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第五章 聖女の奇跡
62話 友の為に友を斬る
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※戦いによる少し過激な表現があります。ご注意下さい※
完全に身体の自由を失ったアドルフさんは、魔女や白狼騎士団員たちを次々に葬っていく。
殺された彼らはまるで魔物が討伐された時のように黒い霧となって消えていった。そしてその黒い霧はそのままアドルフさんへと吸収されていく。
恐らく悪魔の力によるものだろうと私は考えた。
1万もの騎士たちが消えた真実は、身体を乗っ取られたアドルフさんによる攻撃で消滅したということだった。
⸺⸺
アドルフさんは10分足らずでその場の皆を消滅させた。
そしてマリエルさんが身体を引きずって戻ってくると、アドルフさんは容赦なく詰め寄り、彼女の心臓を槍で貫いた。
『あな、た……独りにして、ごめ……なさ……』
『グアァァァァァッ!』
彼は獣のような雄叫びを上げて、涙をボロボロと流していた。身体の自由が利かなくなっても、意識だけは微かに残ってるんだ。
酷い、こんなのあんまりだ。
さっきアイーダの気持ちが少し分かるみたいな事言ったけど、やっぱり全然分からない。
もう彼女に同情の余地なんてない。私は、そう強く思った。
『はいお疲れ様。じゃぁしばらくこのままここでジッとして、黒い気を全部吸収しちゃってちょうだい。アタシたちは一旦ここを離れるから、待て、よ。良いわね……』
アイーダはそう言って高笑いをしながら森の外へと去っていった。
⸺⸺
巫女様が少し時を進めると、集落の真ん中で呆然と立ち尽くすアドルフさんのもとへ、若かりし頃のお父さんがやってきた。
『アドルフ……? アドルフなのか!?』
お父さんははぁ、はぁと息を切らしている。
『アヴァ……リス……コロ、コロシテ……』
アドルフさんはボロボロと泣きながら苦しそうにそう懇願する。
『何!? その姿で意識があるのか!? ……黒魔症……ではないのか……』
黒魔症とは、魔物を構成する“黒い気”という気体を人間が大量に吸い込んでしまった時に発生する、いわばゾンビのような状態のことを言う。完全に意識はなく、ただひたすらに人の魔力を求めて彷徨う化物だ。
『オレ……コロシタ……クレア……マリエル……ミナ、コロシタ……』
『これを……お前が一人で……一体誰にこんな状態にされた!?』
『アイ……ダ……』
『アイダ? それは一体誰なんだ!?』
『オレ、コロ……シテクレ……タノム……イシキ……ナクナル……』
『アドルフ、しっかりしろ!』
『グギギ……グァアアア……』
『アドルフ……分かった、今、楽にしてやる……』
お父さんは担いでいた大きな斧を振り下ろし、アドルフさんの身体を真っ二つに切り裂いた。
サラサラと、アドルフさんの身体が黒い霧となって消えていく。
『アリガ……』
『アドルフ!』
アドルフさんが完全に消え去った後も、お父さんはそのままそこに突っ立っていた。
そこへ、メドナ軍が駆け付ける。
『これは……一体……』
クリスティア女王陛下が呆然と辺りを見回す。オーウェン団長とラスさんも集落の中へ入ってくると、驚き唖然としていた。
『俺がここにいたことは誰にも言うな。言えば貴様ら全員殺す』
お父さんはものすごい形相でそう言うと、静かにその場を去っていった。
完全に身体の自由を失ったアドルフさんは、魔女や白狼騎士団員たちを次々に葬っていく。
殺された彼らはまるで魔物が討伐された時のように黒い霧となって消えていった。そしてその黒い霧はそのままアドルフさんへと吸収されていく。
恐らく悪魔の力によるものだろうと私は考えた。
1万もの騎士たちが消えた真実は、身体を乗っ取られたアドルフさんによる攻撃で消滅したということだった。
⸺⸺
アドルフさんは10分足らずでその場の皆を消滅させた。
そしてマリエルさんが身体を引きずって戻ってくると、アドルフさんは容赦なく詰め寄り、彼女の心臓を槍で貫いた。
『あな、た……独りにして、ごめ……なさ……』
『グアァァァァァッ!』
彼は獣のような雄叫びを上げて、涙をボロボロと流していた。身体の自由が利かなくなっても、意識だけは微かに残ってるんだ。
酷い、こんなのあんまりだ。
さっきアイーダの気持ちが少し分かるみたいな事言ったけど、やっぱり全然分からない。
もう彼女に同情の余地なんてない。私は、そう強く思った。
『はいお疲れ様。じゃぁしばらくこのままここでジッとして、黒い気を全部吸収しちゃってちょうだい。アタシたちは一旦ここを離れるから、待て、よ。良いわね……』
アイーダはそう言って高笑いをしながら森の外へと去っていった。
⸺⸺
巫女様が少し時を進めると、集落の真ん中で呆然と立ち尽くすアドルフさんのもとへ、若かりし頃のお父さんがやってきた。
『アドルフ……? アドルフなのか!?』
お父さんははぁ、はぁと息を切らしている。
『アヴァ……リス……コロ、コロシテ……』
アドルフさんはボロボロと泣きながら苦しそうにそう懇願する。
『何!? その姿で意識があるのか!? ……黒魔症……ではないのか……』
黒魔症とは、魔物を構成する“黒い気”という気体を人間が大量に吸い込んでしまった時に発生する、いわばゾンビのような状態のことを言う。完全に意識はなく、ただひたすらに人の魔力を求めて彷徨う化物だ。
『オレ……コロシタ……クレア……マリエル……ミナ、コロシタ……』
『これを……お前が一人で……一体誰にこんな状態にされた!?』
『アイ……ダ……』
『アイダ? それは一体誰なんだ!?』
『オレ、コロ……シテクレ……タノム……イシキ……ナクナル……』
『アドルフ、しっかりしろ!』
『グギギ……グァアアア……』
『アドルフ……分かった、今、楽にしてやる……』
お父さんは担いでいた大きな斧を振り下ろし、アドルフさんの身体を真っ二つに切り裂いた。
サラサラと、アドルフさんの身体が黒い霧となって消えていく。
『アリガ……』
『アドルフ!』
アドルフさんが完全に消え去った後も、お父さんはそのままそこに突っ立っていた。
そこへ、メドナ軍が駆け付ける。
『これは……一体……』
クリスティア女王陛下が呆然と辺りを見回す。オーウェン団長とラスさんも集落の中へ入ってくると、驚き唖然としていた。
『俺がここにいたことは誰にも言うな。言えば貴様ら全員殺す』
お父さんはものすごい形相でそう言うと、静かにその場を去っていった。
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