34 / 228
第二章 刻の魔法と闇の暗躍
34話 狙われた幼女
しおりを挟むアルノーからクエストクリアのサインをもらった後夕食へと招待されたため、一般居住地区の酒場で飲んでいたエルヴィスを回収してご馳走になった。
エルヴィスは皆こんなところに居るなら自分も付いていけば良かったと珍しく落胆しており、泊まっていきたいとゴネていたためアルノーの厚意で城に一泊していくこととなった。
ミオは自室で用意されていたフリフリの寝間着に着替えると、短い尻尾を振り、広い部屋をくるくると踊りながら跳び回っていた。
「ふんふ~ん、私はお姫様~♪」
『ミオ、元気だね』
「今日はあんまり魔法使ってないからかな? それにしてもチャドもクロノもすごかったよね」
『ミオ見てなかったじゃん……』
「見てた、見てたよ黒い波がザッパーンって出てくる所らへんまで」
『あっそう』
「ケヴィンとエルヴィスはどんな奥義を使うのかな?」
『また今度やってもらいなよ』
「うん、でも……もしかしたらケヴィンはやってくれないかも」
ミオは踊るのをやめて大きなベッドへポスっと座る。
『何で?』
「ケヴィン、すごく怖がってたから。何に怖がってたんだろう?」
『聞いてみなかったの?』
「隠してるみたいだったし、みんないるところで聞いたら可哀想かなって。もしそういうタイミングがあれば聞いてみる」
『そうだね、ケヴィンももし何かトラウマがあるなら、言えばちょっとは楽になるかもね』
「うん」
ミオは立ち上がりバルコニーへ出ると、毎晩船の上から眺めていた月を見上げた。
そんな彼女の姿を捉える黒い影が居るとも知らずに。
⸺⸺
深夜まで自室のバルコニーでワインを嗜んでいたエルヴィスもようやく寝入った頃、事件は起きる。
パリンッとミオの部屋の窓を割り侵入したのは、先程闇夜に紛れていた黒い影。
黒いタキシードにハットを被り、嘲笑うかのような嫌味な笑顔の白い仮面は、飛び起きたミオの恐怖を煽るには十分過ぎるほどだった。
恐怖で声も出ない彼女に油断したのか、突如腕に飛びついたクマのぬいぐるみに動揺して、男は手に持っていたナイフを床へと落とす。
咄嗟にぬいぐるみを壁へと振り飛ばすと、彼も何故か仮面に強い衝撃を受け、一緒になって壁に叩きつけられた。
「クロノ!!」
目の前の見覚えのある背中に安堵したミオは、ようやく声を発することができた。
部屋の扉は蹴ったのか突き飛ばしたのか部屋の中央付近まで飛ばされており、男が叩きつけられた壁は縦にズルズルと血がついていた。
「ミオ!」
「大丈夫!?」
「ミオっち!」
ケヴィン、チャド、エルヴィスも直ぐに部屋へと駆けつける。
「だ、大丈夫……」
「何かされたか」
クロノも振り返りミオの身を案じると、彼女は大きく首を横に振った。
壁に叩きつけられていたポールは何事もなかったかのようにすくっと起き上がると、一目散にミオの胸へと飛び込んだ。
「ポール! 痛かった?」
『ううん、この身体神経なんてないから、何も感じなかったよ』
「そっか、良かった……二人とも、ありがとう……」
ミオの顔に僅かながら笑みが戻ると、駆け付けた皆もホッと胸を撫で下ろした。
「てか、船長、あれ……」
ケヴィンがグッタリしている仮面の男を指差すと、クロノは罰が悪そうに頭を掻いた。
「……殴り……殺したらしい」
情報を得るため殺すつもりはなく殴るだけに留めたが、無意識に力が入ってしまっていたのだと彼は感じていた。
実際に仮面を外し生死の確認をするがやはり死んでおり「あーあ」と双子に責められていた。
「おじさんがわがまま言ってこんな所に泊まったせいかも。ごめんね」
「違う違う、関係ないでしょ。私も泊まりたかったし……」
一方でエルヴィスは少し責任を感じているようで、逆にミオに慰められていた。
⸺⸺
通常であればしんと静まり返っているはずの深夜の城内は、泊まり込みで雇われているメイドらが忙しく走り回り騒然としていた。
アルノーもすぐに問題の部屋へと駆け付け、ミオが無事なのを確認すると盛大に土下座をした。
「我が城でまさかこのような……本当に申し訳ありませんでした」
「そ、そんなアルノーさんは悪くないですよ……!」
ミオは彼の前にしゃがみ、あたふたする。
「まぁ、正直俺らもコイツがかなり近付くまで気配が読み取れなかった。そういう訓練をしてる奴だ。警備の目くらい掻い潜るだろ、お前だけの責任じゃねぇ」
クロノもそうフォローをすると、アルノーはようやく顔を上げ、大きなため息をついた。
「で、コイツに見覚えは?」
クロノが男の死体を指差すと、アルノーはおどおどしながらそれを覗きこんだ。
「し、死んでるんですか……?」
「あぁ、俺が殺した」
「ひぃぃ、すみません、死体にはなれてないもので……ただ、顔に覚えはありませんが、この格好と仮面は恐らく“幻想”ではないかと……」
「幻想……!?」
ミオはキョトンとしたが、他の皆は知っているような驚き方だった。
「……すぐに解決しそうな問題じゃねぇっつうのは分かった、詳しい話は明日にする。今は、こいつを休ませてやりたい」
クロノがミオへ視線を送りそう言うと、満場一致でひとまず解散となった。
ルフスレーヴェは皆で一つの大部屋に泊めてもらい、次に船に乗ったときの夜の見張り番の順番であったケヴィンが朝まで見張りをすることとなった。
