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六章 おでかけ
どうしてかな?
しおりを挟む~ ソラside ~
ユウくんが、荷物を撮りに行ってから全然帰ってこない。
僕が内心不安になっていると、宵衣先輩が肩を叩く。
「こっちにこい」
手招きされるまま、こっそりと紅羽達のところから離れていった。
宿の近くの雑木林に入って、睨み付ける。
「なんのよう?」
「そんな顔するな」
となだめる口調だけど、あんたも軽く睨んできてるじゃん。
お互い様ってやつだね?
「君が疎いからこうやって直接話してるんだけど?」
「は?」
疎い?
ここのことか?
ユウのことか?
……こいつは知ってるのか。
「……知ってるんだ?」
「なにを?」
と、小さく笑う。
その行為は、自白も同然だ。
「ここがユーくんに関係あること。知ってたんだろ」
宵衣は、ソラの方を向いて、それから、紅羽達のいる海側を見た。
なんとなく、僕もそれに続いた。
海を見て、それから…………なにも感じなかった。
ユウなら感じたろうな、悲しみを。
紅羽なら感じたかな、たのしさを。
僕にはなにも感じられない。
ただそこにあるのが現状だということしか理解できなかった。
「……こういうのにキミは疎いね」
「あんたもだろ」
「さぁどうだろう」
売り言葉に買い言葉。
視線で急かせば、仕方ないというふうに彼女は口を開く。
「ここがユーキんに関係ある場所だなんてぜーんぜん知らなかったよ? でもそれっぽいことはしてたから少し探りを入れてね、調べた」
「! 探り?調べる?」
知らないという言葉に対する驚きもなにも僕は隠さずに聞き返した。
この人に隠す必要なんてない。
「ボクもそれなりの技術はあるんだよ?リューくんに教えてもらってるし、何より情報屋の知り合いもいるからね♪」
……後で偽装しておこう。
僕はこっそりそう決めた。
「ここ、ユーキんの両親が経営してたんだね」
「元、だよ」
「キミは知ってるの?」
宵衣はいつもと変わらぬ、でもすこし大人しめの作り笑いとわかる笑顔を向けて尋ねる。
ソラは、いつもの底抜けな人らしくない明るい顔でなく、普通の人間らしい顔をして、
「知ってる」
とすこし不機嫌そうに答える。
「でぇ~、今度は何?」
「ここ、選んだの偶然にしてはおかしい。なんでこんな遠出をーーー」
「ボクじゃない」
宵衣はソラが言い終わる前に否定する。
「でも、あんたしかあり得ないんだよ」
「違うよ、ボクじゃない。 ボク、こーゆーときは嘘つかないんだ」
「前、誤魔化した」
「誤魔化しただけだろ?嘘はつかない。 誤魔化すだけ」
確かに、前回の紅羽の見定めの時も嘘をつこうとすればなんとでも言えた。けれど宵衣は、「教えない」という言葉を使って、理由を話さなかった。
「じゃあ……」
「うん、知らない。本当に。ここを選んだのは、ボクじゃ無い。誰か、ボクも知らない」
「知らない?」
「うん。ここは意図的に選ばれていて、大人が選んだのはわかる。でも、センセーなのか、ゆっきーなのか、はたまた違う力なのかはわからない」
「その人は、知ってるって言いたいの?」
「うん、きっと。まぁ、ボクは知らないけどね。だから、わからないけど、ユーキんには、支えがいるんじゃないのかにゃ?」
「え?」
「そらっちはさ、自分とか相手とかどう見えるのかには敏感だろ~。だっていつも笑顔だ」
自分もそうなのに、全くブーメランだということを自覚することなく宵衣は話し続ける。
「でもさ、感情には疎いよね。操れないのかにゃ?」
「何言ってるの~? 僕のこと、煽ってる?」
屈託のない笑顔をソラは宵衣へ向ける。
「ほら、偽る。感情にキミは疎い。だからわからないかもしれないけれどね、トラウマになる場所って、相当だよ」
「……?」
ソラは宵衣を注意深く観察する。
「そんなに睨まないでおくれ。 要するに、クーちゃんは、きっと精一杯で気がつかないはずだから、キミが苦悩を聞いてあげなきゃってことだ」
「なんでそんなこと言えるの?」
うーん、とすこし悩むようなそぶりを見せて、宵衣は昏い瞳でソラに応えるでもなく、小さな小さな声で呟いた。
「……居場所を守りたいなら頑張らないといけないから」
宵衣はくるっとUターンすると、紅羽達の元へと帰っていく。
「あ、そうそう。 どこで事件があったか、キミは覚えてるかにゃ?」
じゃーね、と言い残していつもの表の顔を貼り付けた宵衣は、去っていく。
事件の場所…………あっ!
あいつ!
僕は、宵衣先輩に嫌悪と嫌気を感じながら、走り出す。
あんたのことは、後で暴いてやるよ。お前も、僕たちと同じように何かあるんだろ!
でも、それより先にユウだ。
気がつけなくて、ごめん、ユウくん。
今いくから、死なないで!
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