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第二章 刻の魔法と闇の暗躍
27話 フェリス島救出大作戦
しおりを挟む⸺⸺東、ケヴィンサイド⸺⸺
ケヴィンパーティが魔物を倒しつつ、小走りで進んでいる。
「フェリス出身の海賊さんはシェルターは東西に1つずつあるって言ってたよね」
と、カミッロ。ジーナがうんと頷く。
「食糧庫にもなってるってことは、果樹園が奥にあるからシェルターも奥かな?」
「そうかもな」
と、ケヴィン。
「なら、最初に奥に突っ走った方が……」
「いや、それはな……」
ケヴィンがそう言いかけると、彼らの横を突然稲妻が駆け抜けた。
「きゃぁぁ、何、今の!?」
「今のってまさか……」
ランベルトは言葉の続きを求めてケヴィンを見る。
「そう、チャドだ……」
「「「ええええ~!!」」」
⸺⸺西、クロノサイド⸺⸺
東同様こちらも小走りで進んでいた。ミオだけは身体が小さいため割と全力である。
「なんでチャドだけ遊撃なの? 丁度4、4で分けれたのに」
と、ミオ。
「あいつはな、一人の方が力を発揮できるんだ」
「何でだ?」
アロルドが問いかけると、ミオの肩に乗っていたポールが身震いをするような仕草を見せた。
『今東の方をとてつもない速さで雷の気配が駆け抜けたけど、そういうこと?』
「そうだ。普通人は自分の属性を武器や魔法杖の経由なしに実体化させて体外に放出することはできねぇ」
「えーっと、つまり……?」
アロルドの頭にハテナが増える。
『つまり、ケヴィンだったら武器に氷をまとうことはできるけど、素手で氷を創り出すことはできない。アロルド、君ならそのうち爆炎斬りができるようになるけど、手のひらから火を生み出すことはできない』
「おぉ、そういうことか!」
アロルドが納得したところでクロノは説明を再開した。
「けど、チャドはそれができるっつーか気持ちが高ぶった時に身体から稲妻をバンバン放っちまって、制御ができねぇんだ。だからあいつはいつも気持ちを抑えてる。そうしねぇと俺らみんな感電死だからな」
「一人なら稲妻が出ちゃっても関係ないから、本気が出せるんだ」
と、ミオ。
「そうだ」
「そういう体質なの?」
「どうだろうな、マナに敏感なのかもな。正直俺も詳しいことはよく知らねぇ。ケヴィンもチャドも、あんま詳しく話そうとしねぇから」
「そっかぁ、コントロールできるようになったら良いのにね。ずっと気持ちを我慢してるなんて可哀想」
『ミオも魔力溢れ出ちゃうのコントロールできるようになったもんね』
「魔力が溢れ出ちゃうって何!?」
アロルドに新たな疑問が生まれる。
「最初私こうだったの」
ミオがそう言って魔力のコントロールをやめると、見える人にはミオの周りに白いモヤが溢れだしていた。
「わわわわ、やべーな……やっぱS級クランは、色んな意味でやべー……」
「まぁ、そういう訳で多分チャドが奥の魔物は一掃するだろうから、俺らはこのまま手前から順に攻めていくぞ」
「了解っす!」
⸺⸺ケヴィンサイド⸺⸺
「あれ、もう果樹園だけどシェルターっぽい入り口はなかったわね……」
と、ジーナ。
「建物の中もそれっぽい感じじゃなかったしな」
ランベルトが続く。
「どうする? 果樹園の中も探す?」
カミッロがケヴィンへ指示を仰ぐと、ケヴィンは顔を引きつらせて首を横に振った。
「ま、まだ雷バチバチ言ってるから、結界灯の水晶を交換しつつ一旦引き返そう。入口付近にあったのに見逃してるかもしれないしな」
「了解……」
ランベルトはいつもと違い弱気なケヴィンへ違和感を覚えていた。
彼から見て、どことなく怯えているように見えたからだ。しかし、触れていい雰囲気ではなく、素直に彼の指示に従うことにした。
⸺⸺拠点⸺⸺
「よし、これで整備は完了だ」
マウロが一息ついて、額の汗を拭った。
「俺も終わったぜ~、とりあえず休憩するか~」
エルヴィスは伸びをしながらマウロと合流し、二人は拠点のテントへと入っていった。
「それにしても私には、自分のこと“おじさん”って言わないんだね」
「いやだってマウロの方がおじさんだしな……」
「ははは、そうだろうね。エルヴィスはいくつなんだい?」
「俺は36だぜ。マウロのおっさんは?」
エルヴィスは挽いたコーヒー豆にゆっくり湯を回し入れながら問い返す。
「私は48だよ。君はまだまだ若いんだからおじさんなんて言わなくてもいいのに」
「俺も心はあんたくらいおじさんな訳よ。うちの若いもんみたいに夢を追いかけるのは疲れた組なの。ほい、どうぞ」
エルヴィスはマウロへ淹れたてのコーヒーを差し出す。
「お、ありがとう、いい香りだ。じゃぁ、君の弟くんが一生懸命探しているアルなんちゃらは、興味ないのかい?」
「ぜんっぜん1ミリも興味ないね。俺はこうやってぐだぐだだらだら世界中旅してんのが好きで、付いてってるだけだからな」
「そんなこと言ったら弟くんに怒られるぞ。赤いモヤモヤのやつで」
「はっはっは。クロノ君ももうとっくに気付いてるよ」
その時、テントの外に人の気配を感じたエルヴィスはコーヒーを淹れるのをやめて、外の気配へ集中した。
「あの……誰かいますか……?」
怯えた男性の声が聞こえ、エルヴィスが外に出るとヒュナムの男がこっちを見てぶるぶると震えていた。
「お、あんた一体どこから? この島の人か?」
「は、はい……」
「そうか、良かった。俺らはあんたらを助けに来たんだよ。今仲間が島中の魔物を狩り尽くしてる。ほら、果樹園の方の落雷も、敵っぽいけど、味方だ」
「ああぁぁ、良かった、もう駄目かと……」
男はそのままずるずると腰を抜かしてしまった。
「おいおい、大丈夫か? この辺にシェルターがあんのか?」
エルヴィスは咄嗟に男を支える。
「は、はい……そこに入り口があります」
男が指差した先には倉庫があり、その扉から出てきたようでさっきまで閉まっていた扉が開いていた。
「あ~、東側だな~。ケヴィン君アウト~。ま、ケヴィン君は途中で引き返して来るだろうけど……」
男が歩けるようになると、エルヴィスはマウロを連れて3人でシェルターの中へと入っていった。
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