死に損ないの春吹荘 

ちあ

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七章 春吹荘崩壊

高学年たちのやり方

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 俺は、いつも、夜は部屋に篭るか、リビングにいる。そこでしているのは読書のみ。
 だが、今日は違った。







 親から電話が来て、出たところ、今夜仕事のお偉いさんたちも招かれた社交界が執り行われるとか。
 そこで、俺にも白羽の矢が立ったわけだ。
 息子を連れて行く。
 この先の経営でステータスを得るためには、あれこれしなければいけない。
 そのための一つの方法だ。
 あの人たちは政略結婚など望んではないが、他は違うだろう。
 断りたかったが、瞳の件もあり、断れなかった。







 社交界に出てみたものの、いまいちつまらない。 
 周りは、媚び諂ってくるが、俺が息子と分かるまでは陰口を隣で言ってた奴らばかり。ほんのジョーク?そんなわけあるか。
 あからさまに本気だった。
 はっ、だから人間は無意味で嫌いなんだ。
 そんなことを考えていると、会場が湧いた。
 辺りを見ると、もう人だかりで何者がいるのか見えないが、お偉いさんが、権力者が来たらしい。

「あれ、なによ」
「連れてるのって一般人じゃない?」
「まったく、令嬢様も格が下がったのね」

 話を聞く限り、どうやらどこかの令嬢が友人の一般人を招待したらしい。
 そんなのどうだっていいだろう。

「えぇ、よろしく」

 混じって聞こえる、令嬢らしき声は、どこか似ていた。
 気がかりで、人の間から遠目に覗くと、そこには、見慣れた銀髪に琥珀の目。
 帝さんだった。
 ということはーーーーあっちはやはり、西園寺さんか。
 なんでいるんだよ……とは薄々感づいていたのでいいはしない。
「!」
「……ちっ」
 帝がこちらをみて、ニコッと笑う。
 西園寺に耳打ちをすると、こちらにかけてくる。周りが少し近づいて、なんとかして西園寺に取り入るための手段をつかもうとするが、完全スルー。
 俺の前に来た。
「やぁ♫」
「……どうも」
「テンション低いねー?」
「高い方がどうかしてませんか?」
「なんでいるのー?」
「親の付き添いです」
 と、親が話してる方を指差す.
「あー、なるほどね? さすが社長の息子~」
「はっ、所詮成金だけどな」
「君って、敬語とタメ口、ムッチャ混ざるよね?」
「さぁどうでしょう」
「対応冷たくない?」
「一応他人ですから」
「同じ家なのに!!!」
 と、少し大きめの声で喚く。
 っ!!!
 周りがこちらに注目する。帝を見ると、彼女はほくそ笑んでいた。
 こいつ……!
「なにを言われます、帝先輩。ただの先輩後輩ですよね」
「あ~、だねw    寮で一緒だから、間違いではなくない?」
 周りがこちらから視線を外す。よかった。






「で、なんです」
 廊下へ出て、壁にもたれる。
「いやぁ、ゆっきーについて驚かない?まずは」
「……少しだけ、『西園寺』と言う苗字で察してたんで」

 西園寺家。
 この国有数の金持ち……というよりは、財閥。
 長年続く歴史と、新たなもの(AIなど)で、成功する功績。洗練された立ち振る舞いに、家名のブランド力。
 どうにかして地位を得たいものからしたら、これ以上ない獲物だ。
 そして、そこの一人娘は表舞台に上がってこないと噂されている。
 社交界やパーティは出たとしても、企業のトップとして君臨することはなく、あくまでも裏で。という形。
 要するに、みんなが欲しがる獲物。
 メイクで姿を美しく、ではなく少し綺麗な顔立ちを落とす。
 嫉妬を少なくする。
 そういう立ち振る舞いのできる西園寺は様々な財閥のお偉いさんに好かれている。

「ゆっきーは、一人娘ちゃん。ま、継ぐ気はないけど管理職もやってるんだよー」
「じゃあ、なんで春吹荘までやってるんです?」
「ノリ?」
 ノリかよ。
 ここの人ノリ多すぎるだろ。
「で? 何故ここに?」
「華麗にスルーしたね、いいけど。 ボクらさ、あそこの買収とかうざいことした有権者たちをとっちめるために人望手駒がいるんだ」
 なるほど。
 パーティで権力者に接触しようってことか。
 で?なんでわざわざ声をかけてきたんだ、こいつ。
「そっこで~? IT企業の最先端をゆく、キミにも頼みたいのだよ」
 そうくるよな。
「嫌です」
 即答した。
「でしょーね」
 笑いながら答えられた。
 ま、無理だけどね?そう言って振り返る。
 つられて振り返ると、そこには両親。
「大変なんだってな?」
「お友達のためだもの」
「「力を貸すよ/貸すわ」」
 はぁ~。
 にひひーっ、と笑う帝を睨み付ける。
「ボクの方が一枚上手だったね?」
 











 そうして、俺はパーティの間中、媚を振るって、人望を広げていった。
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