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第三章 狼の少年と赤い頭巾の少女

45話 特訓と探索

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 明朝、一同は早速行動を開始した。

 クロノ、ロジェ、チャドの討伐班、ミオ、ケヴィン、ミシェルの結界整備班、エルヴィス、ダニエルの集落布教班の3つに別れてそれぞれ動き出す。


 討伐班はまずは小道の周辺の魔物を討伐していく。
 クロノはロジェに斧の振り方を手解てほどきし、連携して魔物を倒せるようにした。
 ロジェの飲み込みは予想通り早く、明日にもアウラの指導ができそうであった。

 結界整備班は周りの魔物の討伐をしてもらっている間にケヴィンとミシェルが折りたたみの結界灯を組み立て小道の脇に設置していく。
 その後ミオが全ての結界灯へ魔力を込めると、いつかの街道で見たときのように結界が機能し始めた。

 集落までの道が整備されるとエルヴィスとダニエルが酒を持って集落を訪れる。
 なかなか帰ってこなかったダニエルを皆心配していたが、元気そうな彼を見て一安心した。
 だが、ロジェのこととなると皆聞く耳を持たず、家へ閉じこもってしまう。二人は今日のところは諦めて酒を持って拠点へと戻った。

⸺⸺

「ダメだ。ありゃ相当手強いぞ……」
 テント前に設置したテーブルでコーヒーを飲みながらエルヴィスが弱音を吐く。

「諦めずに話しかけるしかないですね。午後からは道が整備されたことをまずは知らせようと思います」
「そうね、焦らず行きましょ」


「集落までの道なら午前中だけで出来ちゃったね」
 ミオらが拠点へと戻ってくる。

「だな、案外無人島だったとしてもすぐ開拓できそうだな」
 と、ケヴィン。

「あたしもみんなみたいに魔力、分かるようになったけど、ミオはやっぱり不思議な魔力よね」
 そう言うミシェルに対し、ミオがある疑問を投げかける。 
「アルベルさんに似てるって思わない?」

「そうだわ! 確かに妙に白っぽいような、そんな感じがする」
 ミシェルはスッキリした顔でテーブルに並んだコーヒーを手に取った。


「ロジェなかなか筋がいいね~。クルス族の良いところ」
 チャドがルンルンで帰ってくる。
「そうなの? もう一人で魔物を倒せるのかしら」
 と、ミシェル。

「ううん、それはまだ厳しいけど、連携してなら余裕で倒せる。あ、船長がさ、午後からはミシェルとロジェの連携を見たいから、僕とミシェルが交代だって言ってたよ~」
「分かった。ロジェの成長を見るの楽しみだわ」

 なかなか帰ってこないクロノとロジェを待つ間、皆でサンドイッチを作って休憩を取った。


「やっと帰らせてもらえた……」
 クロノは拠点に戻ってくるなりサンドイッチを頬張ほおばる。

「あはは、ロジェすごいやる気なんだね」
 ミオがクロノへコーヒーを手渡すと、彼は軽くうなずきそれをすすった。

「食らいつけっつったのは俺だからな。付き合うしかねぇ」
「そだね、頑張って」
「あぁ」


「ミシェル、午後からの動き、予習しとこうぜ!」
 ロジェは帰ってくるなり尻尾をぶんぶん振り回しながらミシェルへ詰め寄る。

「うん、するけど、まずはサンドイッチ食べて。休憩も修行のうちよ」
 ミシェルは軽く受け流し、代わりにサンドイッチを彼へ押し付けた。

「そうだな、よし、まずは腹ごしらえだ」
 ロジェは自分へ言い聞かせるようにそう呟くと、もらったサンドイッチを大きな口で頬張った。

⸺⸺

 午後。
 結界班はアルベルの家への結界整備をし、討伐班がその周辺の魔物を討伐した。

 エルヴィスら布教班も再度集落へ向かい、海岸への道の安全確保ができたことを伝えると、集落の皆も興味を持って話を聞いてくれた。
 ダニエルの家で一緒に酒を飲んでくれる人も何人か現れ、その人らはエルヴィスに対し心を開いてくれた。
 ダニエルはこのまま集落に残りエルヴィスだけが拠点へと戻った。


