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第三章 誤解と和解
32話 アヴァリス・ヴェインという男
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「黒豹騎士団のアヴァリス・ヴェイン団長!?」
私たち同期3人と、ラインハルト団長までもが声を揃えてその人物の名を復唱した。
「あのめっちゃ怖そうな人だよな……」
と、ブラッド。
「俺、あのお方を間近で見たとき、気配だけで腰が抜けちゃいそうになりましたよ」
と、テオ。
「おい、俺それ知らねぇんだけど」
ラインハルト団長がオーウェン団長へ詰め寄る。
「当時、口止めされていたんだよ。ヴェイン団長は俺らを見つけると、『俺がここにいたことは誰にも言うな。言えば貴様ら全員殺す』と、ものすごい圧で牽制をして、その場を立ち去られた……」
オーウェン団長がそう答える。
「めっちゃ黒幕っぽい……!」
私はそんなオーウェン団長までもが恐れおののく人物が黒幕かもしれないと思うと、軽く絶望を感じていた。
「当時のクリスティア女王陛下は、これ以上被害を広めないために、そのことを彼の言葉通り公言しない、という判断をされたんだ。だから俺もラスも、彼が皆の敵なのかもしれないと思いながらも、誰にも言えずにいた」
「あれ、じゃぁ何で今、言ったんだ?」
ラインハルト団長は苦い顔をしながら尋ねる。
「ルカには知る権利があると思ったからだ。お前らも秘密を知ったからにはもう運命共同体だ。誰にも言うなよ」
「うわぁ~、巻き込まれた~! しかもよりにもよってあの恐怖の堅物おじさんかよっ!」
ラインハルト団長は狂った様に頭を掻きむしって、その場で意気消沈していた。
「もちろん彼と2人になれたときに、聞いたことはあったんだ。だが彼は『語ることは何もない』と、それだけ言って立ち去ってしまう。それからは、ほとんど会話もしていないよ」
「うぅ……相手が悪すぎる……」
私がショボンとしながらそう言うと、オーウェン団長はグッと詰め寄りこう念を押した。
「その通りだ。頼むからルカ、変な気を起こさないでくれよ。俺も守りきれる自身がない」
「分かってます、大丈夫です……」
「なら、いいが……」
彼はホッと吐息を漏らす。
「でも、これで、魔女の森の件は詰んじゃいましたね」
と、テオ。
「まぁ、自分らで調べてた時よりはかなり進めはしたけどな」
と、ブラッド。
「だから、ルカの求めている情報はないかもしれないと言っただろう」
と、オーウェン団長。
「でも、いいの。オーウェン団長もラスさんも魔女の森の敵じゃなかったから。私は、一安心だよ……」
私はそう言ってへにゃっと脱力する。
「ルカのそんな安心した顔、初めて見ました。今までどこかで自分にセーブをかけていたんですね」
と、テオ。
「か……可愛い……」
ブラッドはそう言って顔を真っ赤にしている。
残りの3人も優しい笑みを送ってくれた。
⸺⸺
黒幕かもしれない人物が浮かび上がり、私の初恋の人は故郷の敵ではなかった。
そして心が解放された瞬間、私はとんでもないことを思い出した。
「あっ! そう言えば!」
私はサーッと青ざめる。それに対し皆は心配そうに私を覗き込んでいた。
私たち同期3人と、ラインハルト団長までもが声を揃えてその人物の名を復唱した。
「あのめっちゃ怖そうな人だよな……」
と、ブラッド。
「俺、あのお方を間近で見たとき、気配だけで腰が抜けちゃいそうになりましたよ」
と、テオ。
「おい、俺それ知らねぇんだけど」
ラインハルト団長がオーウェン団長へ詰め寄る。
「当時、口止めされていたんだよ。ヴェイン団長は俺らを見つけると、『俺がここにいたことは誰にも言うな。言えば貴様ら全員殺す』と、ものすごい圧で牽制をして、その場を立ち去られた……」
オーウェン団長がそう答える。
「めっちゃ黒幕っぽい……!」
私はそんなオーウェン団長までもが恐れおののく人物が黒幕かもしれないと思うと、軽く絶望を感じていた。
「当時のクリスティア女王陛下は、これ以上被害を広めないために、そのことを彼の言葉通り公言しない、という判断をされたんだ。だから俺もラスも、彼が皆の敵なのかもしれないと思いながらも、誰にも言えずにいた」
「あれ、じゃぁ何で今、言ったんだ?」
ラインハルト団長は苦い顔をしながら尋ねる。
「ルカには知る権利があると思ったからだ。お前らも秘密を知ったからにはもう運命共同体だ。誰にも言うなよ」
「うわぁ~、巻き込まれた~! しかもよりにもよってあの恐怖の堅物おじさんかよっ!」
ラインハルト団長は狂った様に頭を掻きむしって、その場で意気消沈していた。
「もちろん彼と2人になれたときに、聞いたことはあったんだ。だが彼は『語ることは何もない』と、それだけ言って立ち去ってしまう。それからは、ほとんど会話もしていないよ」
「うぅ……相手が悪すぎる……」
私がショボンとしながらそう言うと、オーウェン団長はグッと詰め寄りこう念を押した。
「その通りだ。頼むからルカ、変な気を起こさないでくれよ。俺も守りきれる自身がない」
「分かってます、大丈夫です……」
「なら、いいが……」
彼はホッと吐息を漏らす。
「でも、これで、魔女の森の件は詰んじゃいましたね」
と、テオ。
「まぁ、自分らで調べてた時よりはかなり進めはしたけどな」
と、ブラッド。
「だから、ルカの求めている情報はないかもしれないと言っただろう」
と、オーウェン団長。
「でも、いいの。オーウェン団長もラスさんも魔女の森の敵じゃなかったから。私は、一安心だよ……」
私はそう言ってへにゃっと脱力する。
「ルカのそんな安心した顔、初めて見ました。今までどこかで自分にセーブをかけていたんですね」
と、テオ。
「か……可愛い……」
ブラッドはそう言って顔を真っ赤にしている。
残りの3人も優しい笑みを送ってくれた。
⸺⸺
黒幕かもしれない人物が浮かび上がり、私の初恋の人は故郷の敵ではなかった。
そして心が解放された瞬間、私はとんでもないことを思い出した。
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