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第四章 平和への軌跡
51話 言葉だけじゃ
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野営の魔法具でシャワーを浴びた後、少し離れた湖のほとりで、オーウェン団長が一人で逆立ちをしているのを発見する。
「オーウェン団長……?」
見ていると彼はそのまま腕立てを始めた。すごい筋肉……。
「オーウェンさ、ルカと一緒に皇帝陛下のところへ行ってから、ああやって毎日遅くまで鍛えてんだよ」
そう言ってラスさんが私の隣へ並ぶ。
「皇帝陛下のところへ行ってから……」
「アヴァリスがあんなこと言ったせいですね」
皇帝陛下もそう言いながら私の隣へと並んだ。
私は、あの時ヴェイン団長が言ったことを思い出す。
『守り切る覚悟も実力もないくせに、守っているつもりでいるな』
『今の貴様では、俺に一太刀も入れられずにその娘を殺される』
「私の……ためだ……」
そう思うと、嬉しくて胸がいっぱいになり、涙が溢れ出る。
「ルカさん、1つだけ僕から補足をさせて下さい。アヴァリスは、あなたのことを殺そうとなんてしません。あれは、オーウェンの闘争心に火をつけるために言っただけです。自分を超えられるくらいに強くなってみろ、と、そう言いたかったんだと思います」
「はい……」
「なんか皇帝陛下と一緒にいると、ヴェイン団長のキャラが分からなくなってくるよね……」
と、ラスさん。
「うん、本当に……」
前にオーウェン団長が私のために嘘をついていたように、ヴェイン団長にもそう言った何か一人で抱えてることがあるんじゃないか。だんだんと、そう思うようになっていた。
「私、オーウェン団長のところへ行ってきます」
「うん、行ったげて」
と、ラスさん。皇帝陛下も優しく頷いてくれたので、逆さまになっている彼のもとへと駆け寄った。
「オーウェン団長っ!」
「おわっ!?」
彼の足へと抱き着くと、彼はそのまま背を下にして地面へ倒れていった。
「ルカ!? 一体どうしたんだ。というかお前シャワー浴びたんだろう、汗がすごいから触るんじゃない」
オーウェン団長が起き上がると、自然と彼の膝の上で後ろから抱きしめられる形になる。
「このままがいいです」
私はそう言うと遠慮がちに回されている彼の腕を自分の身体へグッと引き寄せた。
「まったく……後でもう一度シャワーを浴びるんだぞ」
彼は諦めたようにギュッと抱きしめてくれた。
「嫌です。このまま寝ます」
「本当に言うことを聞かんな、お前は……」
「こうでもしないと、団長、抱きしめてくれませんから。愛してるって、言葉だけじゃ駄目なんですよ?」
「俺は……まだまだお前を守れる器じゃないからな。こんなご褒美をもらってしまっては駄目だと思ったんだ」
「ご褒美?」
「……お前に触れるご褒美だ」
彼はそう言って私の髪に顔を埋めてくる。その瞬間、ドキッと胸が高鳴った。
「ここが野営場で良かった……」
「どうして、ですか?」
「2人きりでこんな状態ではもう理性が保てんからだ」
「……そんなこと言うの、ズルいです。野営場を言い訳にして、何もしてくれないんじゃないですか」
本当はそんなことないって分かってる。愛してるって言われて以来、スキンシップはほぼ皆無だったけど、大切にしてくれているからだって、ちゃんと分かってる。
だけど、こんなに強いのに私を守りたいからって必死に鍛えてる彼の気持ちが嬉しかったから。だから……触れたいし、触れてほしい。
「俺の気も知らないで好き勝手言って、悪い子にはお仕置きだな」
オーウェン団長は私をキツく抱きしめるようにして顔を覗き込んでくると、強引に私の唇へと自身の唇を重ねてきた。
「ん……」
初めて、キスしてくれた。私のファーストキス。嬉しい、幸せだ……。涙が一筋、私の頬を伝った。
「ズルいのは、ルカの方だぞ……これでは生殺しじゃないか……」
オーウェン団長は少しだけ唇を離してそう言うと、親指で私の涙を拭いて、再度唇を重ねてきた。
ズルくてごめんなさい。でも、私、幸せです。
その幸せの瞬間は、ブラッドによって終わりを告げる。
「はい、そこ堂々とイチャつくの禁止ー!」
彼はそう言いながらオーウェン団長の背後から大剣を振りかざしてくる。なんか私が暗殺を企んでた時より殺意こもってない?
