【完結】隣国にスパイとして乗り込み故郷の敵である騎士団長様へ復讐をしようとしたのにうっかり恋をしてしまいました

るあか

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第五章 聖女の奇跡

61話 私の恩人

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※戦いによる少し過激な表現があります。ご注意下さい※

⸺⸺場面は集落の中心地へと移る。

 集落は魔物の攻撃によってあちこちで炎が上がっていた。
 魔物に応戦する魔女の同胞たち。彼女らは強く、魔物は次々に討伐されていく。
 しかし、フリーデン団長の召喚は止まらず倒しても倒してもそれ以上に湧いてきていた。

 そんな中、アイーダの下僕と化したアドルフさんがゆっくりと中心地へ現れる。
 ふぅふぅと息が荒く、何かに苦しんでいるような、そんなふうにも見える。

『アドルフ様……!? そのお姿は一体……!』
 クレア様がアドルフさんを見つけて驚愕する。
 そしてアドルフさんはゆっくりと槍を構え、かすれた声でこう言った。

『ニ……ゲロ……ッ!』
『っ!? ごほっ……』

 アドルフさんの槍が、クレア様の心臓を貫いた。同時に、オーウェン団長とお父さんが絶望の表情で膝をついて崩れ落ちていく。

『アァ……ッ! アヴァ、リス……スマ、ナイ……! アアアアァァァ!』
 アドルフさんの悲痛な雄叫びが集落中へと響き渡る。
 すると、その声に反応した魔物がアドルフさんを襲い始める。

 彼は狂ったように槍を振り回し、次々に魔物を討伐していった。

『あなた!? 一体何が……!』
 ここで、オーウェン団長のお母上のマリエルさん率いる白狼騎士団が突入してくる。

『マリ、エ……ニゲ、ロ……ッ!』
『そいつ、アタシのお人形さんになったの』
 アイーダが不敵に笑いながらゆっくりと現れる。

『あなたはアルフォンソ夫人……!? 何なのその禍々しい気配は……』
『もうその説明飽きちゃったからしないわよ。このお人形さん、まだちょっと自我があって抵抗してるみたいだから今倒して吸い取った魔物の魂を融合させましょうか』

『グアァァァァッ!?』
『あなた!』
 アイーダが何かを唱えるとアドルフさんは更に苦しみ出し、フゥーッ、フゥーッとまるで猛獣のように呼吸をしていた。

 それに合わせるように、更に大量の魔物が召喚される。
『あなた、気を確かに! 魔物がこんなに……。皆に命じます! 森の民を1人でも多く救出して森の外へ!』
『はっ!』
 白狼の皆が集落中へ散っていく。そしてマリエルさんも泣く泣くアドルフさんへ背を向けると、森の民を探して走り出した。

 マリエルさんは私の家の前を通り過ぎようとして急に止まり、引き返して窓から中を覗き込む。
 そして窓を突き破って中へ入り、小さな私を抱えて入り口から外に飛び出てきた。
 私、こうやって助け出されたんだ……。

 マリエルさんは私を庇いながら集落を取り囲む魔物の群れに突っ込んでいき、あちこちに傷を負いながら森の外へと脱出していった。

「あれは、お前だな……」
 と、お父さん。
「はい……」
「そうか、マリエルがお前を……」
「あの後、外に待機していたオーウェン団長とラスさんによって、メドナ城へと送り届けられたそうです」
「そうだったか……それで生き残れたのだな……」
 お父さんはそう言って、目頭を押さえてうつむいた。
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