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第四章 平和への軌跡

44話 強面の表情の変化

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⸺⸺ヴァルトーマ城 玉座の間⸺⸺

「おや、オーウェンにルカさん、どうしたのですか?」
 玉座に座っていたセシル皇帝陛下がスッと立ち、私たちを出迎えてくれる。
 その隣には、ラインハルト団長の予想通り、ヴェイン団長が強面無表情でこっちを見つめていた。無言なのもめちゃくちゃ怖い。

「すみません、お邪魔でしたでしょうか」
 と、オーウェン団長。
「いいえ、特にこれといった話はしていませんでしたよ」
 皇帝陛下はそう言ってニッコリと微笑む。

「こちらもそこまで差し迫った話ではないのですが、メドナから来たルカのためにも、皇帝陛下の今後のビジョンなどがあれば、お聞かせ願えませんでしょうか」
 オーウェン団長、早速私を使っている。やっぱりついてきて良かった。

「なるほど、ルカさんのお勉強のためでしたか。ビジョンですか、そうですね……。この『イーラ島』の三国が今後も良き関係を築いていけるように、各国との連携を強化していきたいとは思っています。その点で言うと、白狼騎士団はシュタイン王国のテオバルト王子にメドナ女王陛下公認の元王宮兵が滞在していますから、僕のビジョンの実現には必要不可欠な存在です」

「勿体なきお言葉です。相変わらず素晴らしいお考えで……」
 オーウェン団長がそう言いかけると、黙って聞いていたヴェイン団長が低い声で話に割って入ってくる。

「ヴァレンタイン、貴様、一体何を探っている」
「っ!」
「!?」
 その短い言葉から発せられる威圧に、私は思わずオーウェン団長の背中へと隠れる。

「アヴァリス、そんな言い方はないでしょう」
 と、皇帝陛下。しかし、ヴェイン団長はあろうことか皇帝陛下を完全スルーして話を進める。
「ハインツェルとグルになり、若造2人で何をコソコソとしているのかと聞いている」
 ハインツェルとはラインハルト団長の事だ。

 オーウェン団長は一瞬たじろいだものの、すぐに皇帝陛下へと向き直る。
「皇帝陛下は、12年前にメドナ王国で起こった悲劇をご存じですか?」

「はい、僕が生まれる直前の出来事でしたので、記録に残っている事実しか分かりませんが、勿論知っています」
「……貴様、なぜ今になってそんなことを……」
 ヴェイン団長が突っかかる。

「それは……」

 オーウェン団長が言葉を選んでいることを悟り、私は勇気を出してオーウェン団長の背中から顔を出し、ヴェイン団長へこう告げた。
「私は、魔女の森の生き残りです!」
「! 何だと……!?」
「ルカ!?」
 オーウェン団長が焦る一方で、ヴェイン団長はひどく動揺をしていた。この強面のおじさんが表情を変えたの、初めて見たかもしれない。

「私はもう二度とあんな悲劇が起きて欲しくないんです! ですので、当時の事を調べています……」
「ルカさん、そうだったのですね……」
 皇帝陛下は悲しそうな表情を見せる。

 その一方でヴェイン団長は真剣な表情で私に迫ってきた。
「娘、貴様……“聖女の器”か!?」

「聖女の……器?」
 私同様、皇帝陛下もオーウェン団長も揃って首を傾げた。
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