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第五章 聖女の奇跡
56話 私の本当の家族
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「では、今から19年前に遡ります」
巫女様がそう言うと、私が生まれる前の魔女の森へと景色が移り変わった。
⸺⸺
そこは、私の育ったエマーソン宅の中の風景だった。
『クレア、本当なの? 良かったじゃない!』
お母さんのシータがクレア様の両手を掴んで喜びを顕にする。
『うん、それでね、順番は逆になっちゃったけど、プロポーズもされたの』
と、クレア様。
ちょっと待って。それってヴェイン団長との事だよね? 何で家でそんな話してんの?
私は急激に心臓の鼓動が高まるのを感じる。
『えっと、アヴァリス様はこの魔女の森の掟をご存知で?』
『うん、全部説明して、彼はそれを受け入れてくれたの。すぐに別居状態になっちゃうけど、それでも結婚したいって、そう言ってくれた』
『そっかぁ! ちなみにお腹の中の子はどっちなの?』
『女の子。だからこの森の民になる……』
クレア様は少し寂しそうに言う。
『クレア、どうしたの? 嬉しくないの?』
『あのね、私、大魔女にならないかってヘーゼル様から声をかけてもらったの』
『そんなの合わせて喜ばしいことじゃない!』
『そうなんだけど……まだ決定ではないんだけど、アイーダがすごく怒っちゃって……』
『あー……昔から次はアタシが大魔女になるって威張ってたよね……。放っておきなよ、あんなの』
『でも、もし私が大魔女になって、私の子もそうなっちゃったら? 逆に、大魔女の娘だっていうので期待を重荷に感じちゃったら? もしそうなったら、アヴァリス様のところで暮らしたほうが幸せかもしれない……』
『じゃぁ……女の子でもアヴァリス様のところへ預けるの?』
『それは、ヘーゼル様に掟だからダメって……ねぇ、シータ。気分悪くしたらごめん。あなた、子供、産めないから誰とも結婚したくないって……?』
『ええ、そうよ。持病があってね。事実なんだし、気分なんか悪くならないわよ』
『こんなお願い、最低だって分かってる。でも……シータ、この子、あなたが育ててくれない?』
「っ!」
私の家にクレア様がいた時点で、どこかで予想はしてた。
ヴェイン団長の方を見ると、まるで時が止まったかのように目を見開いて固まっていた。
『え、どういうこと……?』
と、シータ。
『この子には大魔女の運命に左右されないで自由に生きてほしいの。もし愛する人と一緒になりたかったら、勘当覚悟で森を出て行ってもいいし、もし大魔女を目指したいならもちろん目指せばいい。アイーダ見てると、ちょっと可哀想にも思えてね。私はこの子に、そんな思いはさせたくないの』
『勘当覚悟って……クレア、本当はアヴァリス様と一緒に……』
『もちろん一緒に暮らしたいに決まってるじゃない。でも、大魔女になったら……勘当とかそんなこと言ってる場合じゃなくなる。この子が大魔女のことを視野に入れなくていいなら、そうしてあげたい。私が大魔女になれば、この子がやりたくないなら指名しなければいいだけの話だから……』
『クレア、分かった。私、その子の母親になるわ』
『本当!? あぁ、ありがとうシータ……。シータに育ててもらえるならこんな幸せなことないよ!』
『ちなみに名前は決まってるの?』
『ううん、名前もあなたが決めて。きっと素敵な名前を付けてくれるって、信じてる』
『分かった、少し考えてみる』
⸺⸺
ここで一旦巫女様のビジョンは消えたけど、皆呆然とその場に立ち尽くしていた。
巫女様がそう言うと、私が生まれる前の魔女の森へと景色が移り変わった。
⸺⸺
そこは、私の育ったエマーソン宅の中の風景だった。
『クレア、本当なの? 良かったじゃない!』
お母さんのシータがクレア様の両手を掴んで喜びを顕にする。
『うん、それでね、順番は逆になっちゃったけど、プロポーズもされたの』
と、クレア様。
ちょっと待って。それってヴェイン団長との事だよね? 何で家でそんな話してんの?
私は急激に心臓の鼓動が高まるのを感じる。
『えっと、アヴァリス様はこの魔女の森の掟をご存知で?』
『うん、全部説明して、彼はそれを受け入れてくれたの。すぐに別居状態になっちゃうけど、それでも結婚したいって、そう言ってくれた』
『そっかぁ! ちなみにお腹の中の子はどっちなの?』
『女の子。だからこの森の民になる……』
クレア様は少し寂しそうに言う。
『クレア、どうしたの? 嬉しくないの?』
『あのね、私、大魔女にならないかってヘーゼル様から声をかけてもらったの』
『そんなの合わせて喜ばしいことじゃない!』
『そうなんだけど……まだ決定ではないんだけど、アイーダがすごく怒っちゃって……』
『あー……昔から次はアタシが大魔女になるって威張ってたよね……。放っておきなよ、あんなの』
『でも、もし私が大魔女になって、私の子もそうなっちゃったら? 逆に、大魔女の娘だっていうので期待を重荷に感じちゃったら? もしそうなったら、アヴァリス様のところで暮らしたほうが幸せかもしれない……』
『じゃぁ……女の子でもアヴァリス様のところへ預けるの?』
『それは、ヘーゼル様に掟だからダメって……ねぇ、シータ。気分悪くしたらごめん。あなた、子供、産めないから誰とも結婚したくないって……?』
『ええ、そうよ。持病があってね。事実なんだし、気分なんか悪くならないわよ』
『こんなお願い、最低だって分かってる。でも……シータ、この子、あなたが育ててくれない?』
「っ!」
私の家にクレア様がいた時点で、どこかで予想はしてた。
ヴェイン団長の方を見ると、まるで時が止まったかのように目を見開いて固まっていた。
『え、どういうこと……?』
と、シータ。
『この子には大魔女の運命に左右されないで自由に生きてほしいの。もし愛する人と一緒になりたかったら、勘当覚悟で森を出て行ってもいいし、もし大魔女を目指したいならもちろん目指せばいい。アイーダ見てると、ちょっと可哀想にも思えてね。私はこの子に、そんな思いはさせたくないの』
『勘当覚悟って……クレア、本当はアヴァリス様と一緒に……』
『もちろん一緒に暮らしたいに決まってるじゃない。でも、大魔女になったら……勘当とかそんなこと言ってる場合じゃなくなる。この子が大魔女のことを視野に入れなくていいなら、そうしてあげたい。私が大魔女になれば、この子がやりたくないなら指名しなければいいだけの話だから……』
『クレア、分かった。私、その子の母親になるわ』
『本当!? あぁ、ありがとうシータ……。シータに育ててもらえるならこんな幸せなことないよ!』
『ちなみに名前は決まってるの?』
『ううん、名前もあなたが決めて。きっと素敵な名前を付けてくれるって、信じてる』
『分かった、少し考えてみる』
⸺⸺
ここで一旦巫女様のビジョンは消えたけど、皆呆然とその場に立ち尽くしていた。
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