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七章 春吹荘崩壊
記憶か、思い出か②
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シキに促されて、気がつけばボクはテープを再生していた。
ガサガサ……と小さな音がして再生が始まった。
『……撮れて、るね。うん。
やぁ、久しぶりでいいのかな?』
聞き慣れた、大好きだったはずの声がして、ギュッと手を強く握る。
シキは、ボクをいつの間にか一人にしていてくれて、近くにあったテディベアを抱きしめた。
『僕は、君の幼馴染みです。
まぁ、なーんて言ったって手紙でバレてるだろうけどね。ははっ。
これを見つけてくれてるのかな、宵衣は。
それを願って、ここにこれを残します。
このテープには、短く僕の思いを伝えようかな』
聞きたくないと思っていたのに、気がつけば、近くに寄っていた。
薄情者だね、ボクって。
『宵衣。君は、今幸せですか?僕のこと、忘れられていますか?
幸せなら、それでいい。違うなら、ゆっくりでいいから、幸せになってね。
僕のこと、忘れててくれたかな?
僕のことなんか覚えてても、苦しいだけだろ。悲しいだけだろ。だから、忘れていーよ。ふふっ。
宵衣はさ、いつまでも覚えてそうだな。一度見ればなんでも記憶しちゃうんだもん。 でも、忘れてね。覚えていても、僕は君を幸せにしてやれないから。覚えていたら、悲しいだけだろ?
君は前に進まなきゃいけない。でも僕はもう、今までみたいに横で支えてやれない。僕は、もう進めないから。
宵衣は、これから先、一人で考えて、進んでかなきゃいけない。もう、僕は君の手を引いて連れて行ってあげられないからさ。
子供の頃みたいに自分を偽るのかもしれない。でも、そうしたら、宵衣は……″宵衣″自身は死んじゃうから。
ちゃんと、前を向いて生きてほしい』
無理、だよ。
キミがいなきゃ、生きててられないんだって。
死んでもなお、キミに助けられてるんだよ、ボクって……。
忘れるなんて、無理だよ……。
『ねぇ、宵衣。僕ね、初めて恋したの、君なんだ。君を最初で最後に愛した。
あの頃、歪みかけてた僕のことをね、君が救ってくれた。
僕の生きる意味になってくれた。
だから、宵衣。君は、幸せになってほしい。死なないでほしい。生きてほしい。
あーあ……こういうこと言ってると、涙出てきちゃうな。ごめん。
ねぇ、宵衣。君は、好きに生きていーんだよ。
大丈夫、生きることにカッコをつける必要はない。みんなの理想になる必要はない。
親なんかどーでもいいんだよ。
雪芽たちが助けてくれるはずだからさ。
周りなんて気にしなくていいよ。自分らしくいて。
泣いていいよ、立ち止まっていいよ、悩んでいいよ。だから、生きて。
これからを進む君に、どうかーーー幸あれ』
泣き声まじりの音声はそこで止まった。
「………ぁ……ぅ……」
ねぇ、なんでかなぁ。
なんでかなぁ。
キミはさ、ボクが欲しいものをぜーんぶくれるんだ。
ボク自身を見てくれる存在。
ボクの手を引いてくれる存在。
ボクの隣にいてくれる存在。
ボクを励ましてくれる存在。
ボクを肯定してくれる存在。
ほしかった存在は……言葉は、全部キミがくれるんだよ……。
泣いていいよって、強がらないでいいよって、言ってほしかったよ。
あの日くらいは、あの時くらいは……あの人たちに言って欲しかった。
せめて、親として全うして欲しかった。
もういいやって思ってたのに、ずっと……。
「あ……ぁぁ………うぅ、はる……」
嫌だよ、いなくならないで。
そう思って泣き出した。
大泣きしていた。
ボクは、はじめて。
泣いたのは、久々だった。
キミがいなくなった日、泣いたんだよ。
でもね、ちょっと涙が出たくらいなの。
それ以上はね、泣きたくても泣けなかった。
怖かったから。泣いていいよって言って欲しかった。
「……ずっちぃよ……おまえ……」
ボクのほしいもの、全部全部くれるなんて。
ずるいよ。
忘れないじゃん。
泣いちゃうじゃん。
ねぇ、もう進まなきゃいけなくなっただろ。
そんなことを言われたら。
キミにすがることができないじゃないか。
本当に、ずるいね、キミって。
でも、ボクも大好きだよ。
…………さよなら、
「…………バイバイ、晴加」
ボクもキミが初恋で良かったよ。
何時間か泣きじゃくった。
外が暗くなっていた。
部屋の扉を開けようとすると何かに突っかかって、少しの隙間からのぞけば、そこにはシーが横たわっていた。
「……ありがと、糸吉」
ボクは、糸吉を連れて、部屋に帰った。
あとで、雪芽と理人に謝って……、あいつにも連絡しないとなぁ。
それと、テープ聞かないと。
「ふふっ、大忙しだぁ♪」
ガサガサ……と小さな音がして再生が始まった。
『……撮れて、るね。うん。
やぁ、久しぶりでいいのかな?』
聞き慣れた、大好きだったはずの声がして、ギュッと手を強く握る。
シキは、ボクをいつの間にか一人にしていてくれて、近くにあったテディベアを抱きしめた。
『僕は、君の幼馴染みです。
まぁ、なーんて言ったって手紙でバレてるだろうけどね。ははっ。
これを見つけてくれてるのかな、宵衣は。
それを願って、ここにこれを残します。
このテープには、短く僕の思いを伝えようかな』
聞きたくないと思っていたのに、気がつけば、近くに寄っていた。
薄情者だね、ボクって。
『宵衣。君は、今幸せですか?僕のこと、忘れられていますか?