 翌日からはアルバウスを探す探索班とミニ天使を設置していく天使班へと別れた。

 ロジェはどんどんと上達し、アウラも使えるようになってきていた。
 まだ血昇けっしょうのアウラは3分ほどしか維持できないが、クロノ曰く大技を出すときのみ発動すれば良いとのことだった。

 天使像の設置もだいぶ進み、海岸周辺が完全に安全になると、集落の住人がポツポツと海岸の様子を見に拠点へと現れた。
 エルヴィスとダニエルは念の為ロジェとミオが探索へ出ているときを狙って彼らを誘導する。
 まだ対面させるのは早いというダニエルの判断である。

⸺⸺

 作戦を開始して7日ほど経ったある日、その日の探索班のクロノ、ミオ、ミシェル、ロジェは森の北の方へとやってくる。
 南から順に探索していき、遂にここまで来たのであった。

「この先には聖獣様の神殿があるんだぜ!」
 ロジェが得意気にそう言い振り返るが、クロノは禍々まがまがしい気配を感じ慎重に進むよう言った。

「うっ……」
 不意にミオが胸元を押さえ苦しみだしたので、皆心配して覗き込む。

「どうした、ミオ!」
 クロノがしゃがんで彼女の顔を確認すると、額からは汗が噴き出し、呼吸も荒くなっていた。

「なん、か、息苦しい……」
 そう言うミオのリュックから、ポールが急いでい出てくる。

『ここ、黒い気がすごい濃いんだ。正反対のミオにはキツイんだと思う。一旦下がろう』
「確かにすげぇ濃いが……そういうことか。了解」


 クロノがミオを抱えて皆で少し南へ戻ると、ミオの呼吸も落ち着いてきた。

「うわぁ、死ぬかと思った」
「お前は黒い気に対して強く出れるもんかと思ったが、耐性があるんじゃねぇんだな。悪い、判断を誤った」

 ミオはすぐに「いやいやクロノは悪くないから」とフォローを入れた。

「とりあえず、俺一人で先の様子を見てくるから、お前らチャドを呼んできてくれるか。俺に追いつくように言ってくれ」
「了解!」

 3人が拠点の方へ戻っていくのを確認すると、クロノは刀のつかに手をかけながら再度北へと進んでいった。


 北へ行くほど辺りが薄暗くなり、魔物のレベルも段違いに上がっていた。

 更に進みこれ以上は流石に自分でもキツイか、そうクロノが判断すると、後ろからチャドが合流する。

「こっちの方黒い気やっばいね~」
「あぁ、お前はまだ平気か?」
「うーん、もうちょっとなら」
「ならもう少しだけ進んでみて、黒い気以外に何もなければ一旦引き返すぞ」
「おっけー」


 二人で連携して魔物を倒しながら少しだけ先に進むと、これ以上進めないことに気付き、足を止めた。

「何、これ?」
 チャドは前方を足元から空まで見上げる。

「黒い気の……壁だ」
 二人の前には真っ黒な壁が立ちはだかり、これ以上は先に進めないことを示唆しさしていた。

「これ以上はマズい、戻るぞ」
「そだね……」


 彼らは引き返しながら議論をする。
「この辺の黒い気が濃い原因ってあれかな?」
「分かんねぇ。けど、あんなもの自然にできる訳がねぇ。だからあれのせいだって考えたくもなるな」

「例の黒いローブの女の子かな?」
「黒い気を操れるんじゃねぇかってうわさのな。ありえるな……。誰がやったかは分からねぇが、あれをなんとかしねぇことにはこの島は安全とは言えねぇな」

「困ったね~、なんとかできそうなミオは近づけないしね~」
「それな」


 彼らは無事拠点へ戻ると、北の状況を皆へ説明し今後の議論をすることとなった。




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