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第三章 狼の少年と赤い頭巾の少女

51話 前を向いて

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「悪い、迷惑かけた。もう、大丈夫だ」

 ルフレヴェの皆が拠点の海岸に設置したテーブルで焼き魚を堪能たんのうしていると、クロノが船から降りてきてそう言った。
 余っている魚を取ってかぶりついたその表情は、前にも増して活気にあふれ、その真紅の瞳は先を見据えていた。

「クロノ、目が復活した! 燃えるような情熱の赤色!」
 ミオが嬉しそうに言う。

「……んな恥ずかしいセリフなんの躊躇ちゅうちょもなく言うのはやめろ」
 クロノが少し顔を赤らめると、周りからは笑いが起こった。

 まだ笑いが止まないうちに、彼は自分の思いを語り始めた。


「俺はずっと、心のどこかでもうこの時計のことは分からねぇままだと思ってるところがあった。そんな中こうやって急に事が動き始めて、戸惑ったのは事実だ。けど、お前らがゆっくり考える時間をくれたおかげでハッキリした」
 クロノはここで一息つく。

 もう笑うものは誰一人としておらず、真剣に彼の言葉を待っていた。

「俺は、やっぱりこの時計の謎をハッキリさせたい。力を溜め続けたらどうなるのか、この時計が見せる映像はなんなのか、俺はどこの生まれなのか。それを全部ハッキリさせたい。もう完全に迷いはねぇ、だから、これからも頼む」

 彼が真っ直ぐ前を見てそう言い終えると、ルフレヴェの皆は顔を見合わせ、声をそろえてこう言った。

「『了解!』」

⸺⸺

「じゃぁ、白の軌跡きせき、発動させるよ」
「あぁ、頼む」
 クロノからの返事をもらうと、ミオは前回発動した時と同じように詠唱をした。

「内に眠るときの波動よ、の秘めたる力を解き放ち、の地に流るる白き地脈の柱、今此処ここに指し示さん

⸺⸺刻魔法ときまほう⸺⸺

白の軌跡!」

 クランボードのマールージュ島の光は既に消えていて、ここから北の方の島が白く輝いた。

 その島は既に名の記載があり『ミュラッカ島』と記されていた。

「ミュラッカ島! 行ったことはねーけど、聞いたことはあんな!」
「だねぇ、確かめっちゃ寒くて魔導技術の先端と言われている……」
 ケヴィンとチャドはそれぞれそう言うと、顔を見合わせて同時にこう続けた。


「マキナ族の国がある島!」


「マキナ族!」
 ミオが目を輝かせる。

「お友達いっぱいで良かったね~。おじさんはミュッカが楽しみだ~」
「何それウォッカ的な?」
 ミオはエルヴィスに問い返す。

「そうそう。ウォッカみたいに度数の高いお酒~」
「あはは、ホント好きだね」
「好きよ~」

「ミュラッカ島までの航路でこっから一番近くて栄えてそうな島は……ここだな。このメディウム島を経由して、ミュラッカ島へ向かう」

 そう言うクロノに対し皆が了解の意を示すと、別れを告げに集落へと向かった。

⸺⸺

「そうですか、行ってしまうのですね」
 ダニエルは少し残念そうに言う。

「でも、クロノ元気になって良かった!」
 と、ロジェ。そんな彼の肩にダニエルがポンと手を添える。

「今まで彼にたくさん寂しい思いをさせてきた分、皆でたくさん甘やかすつもりです。それから、聖獣様に頼りきるのではなく、万一の事態に備え、ロジェを団長として自警団を結成するつもりです」

「へへっ」
 ロジェはくすぐったそうに微笑ほほえむ。

「また、聖獣様……アルベル婆さんと相談して、アルバウスを悪用されないためにも、この島はこれからも外部との交流は取らずにひっそりとやっていく方向で決まりました。もしまた立ち寄る機会があれば、ぜひ外のお話を聞かせて下さい」

「そうだな、結界強化をして暗黒への対策もしたし、それが良さそうだ。あぁ、寄ることがあればその時はまたよろしく頼む」

 クロノとダニエルが握手を交わし、ルフレヴェは集落の皆に見送られて船へと戻っていった。


 レーヴェ号の前ではユニコーンが待っており、ミオ以外の皆がまずそれぞれ挨拶を交わし船へ乗り込んだ。

 ミオがユニコーンと向かい合うと、ユニコーンは彼女に目線を合わせるように足をたたみ、伏せの状態になる。

「色々教えてくれてありがとう」
『お礼を言うのはこちらの方ですよ、ミオ。この島の危機を救ってくれてありがとう。ミシェルをよろしくお願いします』

「うん、ミシェルは任せて。これからは一緒に頑張っていくから」
『ええ、期待しています。あなたに聖獣の加護がありますように』

 ユニコーンがそう言って頭の角をミオの額にコツンと当てると、白い粒子が彼女に降り注いだ。

「わぁ、キレイ」
『微力ながら私の魔力もあなたの魔力に力添えさせてもらいました。聖属性としての力が高まったかと思います』
「おぉ、ありがとう!」

『それでは、皆が待っていますよ』
「うん、行ってきます!」
『いってきまーす』

『いってらっしゃい』

 ミオはユニコーンへ別れを告げると、皆が甲板で待っているレーヴェ号へと乗り込んだ。

 そしてミオがケヴィンと入れ違うように甲板へ姿を見せると、ケヴィンの操縦によりレーヴェ号はゆっくり出航した。
 ミオはユニコーンの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。


 ヴァース歴1684年11月18日、こうしてアルバウス巡りの旅はまぁまぁ順調なスタートを切ることができたのであった。




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