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第一章 不思議な魔力と旅の目的
18話 黒魔症
しおりを挟む「さてと、じゃ、広場の方に戻るか」
クロノが立ち上がると、アロルドの父も一緒に立ち上がった。
「私もお供させて下さい、今回の事件の分かっていることをお話します」
「分かった、ピスキスも来るか?」
「はい!!」
クラークに連れられてルフスレーヴェ、ピスキス、そしてアロルドの両親らが村の酒場前へと戻った。
そこでは海賊50人が全員ロープで縛られて自警団員に監視されていた。
「誰でもいいから一人解放しろ。酒場で話を聞く」
「分かりました、ならお前出ろ」
「は、はい……」
クロノからの指示で自警団員に解放された海賊は、大人しく付いてきて酒場へと入った。
⸺⸺魚猫亭⸺⸺
酒場に入るとそれぞれ別れてテーブルに付き、皆が中心へ身体を向けた。
「まず、私からお話します」
アロルドの父が口を開いた。
「お昼前の出来事でした。私たち漁師が漁から帰り、魚の選別をしていた時でした。突然火球が海の方から飛んできて、家が次々に破壊されていきました」
「火球……」
アロルドが思わずそう復唱する。
「私達がパニックになっているとすぐにドクロマークを掲げた海賊船が来港しました。まずとてもガタイの大きなヒュナムの男が降りてきて、持っていた棍棒を振り回すと棍棒から火球が次々に飛び出し、漁船を沈めていきました」
「なんと、属性技を使う野良海賊とは……」
と、クラーク。
「野良海賊って何かな……」
ミオはコソッとポールへ質問する。
『クランに入ってない悪い海賊のこと。そういう奴らは何故かドクロマークを掲げるんだよ』
「なるほどー、ありがとう」
コソコソと二人のやり取りは終わった。
「奴が頭でいいんだね?」
アロルドの父が海賊へ尋ねると、海賊は何度もコクコクと頷いたので、アロルドの父はそのまま話を続けた。
「頭は正気ではないようで、後から出てきた手下の海賊たちも酷く怯えているようでした。頭は私を捉えるよう指示し、10分後に様子を見に来るから他は皆殺しにしておけと命令を出し、村長の家の方へ消えていきました。何か異様な雰囲気を感じた私はあえて逃げずに捕まることにしました。海賊たちは私を連れて酒場にこもり、殺したくないどうしようと困っていたので、私は北の入り江に人が沢山入れる洞穴があると海賊たちへ伝えると、海賊たちは村民を追い立てるようにして北の入り江へと逃してくれました」
「みんなが洞穴に集まっていたのはそういうことだったんだねぇ……」
と、アロルドの母。
「10分後に頭が戻ってきて、まず村の入り口から街道を確認しました。それで誰も逃げていない事を確認すると、満足そうに村長の家の方へ戻って行ったのです。それからしばらく頭の動きはなく、今に至ります。ただ、村長……そこのランベルト君のお祖父様ですが、彼を含む村長の家に居たはずの10名程が洞穴には居ませんでしたので、そちらが心配です……」
「爺ちゃん……」
「僕の父さん母さんも、村の役場の仕事で村長の家に居るはずだから、あそこには居なかったのか……」
ランベルトとカミッロが悔しそうな表情を見せる。
「質問いいか」
と、クロノ。
「はい、何でしょうか」
「正気じゃねぇっつうのは具体的にどういう状態だったんだ?」
「目が赤黒く光り、体中が黒いモヤで覆われていて、まるで魔物の様でした」
「それって……!!」
ミオが咄嗟に声を上げる。
「ええ、おそらく黒魔症だと……」
アロルドの父がそう続けると、海賊が割って入ってくる。
「でも、黒魔症ってのは自我はもうないんでしょう? 頭は、俺らにちゃんと指示を出すし、俺らが気に入らない事をすれば、殺されます……とても、自我がないとは思えないんですが……」
「俺もそれが気になってる。お前、なんか心当たりねぇのか?」
クロノが海賊へ聞き返すと、次は海賊が語り始めた。