しかし、オーウェン団長は見ずにその大剣の刃を片手で掴んで止めると、そのまま私とのキスを続けた。
「くっそー! 動かねぇ!」
大剣を構えてプルプルと震えるブラッド。そして団長は私を解放すると「残念だったな」と、余裕の笑みを浮かべた。
「くそー! ルカ、俺ともキスを……って、お前汗臭さっ!」
ブラッドは私を抱きしめようと寄ってくるが、近くまで来て一歩下がった。
「ふふーん。抱けるもんなら抱いてみなさい!」
私も調子に乗って両手を広げて立ち尽くす。
「ちょ……男の汗の臭い……。団長、全身にマーキングしやがった……」
ブラッドは勝手に落ち込んでその場に崩れ落ちる。そんな彼を見て団長は「俺は獣か」とツッコんでいた。
「オーウェン団長……?」
見ていると彼はそのまま腕立てを始めた。すごい筋肉……。
「オーウェンさ、ルカと一緒に皇帝陛下のところへ行ってから、ああやって毎日遅くまで鍛えてんだよ」
そう言ってラスさんが私の隣へ並ぶ。
「皇帝陛下のところへ行ってから……」
「アヴァリスがあんなこと言ったせいですね」
皇帝陛下もそう言いながら私の隣へと並んだ。
私は、あの時ヴェイン団長が言ったことを思い出す。
『守り切る覚悟も実力もないくせに、守っているつもりでいるな』
『今の貴様では、俺に一太刀も入れられずにその娘を殺される』
「私の……ためだ……」
そう思うと、嬉しくて胸がいっぱいになり、涙が溢れ出る。
「ルカさん、1つだけ僕から補足をさせて下さい。アヴァリスは、あなたのことを殺そうとなんてしません。あれは、オーウェンの闘争心に火をつけるために言っただけです。自分を超えられるくらいに強くなってみろ、と、そう言いたかったんだと思います」
「はい……」
「なんか皇帝陛下と一緒にいると、ヴェイン団長のキャラが分からなくなってくるよね……」
と、ラスさん。
「うん、本当に……」
前にオーウェン団長が私のために嘘をついていたように、ヴェイン団長にもそう言った何か一人で抱えてることがあるんじゃないか。だんだんと、そう思うようになっていた。
「私、オーウェン団長のところへ行ってきます」
「うん、行ったげて」
と、ラスさん。皇帝陛下も優しく頷いてくれたので、逆さまになっている彼のもとへと駆け寄った。
「オーウェン団長っ!」
「おわっ!?」
彼の足へと抱き着くと、彼はそのまま背を下にして地面へ倒れていった。
「ルカ!? 一体どうしたんだ。というかお前シャワー浴びたんだろう、汗がすごいから触るんじゃない」
オーウェン団長が起き上がると、自然と彼の膝の上で後ろから抱きしめられる形になる。
「このままがいいです」
私はそう言うと遠慮がちに回されている彼の腕を自分の身体へグッと引き寄せた。
「まったく……後でもう一度シャワーを浴びるんだぞ」
彼は諦めたようにギュッと抱きしめてくれた。
「嫌です。このまま寝ます」
「本当に言うことを聞かんな、お前は……」
「こうでもしないと、団長、抱きしめてくれませんから。愛してるって、言葉だけじゃ駄目なんですよ?」
「俺は……まだまだお前を守れる器じゃないからな。こんなご褒美をもらってしまっては駄目だと思ったんだ」
「ご褒美?」
「……お前に触れるご褒美だ」
彼はそう言って私の髪に顔を埋めてくる。その瞬間、ドキッと胸が高鳴った。
「ここが野営場で良かった……」
「どうして、ですか?」
「2人きりでこんな状態ではもう理性が保てんからだ」
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本当はそんなことないって分かってる。愛してるって言われて以来、スキンシップはほぼ皆無だったけど、大切にしてくれているからだって、ちゃんと分かってる。
だけど、こんなに強いのに私を守りたいからって必死に鍛えてる彼の気持ちが嬉しかったから。だから……触れたいし、触れてほしい。
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「ん……」
初めて、キスしてくれた。私のファーストキス。嬉しい、幸せだ……。涙が一筋、私の頬を伝った。
「ズルいのは、ルカの方だぞ……これでは生殺しじゃないか……」
オーウェン団長は少しだけ唇を離してそう言うと、親指で私の涙を拭いて、再度唇を重ねてきた。
ズルくてごめんなさい。でも、私、幸せです。
その幸せの瞬間は、ブラッドによって終わりを告げる。
「はい、そこ堂々とイチャつくの禁止ー!」
彼はそう言いながらオーウェン団長の背後から大剣を振りかざしてくる。なんか私が暗殺を企んでた時より殺意こもってない?
しかし、オーウェン団長は見ずにその大剣の刃を片手で掴んで止めると、そのまま私とのキスを続けた。
「くっそー! 動かねぇ!」
大剣を構えてプルプルと震えるブラッド。そして団長は私を解放すると「残念だったな」と、余裕の笑みを浮かべた。
「くそー! ルカ、俺ともキスを……って、お前汗臭さっ!」
ブラッドは私を抱きしめようと寄ってくるが、近くまで来て一歩下がった。
「ふふーん。抱けるもんなら抱いてみなさい!」
私も調子に乗って両手を広げて立ち尽くす。
「ちょ……男の汗の臭い……。団長、全身にマーキングしやがった……」
ブラッドは勝手に落ち込んでその場に崩れ落ちる。そんな彼を見て団長は「俺は獣か」とツッコんでいた。
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