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第二章 刻の魔法と闇の暗躍

34話 狙われた幼女

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 アルノーからクエストクリアのサインをもらった後夕食へと招待されたため、一般居住地区の酒場で飲んでいたエルヴィスを回収してご馳走になった。

 エルヴィスは皆こんなところに居るなら自分も付いていけば良かったと珍しく落胆しており、泊まっていきたいとゴネていたためアルノーの厚意で城に一泊していくこととなった。


 ミオは自室で用意されていたフリフリの寝間着に着替えると、短い尻尾を振り、広い部屋をくるくると踊りながら跳び回っていた。

「ふんふ~ん、私はお姫様~♪」
『ミオ、元気だね』

「今日はあんまり魔法使ってないからかな? それにしてもチャドもクロノもすごかったよね」
『ミオ見てなかったじゃん……』

「見てた、見てたよ黒い波がザッパーンって出てくる所らへんまで」
『あっそう』

「ケヴィンとエルヴィスはどんな奥義を使うのかな?」
『また今度やってもらいなよ』

「うん、でも……もしかしたらケヴィンはやってくれないかも」
 ミオは踊るのをやめて大きなベッドへポスっと座る。

『何で?』
「ケヴィン、すごく怖がってたから。何に怖がってたんだろう?」

『聞いてみなかったの?』
「隠してるみたいだったし、みんないるところで聞いたら可哀想かなって。もしそういうタイミングがあれば聞いてみる」

『そうだね、ケヴィンももし何かトラウマがあるなら、言えばちょっとは楽になるかもね』
「うん」

 ミオは立ち上がりバルコニーへ出ると、毎晩船の上から眺めていた月を見上げた。
 そんな彼女の姿をとらえる黒い影が居るとも知らずに。

⸺⸺

 深夜まで自室のバルコニーでワインをたしなんでいたエルヴィスもようやく寝入った頃、事件は起きる。

 パリンッとミオの部屋の窓を割り侵入したのは、先程闇夜に紛れていた黒い影。
 黒いタキシードにハットを被り、嘲笑あざわらうかのような嫌味な笑顔の白い仮面は、飛び起きたミオの恐怖をあおるには十分過ぎるほどだった。

 恐怖で声も出ない彼女に油断したのか、突如とつじょ腕に飛びついたクマのぬいぐるみに動揺して、男は手に持っていたナイフを床へと落とす。
 咄嗟とっさにぬいぐるみを壁へと振り飛ばすと、彼も何故か仮面に強い衝撃を受け、一緒になって壁に叩きつけられた。

「クロノ!!」
 目の前の見覚えのある背中に安堵あんどしたミオは、ようやく声を発することができた。
 部屋の扉はったのか突き飛ばしたのか部屋の中央付近まで飛ばされており、男が叩きつけられた壁は縦にズルズルと血がついていた。

「ミオ!」
「大丈夫!?」
「ミオっち!」
 ケヴィン、チャド、エルヴィスも直ぐに部屋へと駆けつける。

「だ、大丈夫……」

「何かされたか」
 クロノも振り返りミオの身を案じると、彼女は大きく首を横に振った。
 壁に叩きつけられていたポールは何事もなかったかのようにすくっと起き上がると、一目散にミオの胸へと飛び込んだ。

「ポール! 痛かった?」
『ううん、この身体神経なんてないから、何も感じなかったよ』

「そっか、良かった……二人とも、ありがとう……」
 ミオの顔にわずかながら笑みが戻ると、駆け付けた皆もホッと胸を撫で下ろした。

「てか、船長、あれ……」
 ケヴィンがグッタリしている仮面の男を指差すと、クロノはばつが悪そうに頭をいた。

「……殴り……殺したらしい」
 情報を得るため殺すつもりはなく殴るだけに留めたが、無意識に力が入ってしまっていたのだと彼は感じていた。

 実際に仮面を外し生死の確認をするがやはり死んでおり「あーあ」と双子に責められていた。

「おじさんがわがまま言ってこんな所に泊まったせいかも。ごめんね」
「違う違う、関係ないでしょ。私も泊まりたかったし……」
 一方でエルヴィスは少し責任を感じているようで、逆にミオになぐさめられていた。

