51 / 228
第三章 狼の少年と赤い頭巾の少女
51話 前を向いて
しおりを挟む「悪い、迷惑かけた。もう、大丈夫だ」
ルフレヴェの皆が拠点の海岸に設置したテーブルで焼き魚を堪能していると、クロノが船から降りてきてそう言った。
余っている魚を取ってかぶりついたその表情は、前にも増して活気に溢れ、その真紅の瞳は先を見据えていた。
「クロノ、目が復活した! 燃えるような情熱の赤色!」
ミオが嬉しそうに言う。
「……んな恥ずかしいセリフなんの躊躇もなく言うのはやめろ」
クロノが少し顔を赤らめると、周りからは笑いが起こった。
まだ笑いが止まないうちに、彼は自分の思いを語り始めた。
「俺はずっと、心のどこかでもうこの時計のことは分からねぇままだと思ってるところがあった。そんな中こうやって急に事が動き始めて、戸惑ったのは事実だ。けど、お前らがゆっくり考える時間をくれたおかげでハッキリした」
クロノはここで一息つく。
もう笑うものは誰一人としておらず、真剣に彼の言葉を待っていた。
「俺は、やっぱりこの時計の謎をハッキリさせたい。力を溜め続けたらどうなるのか、この時計が見せる映像はなんなのか、俺はどこの生まれなのか。それを全部ハッキリさせたい。もう完全に迷いはねぇ、だから、これからも頼む」
彼が真っ直ぐ前を見てそう言い終えると、ルフレヴェの皆は顔を見合わせ、声を揃えてこう言った。
「『了解!』」
⸺⸺
「じゃぁ、白の軌跡、発動させるよ」
「あぁ、頼む」
クロノからの返事をもらうと、ミオは前回発動した時と同じように詠唱をした。
「内に眠る刻の波動よ、其の秘めたる力を解き放ち、彼の地に流るる白き地脈の柱、今此処に指し示さん
⸺⸺刻魔法⸺⸺
白の軌跡!」
クランボードのマールージュ島の光は既に消えていて、ここから北の方の島が白く輝いた。
その島は既に名の記載があり『ミュラッカ島』と記されていた。
「ミュラッカ島! 行ったことはねーけど、聞いたことはあんな!」
「だねぇ、確かめっちゃ寒くて魔導技術の先端と言われている……」
ケヴィンとチャドはそれぞれそう言うと、顔を見合わせて同時にこう続けた。
「マキナ族の国がある島!」
「マキナ族!」
ミオが目を輝かせる。
「お友達いっぱいで良かったね~。おじさんはミュッカが楽しみだ~」
「何それウォッカ的な?」
ミオはエルヴィスに問い返す。
「そうそう。ウォッカみたいに度数の高いお酒~」
「あはは、ホント好きだね」
「好きよ~」
「ミュラッカ島までの航路でこっから一番近くて栄えてそうな島は……ここだな。このメディウム島を経由して、ミュラッカ島へ向かう」
そう言うクロノに対し皆が了解の意を示すと、別れを告げに集落へと向かった。
⸺⸺
「そうですか、行ってしまうのですね」
ダニエルは少し残念そうに言う。
「でも、クロノ元気になって良かった!」
と、ロジェ。そんな彼の肩にダニエルがポンと手を添える。
「今まで彼にたくさん寂しい思いをさせてきた分、皆でたくさん甘やかすつもりです。それから、聖獣様に頼りきるのではなく、万一の事態に備え、ロジェを団長として自警団を結成するつもりです」
「へへっ」
ロジェはくすぐったそうに微笑む。
「また、聖獣様……アルベル婆さんと相談して、アルバウスを悪用されないためにも、この島はこれからも外部との交流は取らずにひっそりとやっていく方向で決まりました。もしまた立ち寄る機会があれば、ぜひ外のお話を聞かせて下さい」
「そうだな、結界強化をして暗黒への対策もしたし、それが良さそうだ。あぁ、寄ることがあればその時はまたよろしく頼む」
クロノとダニエルが握手を交わし、ルフレヴェは集落の皆に見送られて船へと戻っていった。
レーヴェ号の前ではユニコーンが待っており、ミオ以外の皆がまずそれぞれ挨拶を交わし船へ乗り込んだ。
ミオがユニコーンと向かい合うと、ユニコーンは彼女に目線を合わせるように足をたたみ、伏せの状態になる。
「色々教えてくれてありがとう」
『お礼を言うのはこちらの方ですよ、ミオ。この島の危機を救ってくれてありがとう。ミシェルをよろしくお願いします』
「うん、ミシェルは任せて。これからは一緒に頑張っていくから」
『ええ、期待しています。あなたに聖獣の加護がありますように』
ユニコーンがそう言って頭の角をミオの額にコツンと当てると、白い粒子が彼女に降り注いだ。
「わぁ、キレイ」
『微力ながら私の魔力もあなたの魔力に力添えさせてもらいました。聖属性としての力が高まったかと思います』
「おぉ、ありがとう!」
『それでは、皆が待っていますよ』
「うん、行ってきます!」
『いってきまーす』
『いってらっしゃい』
ミオはユニコーンへ別れを告げると、皆が甲板で待っているレーヴェ号へと乗り込んだ。
そしてミオがケヴィンと入れ違うように甲板へ姿を見せると、ケヴィンの操縦によりレーヴェ号はゆっくり出航した。
ミオはユニコーンの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
ヴァース歴1684年11月18日、こうしてアルバウス巡りの旅はまぁまぁ順調なスタートを切ることができたのであった。
2
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
近接魔導騎士の異世界無双~幼馴染の賢者と聖女を護る為、勇者を陰から支えます!!~
華音 楓
ファンタジー
惑星【イグニスタ】にある魔導王国【エルファラント】で、モンスタースタンピードが発生した。
それを対処するために魔導王国から軍が派兵される。
その作戦の途中、劣化龍種の強襲を受け、隊長のフェンガーのミスにより補給部隊は大ピンチ。
さらにフェンガーは、負傷兵を肉の盾として撤退戦を行う。
救出の要請を受けた主人公のルーズハルトは、自身の小隊と共に救出作戦に参加することに。
彼は単身でスタンピードの発生地へと急ぐ。
そしてルーズハルトが戦場に駆け付けると、殿部隊は生死の窮地に追い込まれていた。
仲間の小隊と共に竜種を鎮圧したルーズハルトは、乞われて自分の強さを明かす……
彼は長馴染みの桜木綾と蓮田伊織と共に異世界召喚に巻き込まれた転生者だった。
転生した葛本真一はルーズハルトとなり、彼の妹に転生してしまった桜木綾……後に聖女として勇者パーティに加わるエミリアを守るため、勇者の影となって支え続けることを決意する。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが
アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。
右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。
青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。
そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。
青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。
三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。
【登場人物紹介】
マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。
ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。
クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。
ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。
デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。
ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。
ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。
【お知らせ】
◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。
◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。
◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。
◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。
◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。
◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。
※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる