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第五章 聖女の奇跡
60話 12年前の真実
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※戦いによる少し過激な表現があります。ご注意下さい※
少し前にオーウェン団長が話してくれた事を思い出す。
「少し手前で俺らを全員残してお一人で森の中へと入られた。1時間戻ってこなかったら、全軍で突入してくれ。そう、言い残して」
アドルフさんが1人で来たのは、きっとこの場面だ。この森の外では1万の騎士が待機している状態だ。
『フリーデン団長……? 緑鮫は城に待機のはずですが? それにあなたはアルフォンソ侯爵夫人……』
と、アドルフさん。
『ええ、だが、皇帝陛下を暗殺した疑いのある魔女をぜひともこの手でぶち殺したくてねぇ』
フリーデン団長はニヤニヤしながらそう答える。それに対しアイーダが嘲笑いながらこう続いた。
『皇帝を暗殺した魔女って……アタシの事じゃない! ウケるわ』
『なっ、一体何を言って……!?』
アドルフさんは顔を引きつらせる。
『アドルフ様、気を付けてください、この女の中身は魔女の森を追放されたアイーダという女。悪魔に魂を売ったと言っています。フリーデン団長は彼女の言いなりです』
クレア様が早口でそう伝えると、アイーダが『ベラべラしゃべんじゃないわよ』と怒り、クレア様へ向かって魔弾を放った。
『うっ!』
魔弾はクレア様の肩を貫通し、傷口からは血が滴る。
『クレア殿!』
アドルフさんはすぐにクレア様の前に立ち、槍を構える。
『すみません、アドルフ様……』
『動けますか、クレア殿』
『はい、なんとか……』
『俺が時間を稼ぎます。あなたは集落の皆にこの事を伝えて森の外へ避難を。外には白狼が待機しています』
『そんな、アドルフ様を1人で残してなど……』
『クレア殿やご息女に何かあってはアヴァリスに合わせる顔がありません。どうか、ご理解を……!』
『アドルフ様……すみません……』
クレア様は肩を抑えて集落へと走っていった。
『ちょっとちょっと、あんた魔女の森の殲滅命令が出てたんじゃないの?』
と、アイーダ。
『そんなのは建前だ。魔女の森を確かめに行く表向きの理由に過ぎん。貴様が殺したと自白している以上、魔女の森の民を殲滅する理由は何もなくなった。これで大手を振って彼女らを守ることができる』
『そ。何でもいいけど、集落はもうそこら中魔物だらけよ? 早口あんたも守りに行かないくていいの?』
『何!?』
私が気付いたときには既にフリーデン団長の姿がなく、どこかに隠れて魔物の召喚をしていると思われた。
『だが、彼女らは全員優秀な魔道士。貴様とどこかに隠れたフリーデンを仕留めてからでも十分に間に合う』
アドルフさんは腰を落として臨戦態勢をとる。
『残念でした。あんたも魔物側になるのよ』
『何だと……くっ、これは……!』
アドルフさんの足元に真っ黒な魔法陣が浮かび上がり、地面からいくつもの黒い手が伸び足を拘束される。
『アタシの身体を生贄にして、1回きりの発動を許された悪魔の禁術。強制的にアタシとあんたの間に下僕の契約を結ぶのよ』
『下僕……だと!?』
『あんたかヴェインって公爵か。絶対にどっちかが来ると思ってた。共に帝国最強と謳われる白い狼に黒い豹。二人は大親友。切磋琢磨してお互いに極め合ってきた。どっちを下僕にしても面白い展開が待つこと間違いなし。更に最強の下僕を手に入れるなんて最高じゃない』
『くっ……何かが頭の中に入って……!』
『ちょっと、聞いてんの? まぁいいわ、もう発動させましょ……』
⸺⸺悪魔の禁術⸺⸺
『“バレット=フェア=トラーク”』
『ぐあああああっ!』
黒い手がアドルフさんの全身を覆っていき、姿が見えなくなる。
やがて黒い手が消えると、頭に2本の悪魔の角を、口から大きな牙を生やし、目が魔物のように赤黒く光ったアドルフさんの姿がそこにあった。
『最初の命令よ、下僕ちゃん。集落にいる人間を皆殺しにして』
