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第二章 刻の魔法と闇の暗躍

28話 続・フェリス島救出大作戦

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⸺⸺クロノサイド⸺⸺

 彼らは果樹園まであと少しのところまでやってきた。
「ねぇ、ここまで誰にも会わなかったね。建物の中まで見たのに……大丈夫かな」
 と、ミオ。

「死体も見てねぇだろ、みんな避難してるっつーことだ」
 クロノにそう言われ「あ、そっか」と安堵あんどする。

「家とかも船着き場周辺はひどかったけど、この辺はほとんど無事だな」
 と、アロルド。

『まだギリギリ火の玉が出せなかったんだろうね~』


 やがて彼らは果樹園へと辿たどり着く。
「ここが果樹園かぁ、大きいなぁ……」
 ミオはその小さな身体をめいいっぱい動かして、その広い果樹園を見渡した。

「島の半分が果樹園だって言ってたからな……」
 と、アロルド。

「そういえばさ、めっちゃ雷落ちてたしバチバチ聞こえてきたけど、アケルの木は思ったより無事なんだね」

 ミオは所々木が傷付いているのを発見したが、それは焦げたような跡ではなく、何かがぶつかって削れた様な跡だった。
 その傷はチャドによるものではなく、ガンズの棍棒によるものだと推測できた。

「確かにそうだな……」
 クロノも不思議そうにアケルの木を触って確かめていた。

「みんな~!」
「あ、チャド~!」
 ミオは呼びかける声がチャドだと気付き、手を振った。

「ここは全部終わったよ~」
 チャドはいつものようにヘラヘラと笑っていた。
「……なら、このままお前も一緒に来い」
「了解~」

「あ、この倉庫、地下への扉があるぜ!」
 アロルドが果樹園入り口付近にあった倉庫の中を探っていると地面に扉があるのを見つけた。

「この扉の奥、かすかに人の気配があるな。ここがシェルターで間違いねぇだろう」
 クロノが扉を持ち上げると、地下へ降りる階段が姿を現した。


 彼らが地下へ到達すると、広いフロアの中で何百人という人が缶詰状態になっていた。皆一斉に彼らを見る。

「俺らはフェリス島のマイクからの情報でこの島の危機を知り、ハーモニアの要請を受けて助けにきたクランだ」
 クロノがそう大声で呼びかけると、人々は一気にざわつき、だんだんと喜びの声が聞こえてきた。

「クランの皆様ありがとうございます。私はここの町長のエイダでございます。3日前に突然海賊からの襲撃を受け、皆で東西に別れて避難をしておりました」
 一人のお婆さんが杖を付きながら前へ出て、そう事情を説明した。

「あぁ。怪我人はいるか? 白魔道士を連れてる」
「それは助かります。重症の者はおりませんが、足をくじいたりりむいたりと軽傷の者がかなりおります」

「じゃぁ、初級の範囲魔法で一気に回復するね」
「あぁ、そうしてくれ」
 ミオはクロノの了承を得ると杖を握りすぐに静唱せいしょうを始めた。そして……。

⸺⸺初級範囲白魔法⸺⸺

「エリアヒール!」

「わぁ、治った!」
「すごい!」

 人々から歓声が上がり、目の前のエイダも感動していた。
「腰の痛みが引きました……! 杖がなくても歩けます……!」
「おぉ、結果オーライ」
 と、チャド。

「とりあえずみんな無事そうだな。なら、俺らは結界の修復をしてくる。道中でいくつか直したがまだ結界の機能が戻らねぇからまだどっか壊れてるはずなんだ」
「あぁ、ありがとうございます。お帰りをお待ちしております」
 エイダや皆に見送られ、一同は一旦シェルターを後にする。


「シェルター、いっぱい人が居て良かった……!」
 ミオはホッと胸を撫で下ろす。

『問題は結界だよ。このままいくとね、水晶が足りない』
「え~、それは困ったね。果樹園もまだまだ修復しないとだよ」
 と、チャド。

 そのやり取りを見てクロノは少し考え、ある提案をした。
「ミオ、お前試しにこのヒビの入った水晶に魔力を送り込んでみろ」

「うん、分かった。こうかな」
 ミオはクロノの手の中にある水晶へ手をかざし、魔力を送り込んでみる。
 すると、水晶のヒビが塞がり、それはかつての輝きを取り戻した。

「おぉぉ、直った!」
『これなら入れ替えなくても順番に島の端を一周したらいいね~』

「よし、やるか。アロルド、お前は一旦拠点に帰ってこのことを伝えろ。3時までに終わりそうもねぇ」
「了解っす!」
 アロルドは早速拠点に向かって走って行った。

「ミオはまず、この回収した水晶たちを直せ」
「よし、どんどん持ってきて~」
 ミオはグッと拳を握り、やる気を見せる。
 チャドとクロノがベルトコンベアのように次々に水晶をミオへ渡していき、直った水晶はチャドが腰のポーチへと回収していった。


「じゃぁ僕はこの直った水晶をケヴィンチームに渡して、東側から直していくようにするよ!」
「あぁ、頼んだ」
 チャドも去っていくと、クロノは残ったミオを抱き上げた。

「俺がひたすら走るから、お前はひたすら魔力を送り込んでいけ」
「よぉし、任せて!」
 クロノは一人リレーの様に、結界灯から結界灯へとひたすらに走り始めた。

⸺⸺ケヴィンサイド⸺⸺

「あれ? なんか拠点から大勢の人の気配がするな……」
 ケヴィンは気配を探るように視線を動かしていた。

「まさか入り口付近にあったんじゃ……」
 と、ジーナ。

「お前ら走るぞ」
「「「了解」」」


 彼らが走って拠点へ戻るとテントから長蛇の列ができており、そこから出てくる人は皆コーヒーをすすりながら出てきていた。

「僕らの苦労って一体……」
 カミッロがガーンと項垂うなだれると、ケヴィンが肩をポンと叩いた。

「まぁ、結界いっぱい直したし、無駄にはなってねぇさ」
 弱気なケヴィンはもうおらず、いつもの陽気な彼へと戻っていた。


 一方チャドは瞬間的にアロルドへ追いつき、2人で拠点へ戻ると皆へ事の詳細が伝えられた。
 そして島民の一部も協力し、皆で結界を修復していった。

⸺⸺

 すっかり日も暮れた頃、クロノと東サイドがようやく出会い、最後の水晶をミオが治すと、水晶らはまるで暗くなった島を照らすように、ポツポツと優しい光を灯していった。

「終わったー!!!」
 皆でお互いの努力を称え合い、抱き合ったり踊ったりとお祭り騒ぎになった。
 クロノも空いている方の手でミオとグータッチをした。

 念の為気配を探れるルフスレーヴェの皆で軽くパトロールをして魔物が再出現していないことを確認すると、西のシェルターの皆も解放され、ようやく全ての任務が完了した。


 パトロールから帰る頃には宿屋が復旧しており、一行は手厚くもてなされた。
 一日がかりの重労働に皆疲れ果て、宿屋の個室でそれぞれ死んだように眠り、島民が夜通しお祭り騒ぎなのも気にならないくらいだった。




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