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第一章 不思議な魔力と旅の目的
19話 聖女
しおりを挟む「ココ、コロサレル……ノハ、オマエダー!!」
ガンズが黒い気を吹き出しながらクロノへ突進をしてくる。
クロノは動じず自身の体勢を低くし、グッと踏み込んだ。
すると彼の体から赤いオーラが発せられ、その気迫に観客は皆鳥肌が立った。
そして更に彼の身体からバチバチと紫色の電気が走ると、電光石火の速さでガンズの背後へ斬り抜けた。
⸺⸺奥義 紫電一閃⸺⸺
皆はクロノが一瞬消え、ガンズの背後に現れたように感じた。
そこで彼らは初めてその真っ黒な刀身を目視することができた。
クロノが刀をヒュッとひと振りし、ゆっくり納刀すると、そのカチッという音と共にガンズが全身から血飛沫を上げて崩れ落ちた。
そしてその黒い気に汚染された死体は、棍棒と共にチリチリと黒い霧となって消えていった。
しばらく静寂の時が流れる。それは皆が何が起こったのかを確認する時間だった。
やがてあちこちから「すげぇ」「今の見えたか?」などポツポツと会話が漏れ始めると、主に海賊を中心に大きな歓声が上がった。
「あの身体が赤くなったのもアウラってやつ?」
ミオは落ち着きを取り戻しつつポールへ質問する。
『そう、“血昇のアウラ”。全身の血の巡りを早くして身体能力を底上げする技』
「で、その状態の時に発動できんのが、奥義。船長のは“紫電一閃”、カッコイイだろ?」
と、ケヴィン。
「か、かっこよ……」
ミオはポッと頬を赤らめる。
「ずっと疑問だったんすけど、クロノさんは雷属性なんすか? 俺にはクロノさんの魔力が見えなかったので」
「違うよ、電気が走ったのは、身体中の静電気。属性は秘密~」
チャドがアロルドの質問に答えた。
「黒魔症はやっぱり殺すしかないんだね……」
そのミオの問いに対し、エルヴィスが反応する。
「今回は、完全に黒魔症を発症してなくても殺したと思うよ。ミオっちのいた所がどういう所かはおじさんたちには分からないけど、海賊の世界は弱肉強食。あれを野放しにしていたらどんどん犠牲が増えるって、クロノ君は感じたんだよ。少なくともおじさんは、あれが居なくなってホッとしてる」
「そっか……うん、私のいた所は、人を殺しちゃいけないっていう決まりがあったけど、それが前提にあっても、今回の人が居なくなって、正直私もホッとしてる……かなり衝撃だったけど……」
「クロノ君、だいぶ派手に仕留めたからね。大丈夫? 気分悪い?」
「ううん、なんとか大丈夫。今日、怪我してる人を沢山見て、頭が麻痺してるのかもだけど……」
「こんなのすぐになれるもんじゃないから、無理しちゃだめよ。しんどかったら休憩してもいいのよ」
「エルヴィス、ありがとう。でも、大丈夫」
ミオは身体の前でグッと握り拳を作り、エルヴィスへ元気なアピールをした。
この歓声を聞きつけて、洞穴に隠れていた村民も次々に村へと戻ってきて、それぞれ事情を聞いていた。
だんだんと歓声が大きくなってきた時、クロノがそれを制した。
「まだ終わってねぇ!! 本当に苦しいのはこっからだぞ……」
皆しんとしてクロノの目線を追うと、村長の家への小道から、黒いモヤをまといゾンビの様なよたよたとした歩き方の人たちが姿を表した。
「爺ちゃん!!」
「父さん、母さん……そんな……」
それは、安否不明になっていた残りの村民で、ランベルトの祖父である村長や、カミッロの両親も漏れなく混ざっていた。
「みんな、黒魔症を発症してるね……」
エルヴィスが残念そうに言う。
「あのガンズってやつの他にも小さい魔物っぽい気配がしてたんだけど、わりぃ、言い出せなかった……」
と、ケヴィン。
「ちょっと何処かで覚悟はしていました、でも、実際に見ると……やっぱり悲しいです……」
ランベルトが悔しそうに声を絞り出した。
「ここまでクロノさんに責任を押し付けるのは、自警団長として示しがつきません。ここは私達がいきましょう」
クラークが数名の自警団員を連れてクロノの前へ出る。
そして彼らが武器を構えると、気持ちを抑えきれなくなったミオが飛び出した。
「ダメー!!!」
その瞬間、ミオの身体から白い光が噴き出し辺りを明るく照らす。
『ミオ、これは……!』
自警団員らがその光に呆気に取られているうちに、ミオは光をまとったままクロノの横を通り過ぎ、自警団員らの前へ出た。
黒魔症の村民らと向かい合うと、涙を流しながら手を差し伸べた。
すると、その手から放たれた光は村民らを包み込み、黒いモヤを絡めとるようにして天へと消えていった。
ミオの身体からも光が消えると、彼女と村民たちが次々に意識を失って倒れていった。
「ミオ!!」
クロノが駆けつけミオを抱き上げると、彼女はゆっくりと目を開いた。
それと同時に黒魔症を発症していた村民たちもよろよろと起き上がり、黒いモヤは消え正気を取り戻していた。
「わ、ワシらは一体……」
「何か悪い夢を見ていたような……」
「な、村中がボロボロに!!」
皆口々に言葉を発する。
「私今何したのかな……?」
ミオもクロノに抱えられたまま、キョトンとしていた。
「お前は、黒魔症を治したんだ……」
クロノ自身もその事実を再確認するように彼女へ伝えた。
「聖女だ……」
「そうだ、聖女だ!」
「聖女ミオ様!」
「ミオ様……!」
その光景を見ていた皆はミオを賞賛し、今度こそ大歓声が上がった。
また、皆の様々な努力により、村は壊滅したが死者は事の元凶だけという結果に終わった。
お互いにその功績を称え合い、生きている喜びを噛み締めた。
刻は夕刻。夕日に照らされた漁村ルーファ跡地には、その場に似つかわしくないくらいに活気が溢れ、ようやく到着したハーモニア自警団の後発部隊は、呆然と入り口に立ち尽くしていた。
⸺⸺
ルーファ北の崖の上には、小さい黒いローブと大きい黒いローブの姿があった。
そこから一部始終を目撃していた二人は、幼女と妖艶な女性の声で会話していた。
「アタシのおもちゃ、もう壊れちゃったです」
「あの女も黒魔症を治した? 只者ではないわね」
「どうするですか、マイア。メローペが皆殺しにしてきますか?」
「いいえ、あの剣士だけじゃない。他にも複数のやり手がいるわ。一度戻ってあの方に報告するわよ」
「はーい」
マイアと呼ばれた大きい方のローブが黒い杖を地面へ突き立てると、地面から黒いモヤが湧き上がり、二人はそのモヤの中へ姿を消した。
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