ケヴィンがバルコニーのベンチに座ってボーッとしていると、ポールがてくてくと歩いて隣によじ登ってきた。
「あー、そっか、お前寝なくていいんだっけか」
『うん、必要なくても暇だから寝ようとしたけど、全然寝付けなくて諦めた』
「はは、そっか。寝なくていいのも考えもんだな」
『まぁね。ってか、ミオが心配してたよ』
「ミオが? 俺を?」
ケヴィンは思わずポールを覗き込む。
『昼間、シミュレーションルームで怯えてたから』
「……あー……ミオにまで心配させちゃったか。ダセェよな、俺」
『なんかあったの?』
「まぁ、ガキん頃にちょっとな……」
『トラウマってやつ?』
「そ」
『まぁ、人には誰しもそういうことあると思うから、オイラは別に気にしないけどさ、もし、ミオに話せる機会があったら話してあげなよ。ミオは、自分の事のように思って聞いてくれるから、気が楽になるかもよ』
「良い子だもんな……けど、男は強がりたい生きもんなの。ミオにも心配すんなって言っといてくれよ」
『そっか、分かった。だけど、いつか爆発しちゃうと思うから、ケヴィンも……“チャド”も……。だから、ミオっていう逃げ道があるって覚えといて』
「! ……そうだな、ありがとな……」
『じゃ、オイラはこれで』
ポールはそう言ってピョンっとベンチから飛び降りようとしたが、ケヴィンに捕まれベンチへと押し戻された。
「待て待て待て、こんなナイーブな気持ちにさせておいて自分だけ帰るなよ」
『えっ? こういう時って一人になりたいんじゃないの?』
「ふざけんなお前が蒸し返すから落ち込んじまっただろーが、なんかおもしれー話して責任取れ」
『えぇー……しょうがないなぁ。ミオのちっちゃい頃の変な癖、興味ある?』
「ある! そういうの待ってました!」
『くっ、ぽーる……みおはまだたえられる……おまえがさきにいけっ……!』
ポールはベンチの上で四つん這いになり、悶えるような仕草をする。
「何処へ???」
『トイレ』
ポールはそう言うとパッと仕草をやめて普通に座り直した。
「はははは!」
『それでお婆ちゃんがポールの後ろから“オイラはさっき行ったばっかりだから出ないんだ、だからミオ、早く行くんだ!”“なに、いつのまに! ではいかせてもらう!”』
「ばーちゃん大変すぎねーか?」
『うん、でも楽しそうだった』
「はは、そっか」
2
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが
アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。
右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。
青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。
そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。
青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。
三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。
【登場人物紹介】
マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。
ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。
クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。
ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。
デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。
ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。
ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。
【お知らせ】
◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。
◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。
◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。
◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。
◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。
◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。
※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる