッキリしたい」
「うん……私でよければ」
「ありがと……で、多分屋外テーブル、魔導暖房で多少温かいと思うから、外でもいいか?」
「大丈夫、温かいコーヒーもらっていこ」
「んだな」
二人はコーヒーを追加注文すると、店内の奥の扉から屋外テーブルへと移動した。
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