アイーダがそう指示を出すと、アドルフさんはゆっくりと集落の方へ歩いていった。
少し前にオーウェン団長が話してくれた事を思い出す。
「少し手前で俺らを全員残してお一人で森の中へと入られた。1時間戻ってこなかったら、全軍で突入してくれ。そう、言い残して」
アドルフさんが1人で来たのは、きっとこの場面だ。この森の外では1万の騎士が待機している状態だ。
『フリーデン団長……? 緑鮫は城に待機のはずですが? それにあなたはアルフォンソ侯爵夫人……』
と、アドルフさん。
『ええ、だが、皇帝陛下を暗殺した疑いのある魔女をぜひともこの手でぶち殺したくてねぇ』
フリーデン団長はニヤニヤしながらそう答える。それに対しアイーダが嘲笑いながらこう続いた。
『皇帝を暗殺した魔女って……アタシの事じゃない! ウケるわ』
『なっ、一体何を言って……!?』
アドルフさんは顔を引きつらせる。
『アドルフ様、気を付けてください、この女の中身は魔女の森を追放されたアイーダという女。悪魔に魂を売ったと言っています。フリーデン団長は彼女の言いなりです』
クレア様が早口でそう伝えると、アイーダが『ベラべラしゃべんじゃないわよ』と怒り、クレア様へ向かって魔弾を放った。
『うっ!』
魔弾はクレア様の肩を貫通し、傷口からは血が滴る。
『クレア殿!』
アドルフさんはすぐにクレア様の前に立ち、槍を構える。
『すみません、アドルフ様……』
『動けますか、クレア殿』
『はい、なんとか……』
『俺が時間を稼ぎます。あなたは集落の皆にこの事を伝えて森の外へ避難を。外には白狼が待機しています』
『そんな、アドルフ様を1人で残してなど……』
『クレア殿やご息女に何かあってはアヴァリスに合わせる顔がありません。どうか、ご理解を……!』
『アドルフ様……すみません……』
クレア様は肩を抑えて集落へと走っていった。
『ちょっとちょっと、あんた魔女の森の殲滅命令が出てたんじゃないの?』
と、アイーダ。
『そんなのは建前だ。魔女の森を確かめに行く表向きの理由に過ぎん。貴様が殺したと自白している以上、魔女の森の民を殲滅する理由は何もなくなった。これで大手を振って彼女らを守ることができる』
『そ。何でもいいけど、集落はもうそこら中魔物だらけよ? 早口あんたも守りに行かないくていいの?』
『何!?』
私が気付いたときには既にフリーデン団長の姿がなく、どこかに隠れて魔物の召喚をしていると思われた。
『だが、彼女らは全員優秀な魔道士。貴様とどこかに隠れたフリーデンを仕留めてからでも十分に間に合う』
アドルフさんは腰を落として臨戦態勢をとる。
『残念でした。あんたも魔物側になるのよ』
『何だと……くっ、これは……!』
アドルフさんの足元に真っ黒な魔法陣が浮かび上がり、地面からいくつもの黒い手が伸び足を拘束される。
『アタシの身体を生贄にして、1回きりの発動を許された悪魔の禁術。強制的にアタシとあんたの間に下僕の契約を結ぶのよ』
『下僕……だと!?』
『あんたかヴェインって公爵か。絶対にどっちかが来ると思ってた。共に帝国最強と謳われる白い狼に黒い豹。二人は大親友。切磋琢磨してお互いに極め合ってきた。どっちを下僕にしても面白い展開が待つこと間違いなし。更に最強の下僕を手に入れるなんて最高じゃない』
『くっ……何かが頭の中に入って……!』
『ちょっと、聞いてんの? まぁいいわ、もう発動させましょ……』
⸺⸺悪魔の禁術⸺⸺
『“バレット=フェア=トラーク”』
『ぐあああああっ!』
黒い手がアドルフさんの全身を覆っていき、姿が見えなくなる。
やがて黒い手が消えると、頭に2本の悪魔の角を、口から大きな牙を生やし、目が魔物のように赤黒く光ったアドルフさんの姿がそこにあった。
『最初の命令よ、下僕ちゃん。集落にいる人間を皆殺しにして』
アイーダがそう指示を出すと、アドルフさんはゆっくりと集落の方へ歩いていった。
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