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第五章 聖女の奇跡

63話 悪夢再び

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「そう、アタシのお人形壊したの、あんただったの」
「アイーダ……! 貴様!」

 ビジョンが終わった瞬間、私たちの目の前に12年前と容姿の全く変わらないアイーダが現れる。彼女もどこかで気配を消してビジョンを見てたんだ。

 お父さんは即座に斧を構えて飛びかかるが、アイーダはシュンッとその場から消えて気付けば別の場所へ移動していた。
 腐っても元魔女の森の人間。上級魔道士が使える瞬間移動の技である“魔道回避”を普通に使ってくる。

「あの禁術、アタシの命を使ってやっと1回発動できるものだったのよ? それを少し目を離してる間に、あんな簡単に壊してくれちゃって。あんた親友じゃなかったの?」

「貴様……」
 お父さんの斧を持つ手がわなわなと震える。そんな彼を見て、私は思わずこう噛み付いた。
「うるさい黙って! あんたなんかに何が分かんの!」

 お父さんのことをよく知らなかった私でもあれを見たら、お父さんとアドルフさんが仲良かったことなんか一瞬で分かる。
「ルカ……」

「何であんたが出しゃばってくんの? まさか、ついさっきまで赤の他人だった癖に親だって分かった瞬間情が湧いてんじゃないでしょうね?」
 アイーダはそう言って嘲笑う。

「だったら何!? この短時間でもお父さんの子供に対する愛情がすごく伝わってきた。自分がその子供だったんだからそんなの嬉しいに決まってるでしょ? 情くらい湧くよ!」
 私がそう言うとお父さんの震えは止まり、彼は1度大きく深呼吸をした。
「ありがとうルカ。おかげ安い挑発に乗らずに済んだ」

「何よ……」
 今度はアイーダがわなわなと震え出す。

「皆、奴は何をしてくるかわからない。気をつけろ」
 オーウェン団長の一声で皆彼女に集中し、私はお父さんにセシル皇帝陛下と巫女様の側に押される。

「お前はセシルを守れ。テオバルトもこっちだ」
「はい!」
 お父さんにそう言われ、テオもこちらへ合流すると、その前に残りの全員が立ちはだかった。

「家族愛見せつけてそんなに楽しい!? ウザいのよそういうの! アタシね、あんたたちが間抜けにビジョンを見ている間に、巫女の時を操る魔力をこっそり吸収してたのよ?」
「何ですって……すみません、気付きませんでした……迂闊です」
 巫女様が苦い顔をする。

「そんなの吸収してどうするつもりだ!」
 と、オーウェン団長。

「喜びなさいアドルフの嫡男ちゃくなん。あんたの大好きなお父さんに合わせてあげる」
「!?」

 アイーダの身体が黒い魔力で包まれていき、何かを発動しようとしたのでラスさんが弓で応戦するも、その黒い魔力によって矢が弾かれてしまう。

 オーウェン団長が飛びかかろうとするが、お父さんが「よせ、触れるな!」と制し彼はあと一歩のところで踏み止まる。
「あの黒い魔力には触れないほうがいい」
「分かりました……」

⸺⸺そして私たちの前の地面から、アイーダの下僕の状態のアドルフさんが湧き出てきた。

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