幸せなら、それでいい。違うなら、ゆっくりでいいから、幸せになってね。
僕のこと、忘れててくれたかな?
僕のことなんか覚えてても、苦しいだけだろ。悲しいだけだろ。だから、忘れていーよ。ふふっ。
宵衣はさ、いつまでも覚えてそうだな。一度見ればなんでも記憶しちゃうんだもん。 でも、忘れてね。覚えていても、僕は君を幸せにしてやれないから。覚えていたら、悲しいだけだろ?
君は前に進まなきゃいけない。でも僕はもう、今までみたいに横で支えてやれない。僕は、もう進めないから。
宵衣は、これから先、一人で考えて、進んでかなきゃいけない。もう、僕は君の手を引いて連れて行ってあげられないからさ。
子供の頃みたいに自分を偽るのかもしれない。でも、そうしたら、宵衣は……″宵衣″自身は死んじゃうから。
ちゃんと、前を向いて生きてほしい』
無理、だよ。
キミがいなきゃ、生きててられないんだって。
死んでもなお、キミに助けられてるんだよ、ボクって……。
忘れるなんて、無理だよ……。
『ねぇ、宵衣。僕ね、初めて恋したの、君なんだ。君を最初で最後に愛した。
あの頃、歪みかけてた僕のことをね、君が救ってくれた。
僕の生きる意味になってくれた。
だから、宵衣。君は、幸せになってほしい。死なないでほしい。生きてほしい。
あーあ……こういうこと言ってると、涙出てきちゃうな。ごめん。
ねぇ、宵衣。君は、好きに生きていーんだよ。
大丈夫、生きることにカッコをつける必要はない。みんなの理想になる必要はない。
親なんかどーでもいいんだよ。
雪芽たちが助けてくれるはずだからさ。
周りなんて気にしなくていいよ。自分らしくいて。
泣いていいよ、立ち止まっていいよ、悩んでいいよ。だから、生きて。
これからを進む君に、どうかーーー幸あれ』
泣き声まじりの音声はそこで止まった。
「………ぁ……ぅ……」
ねぇ、なんでかなぁ。
なんでかなぁ。
キミはさ、ボクが欲しいものをぜーんぶくれるんだ。
ボク自身を見てくれる存在。
ボクの手を引いてくれる存在。
ボクの隣にいてくれる存在。
ボクを励ましてくれる存在。
ボクを肯定してくれる存在。
ほしかった存在は……言葉は、全部キミがくれるんだよ……。
泣いていいよって、強がらないでいいよって、言ってほしかったよ。
あの日くらいは、あの時くらいは……あの人たちに言って欲しかった。
せめて、親として全うして欲しかった。
もういいやって思ってたのに、ずっと……。
「あ……ぁぁ………うぅ、はる……」
嫌だよ、いなくならないで。
そう思って泣き出した。
大泣きしていた。
ボクは、はじめて。
泣いたのは、久々だった。
キミがいなくなった日、泣いたんだよ。
でもね、ちょっと涙が出たくらいなの。
それ以上はね、泣きたくても泣けなかった。
怖かったから。泣いていいよって言って欲しかった。
「……ずっちぃよ……おまえ……」
ボクのほしいもの、全部全部くれるなんて。
ずるいよ。
忘れないじゃん。
泣いちゃうじゃん。
ねぇ、もう進まなきゃいけなくなっただろ。
そんなことを言われたら。
キミにすがることができないじゃないか。
本当に、ずるいね、キミって。
でも、ボクも大好きだよ。
…………さよなら、
「…………バイバイ、晴加」
ボクもキミが初恋で良かったよ。
何時間か泣きじゃくった。
外が暗くなっていた。
部屋の扉を開けようとすると何かに突っかかって、少しの隙間からのぞけば、そこにはシーが横たわっていた。
「……ありがと、糸吉」
ボクは、糸吉を連れて、部屋に帰った。
あとで、雪芽と理人に謝って……、あいつにも連絡しないとなぁ。
それと、テープ聞かないと。
「ふふっ、大忙しだぁ♪」
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