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第一章 不思議な魔力と旅の目的
15話 S級クラン ルフスレーヴェ
しおりを挟む⸺⸺漁村ルーファ⸺⸺
木造の家が立ち並び、入り口から漁港が一望できる程の小さな村であるが、漁業が盛んで村民の暮らしは豊か。
普段ならば穏やかでゆったりとした時間が流れているはずだが……。
「うそ……だろ……?」
アロルドはその場へ崩れ込み、燃える家々を呆然と眺めていた。
クラニオ族特有の立派なヒレは、すっかり萎れてしまっていた。
「みんなは……? まさか……お父さん、お母さん……」
ジーナの瞳からは大粒の涙が溢れる。
カミッロとランベルトもそれぞれ愕然としていたが、クロノの言葉で少しの希望が芽生えることになる。
「お前ら落ち着け、まだ人の気配がある」
「え、マジっすか!? ど、どこに!?」
アロルドはクロノの足にしがみついた。
「そこの目の前の酒場は50人程度、それから北の方に100人以上の気配を感じる」
「北の方……入り江にある洞穴かもしれねぇ!!」
アロルドの目に覇気が戻る。
「けど、そっちの北の方は弱ってるやつが多い。村民なら早いとこ回復しねぇとマズイぞ」
クロノがそう言うと、クラークが割って入ってくる。
「白魔道士たちを北の方へ行かせます。ピスキスの皆で先導してください」
「はい、了解です!」
「水属性の黒魔道士は村中の消火を、残りの者は逃げ遅れた村民がいないか見回りを」
「了解!」
「俺らは酒場に行く。この辺りは酒場だけ無傷だし、どうもそこにいるのは村民じゃねぇ気がする」
と、クロノ。
「そうですね……私もお供します」
「ミオ、お前はピスキスの奴らを手伝ってこい。あっちは妙な気配はなく安全だ」
クロノがミオを降ろすと、彼女は大きく頷いてピスキス白魔道士隊へと合流した。
皆がそれぞれの持ち場へ向かおうとしたその時、クロノの勘は当たり、酒場からゾロゾロと武装をしたガラの悪い連中が顔を出した。
「こ、ここはガンズ海賊団が占領した。か、かか勝手に入ってくんじゃねぇぞ」
連中の一人が辿々しく脅しをかけてくる。
「く、野良海賊か……! 殲滅しなければ……しかし数が多すぎる」
そう言うクラークに対し、クロノが静止をかける。
「待て待て、明らかに様子がおかしいだろ。まるで覇気がねぇ。ここは俺らがやる」
「よ、4人だけでですか?」
「十分だろ」
「なんならおじさんも観客側でもいいのよ」
エルヴィスがヘラっと割り込んでくるが、クロノに「お前は戦え」と殴られていた。
「わ、分かりました……皆! 手を出さずにその場で待機!」
クラークの指示で、動揺していた自警団員たちは少し後ずさり、海賊らとクロノらを取り囲むように見守った。
白魔道士たちを率いるピスキスとミオもまた、入り江への道を海賊らに塞がれて立ち往生を食らっていた。
クロノら4人が武器も持たずにずんずんと海賊らに近づいていくと、彼らは明らかに動揺を見せてサーベルを構えながら後ずさっていく。
「なんだ、やんねぇなら酒場に引っ込んでろ、邪魔だ」
クロノがそう見下すように言うと、馬鹿にされた海賊らは叫びながら一斉に跳びかかってきた。
クロノには5人斬りかかってきたが、彼は刀を抜くこともなく両腕で全ての刃を受け止める。
まるで鋼のように硬くなった彼の両腕は、何度斬ろうとしてもキン、キンと弾き返していた。
「気、済んだか?」
「ひぃぃぃ」
海賊らは目の前のありえない光景にすっかり青ざめたまま、クロノに殴り飛ばされそのまま意識を失った。
ケヴィンもまた何人もの刃をクロノ同様素手で受け止め、チャドは素早く相手を撹乱させて蹴り飛ばしていた。
一番やる気のなかったエルヴィスは戦い方も一番やる気がなく、まるで酔拳のようにふらふらと攻撃をかわし、わざと股間を狙って軽く蹴り飛ばしていた。
ものの数分で50人程いた海賊は全滅、エルヴィスの周りの者は皆股間を押さえて悶ており、他は全員気絶している状態だった。
ピスキスの皆とミオは「すごいすごい」とテンションが上がりまくり、自警団員らからも拍手喝采だった。
「たった4人、しかも素手で……これがS級クラン……」
クラークはそう独りで呟きぼーっと突っ立っていた。
「ミオ! お前らは早く行け!」
クロノにそう言われて観客気分から我に返ったミオらは慌てて入り江へ駆けていった。
「さて、こいつらから話を聞きてぇところだが……」
「全員伸しちゃったね~」
チャドにヘラヘラと笑われて、クロノは罰が悪そうに頭を掻いた。
「あのピクピクしてんのは?」
ケヴィンがエルヴィスの周りで悶ている者を指差す。
エルヴィスはそのうちの1人の股間を指で突っついていた。
「よく見ろ白目向いてんだろ」
「マジか……あいつらが一番重症なんじゃ……」
クロノは呆れ、ケヴィンは苦笑した。
「仕方ねぇ、俺らもしばらく見回りだ。クラークさん、ここ任せていいか」
「分かりました、誰かが目を覚ましたら報告します」
「あぁ頼む」
クロノらはそれぞれの方向へ散っていった。
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