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第四章 氷の女王と氷の少女

59話 氷の女王と氷の少女

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⸺⸺ロスカ城⸺⸺

 一行は城門の小さな衛兵に女王への謁見えっけんを申し出ていた。

「確かにそのシンボルは港のクラン職員から報告は受けとります。ただ、我らの女王は少し気難しいお方で、一応報告はさせてもらいますが期待せんで待っとってください」
 そう言って衛兵は城内へと入っていく。

「なんか港のときから思ってたけど、マキナもドワーフみたいにちょっとなまりある?」
 と、ミオ。

「それをマキナの君が言うんかい」
 クライヴのツッコミに彼女は苦笑いをして誤魔化した。

「ドワーフみたいな独特なイントネーションではないけど、マキナもちょっと違うよね。多分タメで話すともっと分かると思うけど」
 と、チャドがフォローをした。


 10分も経たないうちに衛兵が戻ってきて、一行は無事城内へと案内された。

「中も青色の石でできてるんだ。氷のお城みたい」
「これはフリグス鉱石っていって、外の寒さから室内を守るんだよ」
 クライヴがミオへと説明する。
「へぇ~、氷じゃないのかぁ」


 大きな正面の階段を登った先に玉座の間があり、衛兵により中へと入れてもらう。

 中に入ると、荘厳なドレスをまとったマキナの女王ベアトリスが玉座へ腰掛けていた。

「よく来たS級フリークランルフスレーヴェ。妾がロスカ女王ベアトリスじゃ、何用か?」

 ベアトリスは座ったままゆったり厳かに言葉を発した。
 迎え入れられた皆は一様に“マキナなのにすごい圧”と思っていた。

 クロノが一歩前へ出て片膝をついたので、皆も真似して片膝をついて頭を下げた。
「急な謁見感謝する。俺は船長のクロノ・フォスター。訳あってアルバウスと呼ばれる光の当たる地を探している。この島にあるクッカの楽園という場所がそれの可能性がある。一瞬でいい、その地に入れてもらうことは……」

「ならぬ」
 クロノが言い終わらないうちにベアトリスは短く反対をした。

 クライヴが慌てて補足をする。
「5年前までは一般開放されていたと聞いています。何か理由があるのでしょうか、もし魔物等でお困りであれば……」

「魔物ではない!!」
 ベアトリスが急にそう声を荒らげたので、皆ビクッとして顔を上げて前を見る。
 彼女はハッと我に返ると再びゆっくりなトーンでこう続けた。

「いや、すまぬ。少々取り乱した。だが、いくらS級クランの頼みとはいえあの地だけは開放することはできぬ……」
 ベアトリスの厳しい表情を見てクロノは観念する。

「承知した、引き下がろう。我々はしばらくこの地に滞在するつもりだ、何かあれば特別クエストを依頼してほしい」

「心遣い感謝する。何かあれば依頼しよう」
 ベアトリスがゆっくりとうなずいたのを確認すると、一同は立ち上がって玉座の間から出ていった。


「ルフスレーヴェ、かのマルクス王が認めたクラン、か……」
 ベアトリスは一行が出ていった扉をボーッと眺めていた。

⸺⸺

 城の者に丁寧に見送られ、再び王都へと舞い戻ったルフレヴェとオマケ。
 そのオマケは望みが叶わなかったにも関わらず興奮していた。

「S級かよ、すっげーな! どこの王様の公認なんだ??」
「ブライリアント王だよ!」
 何故か一番よく分かっていないミオが自慢気に言う。

「マジか!! ブライリアント王国のマルクス・レオリア・ブライリアント……内からも外からも超人気者の超有名人だぜ……」

 クライヴは信じられないような表情をしていたため、ミオがクランボードの概要欄を見せると彼は目を見開いて驚いていた。


「で、そんなことより」
 クロノが面倒くさそうに割って入る。

「そんなことなの!?」
「お前いちいちリアクションでかくて鬱陶うっとうしいからちょっと黙れよ」
 クライヴはケヴィンに首根っこを掴まれて会話の場外へと引きずり出された。


「クライヴのあの言葉、実はお手柄だったりして」
 と、チャド。

「お、俺!? お手柄!?」
「るせー、お前は入んな!」
 クライヴの突っ込んだ首はすぐにケヴィンに引っ込められた。

「“魔物ではない”っつってたな」
 と、クロノ。

「そうそう、つまり魔物じゃない何かはいるってことだね」
「閉鎖されてんのはそれが原因で間違いなさそうだな。さて、どうしたもんか……」

 クロノとチャドが議論をしていると、ミオが突如あるマキナ族の少女のもとへとかけていった。

「おぉぉ、ミオっちどこ行くの!」
 エルヴィスが追いかけていくのを見て他の皆もそれに気付き、彼女を追いかける。

「大丈夫? どこか痛い?」
 ミオよりも頭一個分小さいその少女は、うつむいてじっとしていた。

 ふわもこの帽子を被り桃色のダッフルコートを着て、一見他のマキナと変わらないように見えたがミオはしきりに心配をしていた。

「迷子になっちゃった? お母さんか誰かと一緒だった?」
「……」

 少女はスッと顔を上げると、無表情でミオをじっと見つめる。
 そして、ぎゅっとミオのローブにしがみついた。

「やっぱり迷子? お名前は?」
「……パウラ」
 少女は高い声でボソッと名乗る。

「パウラ、可愛い名前だね。誰と一緒だった?」
「……ノア」

「ノア? ノアって人と一緒だったんだね。お父さんかな、お兄ちゃんかな」
 ミオが優しく問いかけるが、パウラは首を大きく横に振った。

「あっと、女性だったかな……お母さん? お姉ちゃん?」
 しかしパウラは首を横に振る。

「ご家族の人じゃないのかなぁ……困ったなぁ」

「ミオ、衛兵に聞いてみよう」
 と、クロノ。

「うん、パウラ一緒においで」
 ミオがそう言って手を差し出すと、パウラは素直に彼女の手を握った。


「ミオちゃんどうしたの、おせっかいさん?」
 と、クライヴ。

「あの子魔力が変だから、それで心配になったのかも」
 チャドがそう答えると、クライヴは「確かに、無理矢理抑え込んでる感じだね、さっきの女王が氷の女王なら、あの子は氷の少女だ」と納得した。


「すみません」
 ミオがパウラを連れて城門の衛兵へと話しかける。

「先程のルフスレーヴェ様。いかがしましたか?」

「この子迷子みたいで、パウラっていうんですが、どこのうちの子か知りませんか?」

 衛兵はパウラを覗き込むと、頭を抱えてしまった。
「いやぁ、このくらいの歳の子は王都にいっぱいおるもんで……あっ」
 彼はパウラの首から下げていた木彫りのネックレスに着目する。

「これはイースデンの村の特産品だで、もしかしたら村の子かもしれんですね。それなら村に行けば誰かしら知っとると思いますけど……」

「そうなんですね! その村へはどうやって……」

「そこの東の出口から王都の外に出てもらうと山道に入りますんで、イースデンと書いてある立て札の方へ進んでもらえればすぐ着きます。イースデンまでは結界もありますんで安全かと」

「ありがとうございます、助かりました!」
 ミオは元気よくお礼を言う。

「いえいえ、こちらこそ、我が国民のためにありがとうございます」
 衛兵とお互いに感謝をし合うと、ミオは皆のもとへ戻り状況を説明した。

 そして、ちょうど手詰まりになった一行は皆でイースデンの村まで行くこととなった。




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