「あの……言い訳っぽくなっちゃうんですが、俺、いや、俺らはみんな元々ただの島民なんです。そこの彼の様に、村を襲っては一人捕まえて無理矢理部下にしてきたんです」
「何?! それでは私は海賊にされるところだったのか……」
アロルドの父が驚きを顕にする。
「はい……みんな死ぬのが怖くて、ずっと従ってきました。でも、最近までは、あんな黒魔症みたいな状態ではなく、普通の様子でした」
「普通の状態でも、村を襲っていたってことですね……」
そう言うクラークに対し、海賊は申し訳なさそうに頷いた。
「様子がおかしくなったのは、今朝からなんです」
「今朝だと? 何か変わった事は?」
と、クロノ。
「今朝は思い当たりませんが、あるとすれば5日ほど前、全身黒いフードを被った少女からもらったあの棍棒でしょうか……あの棍棒は貰った時点で黒いモヤに包まれていましたので」
「何でそんな物くれたんだ?」
と、ケヴィン。
「分かりません、幼い声で、おじちゃんこれあげる、とだけ言って何処かへ去ってしまいましたから。でも頭はその棍棒を酷く気に入っていました。それから数日すると火の玉も出せるようになっていました」
「! 船長……!」
チャドが不意に立ち上がりクロノを呼び止めるので、皆驚いて彼に注目する。
クロノは呼ばれた意図が分かっているようだった。
「村長の家はこっから南か?」
「はい、南の小道を進んだ先にありますが……何故それが分かって……」
クロノの問いに対し、アロルドの父が不思議そうに答えた。
「俺はこの話を聞くまでずっと村の外に魔物が居るんだと思ってた。この件が片付いたら倒しておくか、くらいのレベルに考えてた。けど、どうやらそれがそのお頭とかいう奴らしい」
「今、こっちに向かってきてるんだ!」
そうチャドが付け加えると、皆は軽くパニックになり、海賊に至っては恐怖で生気を失っていた。
「俺が迎え撃つ、お前らも建物の中はかえって危険だから全員外に出て、戦える奴らは戦えねぇ奴らを守れ。外で縛ってる奴らも全員解放しろ」
「了解!」
クロノの一声で全員が酒場を飛び出し、クラークは外で待機していた自警団員へ指示を出し、彼らによって海賊らもすぐに解放された。
ミオやアロルドの両親など戦えない者たちはルフスレーヴェやピスキスの後ろに隠れ、状況を見守った。
そして、クロノが一人で南の小道の方へと向かい、全身黒いモヤで覆われた大男、ガンズと対面した。
「なんか様子がおかしいと思って来てみればなんだてめぇらは」
口から黒い霧を吐きながらガンズが言った。
「村長たちはどうした?」
「うるせぇな俺様が質問してやってんだ答えろゴミ屑が!!」
ガンズはそういうと同時に棍棒を振りかざし、クロノへ火球を飛ばした。
しかし、火球はクロノへ届くことなく少し手前で真っ二つに斬れて消えていった。
「てめぇ……何しやがった!!」
ガンズがブチ切れるのと同様に、観客らも戸惑っていた。
「な、何が起こったの?」
目をパチクリさせているミオに対し、チャドが自慢げに返事をする。
「今ね、船長、火の玉を斬ったんだよ」
「きっ……え?」
「私にはクロノさんは動いてないように見えました……」
ミオに続きジーナも信じられないという表情を見せる。
「お、俺は一瞬クロノさんの手がちょっと動いたように見えたっす……」
と、アロルド。
「お、やるなアロルド。船長はあの一瞬で抜刀して、斬って、納刀したんだよ」
ケヴィンがそう言うと、皆状況も忘れて「ええぇぇぇ~!!」と絶叫した。
『そもそも火って斬れるんだ……』
知識人のポールですら唖然とする。
「あれ? 火ならクロノ君だけじゃなくてチャド君も斬るよね?」
と言うエルヴィスに対し皆またしても絶叫する。
すると、ブチ切れていたガンズに異変が出始める。
「コ……コロ……ス。オマエ、ウザ、ウザ……イ」
目の赤黒さが際立ち、自我がなくなっているようだった。
「今、完全に黒魔症が発症したらしい。殺す」
クロノは振り返って観客にそう伝えると、刀の柄に手をかけた。
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