上 下
19 / 228
第一章 不思議な魔力と旅の目的

19話 聖女

しおりを挟む

「ココ、コロサレル……ノハ、オマエダー!!」
 ガンズが黒い気を吹き出しながらクロノへ突進をしてくる。

 クロノは動じず自身の体勢を低くし、グッと踏み込んだ。
 すると彼の体から赤いオーラが発せられ、その気迫に観客は皆鳥肌が立った。
 そして更に彼の身体からバチバチと紫色の電気が走ると、電光石火でんこうせっかの速さでガンズの背後へ斬り抜けた。

⸺⸺奥義 紫電一閃しでんいっせん⸺⸺

 皆はクロノが一瞬消え、ガンズの背後に現れたように感じた。
 そこで彼らは初めてその真っ黒な刀身とうしんを目視することができた。

 クロノが刀をヒュッとひと振りし、ゆっくり納刀すると、そのカチッという音と共にガンズが全身から血飛沫ちしぶきを上げて崩れ落ちた。
 そしてその黒い気に汚染された死体は、棍棒と共にチリチリと黒い霧となって消えていった。


 しばらく静寂の時が流れる。それは皆が何が起こったのかを確認する時間だった。
 やがてあちこちから「すげぇ」「今の見えたか?」などポツポツと会話が漏れ始めると、主に海賊を中心に大きな歓声が上がった。

「あの身体が赤くなったのもアウラってやつ?」
 ミオは落ち着きを取り戻しつつポールへ質問する。

『そう、“血昇けっしょうのアウラ”。全身の血のめぐりを早くして身体能力を底上げする技』

「で、その状態の時に発動できんのが、奥義。船長のは“紫電一閃”、カッコイイだろ?」
 と、ケヴィン。

「か、かっこよ……」
 ミオはポッと頬を赤らめる。

「ずっと疑問だったんすけど、クロノさんは雷属性なんすか? 俺にはクロノさんの魔力が見えなかったので」
「違うよ、電気が走ったのは、身体中の静電気。属性は秘密~」
 チャドがアロルドの質問に答えた。

「黒魔症はやっぱり殺すしかないんだね……」
 そのミオの問いに対し、エルヴィスが反応する。

「今回は、完全に黒魔症を発症してなくても殺したと思うよ。ミオっちのいた所がどういう所かはおじさんたちには分からないけど、海賊の世界は弱肉強食。あれを野放しにしていたらどんどん犠牲が増えるって、クロノ君は感じたんだよ。少なくともおじさんは、あれが居なくなってホッとしてる」

「そっか……うん、私のいた所は、人を殺しちゃいけないっていう決まりがあったけど、それが前提にあっても、今回の人が居なくなって、正直私もホッとしてる……かなり衝撃だったけど……」

「クロノ君、だいぶ派手に仕留めたからね。大丈夫? 気分悪い?」
「ううん、なんとか大丈夫。今日、怪我してる人を沢山見て、頭が麻痺してるのかもだけど……」

「こんなのすぐになれるもんじゃないから、無理しちゃだめよ。しんどかったら休憩してもいいのよ」
「エルヴィス、ありがとう。でも、大丈夫」
 ミオは身体の前でグッと握り拳を作り、エルヴィスへ元気なアピールをした。


 この歓声を聞きつけて、洞穴に隠れていた村民も次々に村へと戻ってきて、それぞれ事情を聞いていた。

 だんだんと歓声が大きくなってきた時、クロノがそれを制した。
「まだ終わってねぇ!! 本当に苦しいのはこっからだぞ……」

 皆しんとしてクロノの目線を追うと、村長の家への小道から、黒いモヤをまといゾンビの様なよたよたとした歩き方の人たちが姿を表した。

「爺ちゃん!!」
「父さん、母さん……そんな……」

 それは、安否不明になっていた残りの村民で、ランベルトの祖父である村長や、カミッロの両親も漏れなく混ざっていた。

「みんな、黒魔症を発症してるね……」
 エルヴィスが残念そうに言う。

「あのガンズってやつの他にも小さい魔物っぽい気配がしてたんだけど、わりぃ、言い出せなかった……」
 と、ケヴィン。

「ちょっと何処どこかで覚悟はしていました、でも、実際に見ると……やっぱり悲しいです……」
 ランベルトが悔しそうに声を絞り出した。

「ここまでクロノさんに責任を押し付けるのは、自警団長として示しがつきません。ここは私達がいきましょう」
 クラークが数名の自警団員を連れてクロノの前へ出る。

 そして彼らが武器を構えると、気持ちを抑えきれなくなったミオが飛び出した。

「ダメー!!!」

 その瞬間、ミオの身体から白い光が噴き出し辺りを明るく照らす。

『ミオ、これは……!』

 自警団員らがその光に呆気に取られているうちに、ミオは光をまとったままクロノの横を通り過ぎ、自警団員らの前へ出た。
 黒魔症の村民らと向かい合うと、涙を流しながら手を差し伸べた。
 すると、その手から放たれた光は村民らを包み込み、黒いモヤを絡めとるようにして天へと消えていった。
 ミオの身体からも光が消えると、彼女と村民たちが次々に意識を失って倒れていった。

「ミオ!!」
 クロノが駆けつけミオを抱き上げると、彼女はゆっくりと目を開いた。
 それと同時に黒魔症を発症していた村民たちもよろよろと起き上がり、黒いモヤは消え正気を取り戻していた。

「わ、ワシらは一体……」
「何か悪い夢を見ていたような……」
「な、村中がボロボロに!!」
 皆口々に言葉を発する。

「私今何したのかな……?」
 ミオもクロノに抱えられたまま、キョトンとしていた。

「お前は、黒魔症を治したんだ……」
 クロノ自身もその事実を再確認するように彼女へ伝えた。

「聖女だ……」
「そうだ、聖女だ!」
「聖女ミオ様!」
「ミオ様……!」
 その光景を見ていた皆はミオを賞賛し、今度こそ大歓声が上がった。

 また、皆の様々な努力により、村は壊滅したが死者は事の元凶だけという結果に終わった。
 お互いにその功績を称え合い、生きている喜びを噛み締めた。


 とき夕刻ゆうこく。夕日に照らされた漁村ルーファ跡地には、その場に似つかわしくないくらいに活気があふれ、ようやく到着したハーモニア自警団の後発部隊は、呆然と入り口に立ち尽くしていた。

⸺⸺

 ルーファ北の崖の上には、小さい黒いローブと大きい黒いローブの姿があった。
 そこから一部始終を目撃していた二人は、幼女と妖艶ようえんな女性の声で会話していた。

「アタシのおもちゃ、もう壊れちゃったです」
「あの女も黒魔症を治した? 只者ではないわね」

「どうするですか、マイア。メローペが皆殺しにしてきますか?」
「いいえ、あの剣士だけじゃない。他にも複数のやり手がいるわ。一度戻ってあの方に報告するわよ」
「はーい」

 マイアと呼ばれた大きい方のローブが黒い杖を地面へ突き立てると、地面から黒いモヤが湧き上がり、二人はそのモヤの中へ姿を消した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...