⸺⸺

 通常であればしんと静まり返っているはずの深夜の城内は、泊まり込みで雇われているメイドらが忙しく走り回り騒然としていた。

 アルノーもすぐに問題の部屋へと駆け付け、ミオが無事なのを確認すると盛大に土下座をした。

「我が城でまさかこのような……本当に申し訳ありませんでした」

「そ、そんなアルノーさんは悪くないですよ……!」
 ミオは彼の前にしゃがみ、あたふたする。

「まぁ、正直俺らもコイツがかなり近付くまで気配が読み取れなかった。そういう訓練をしてる奴だ。警備の目くらいくぐるだろ、お前だけの責任じゃねぇ」
 クロノもそうフォローをすると、アルノーはようやく顔を上げ、大きなため息をついた。


「で、コイツに見覚えは?」
 クロノが男の死体を指差すと、アルノーはおどおどしながらそれをのぞきこんだ。

「し、死んでるんですか……?」
「あぁ、俺が殺した」

「ひぃぃ、すみません、死体にはなれてないもので……ただ、顔に覚えはありませんが、この格好と仮面は恐らく“幻想”ではないかと……」

「幻想……!?」
 ミオはキョトンとしたが、他の皆は知っているような驚き方だった。

「……すぐに解決しそうな問題じゃねぇっつうのは分かった、詳しい話は明日にする。今は、こいつを休ませてやりたい」

 クロノがミオへ視線を送りそう言うと、満場一致でひとまず解散となった。
 ルフスレーヴェは皆で一つの大部屋に泊めてもらい、次に船に乗ったときの夜の見張り番の順番であったケヴィンが朝まで見張りをすることとなった。


 ケヴィンがバルコニーのベンチに座ってボーッとしていると、ポールがてくてくと歩いて隣によじ登ってきた。

「あー、そっか、お前寝なくていいんだっけか」
『うん、必要なくても暇だから寝ようとしたけど、全然寝付けなくて諦めた』

「はは、そっか。寝なくていいのも考えもんだな」
『まぁね。ってか、ミオが心配してたよ』

「ミオが? 俺を?」
 ケヴィンは思わずポールを覗き込む。

『昼間、シミュレーションルームで怯えてたから』
「……あー……ミオにまで心配させちゃったか。ダセェよな、俺」

『なんかあったの?』
「まぁ、ガキん頃にちょっとな……」

『トラウマってやつ?』
「そ」

『まぁ、人には誰しもそういうことあると思うから、オイラは別に気にしないけどさ、もし、ミオに話せる機会があったら話してあげなよ。ミオは、自分の事のように思って聞いてくれるから、気が楽になるかもよ』

「良い子だもんな……けど、男は強がりたい生きもんなの。ミオにも心配すんなって言っといてくれよ」

『そっか、分かった。だけど、いつか爆発しちゃうと思うから、ケヴィンも……“チャド”も……。だから、ミオっていう逃げ道があるって覚えといて』

「! ……そうだな、ありがとな……」

『じゃ、オイラはこれで』
 ポールはそう言ってピョンっとベンチから飛び降りようとしたが、ケヴィンに捕まれベンチへと押し戻された。

「待て待て待て、こんなナイーブな気持ちにさせておいて自分だけ帰るなよ」
『えっ? こういう時って一人になりたいんじゃないの?』

「ふざけんなお前が蒸し返すから落ち込んじまっただろーが、なんかおもしれー話して責任取れ」
『えぇー……しょうがないなぁ。ミオのちっちゃい頃の変な癖、興味ある?』

「ある! そういうの待ってました!」

『くっ、ぽーる……みおはまだたえられる……おまえがさきにいけっ……!』
 ポールはベンチの上で四つん這いになり、悶えるような仕草をする。

「何処へ???」

『トイレ』
 ポールはそう言うとパッと仕草をやめて普通に座り直した。

「はははは!」

『それでお婆ちゃんがポールの後ろから“オイラはさっき行ったばっかりだから出ないんだ、だからミオ、早く行くんだ!”“なに、いつのまに! ではいかせてもらう!”』

「ばーちゃん大変すぎねーか?」
『うん、でも楽しそうだった』
「はは、そっか」




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