死に損ないの春吹荘 

ちあ

文字の大きさ
上 下
36 / 64
六章 おでかけ

マジ適当かよ。

しおりを挟む
 宵衣先輩に手を引かれるまま、私は大部屋にあるベランダに向かった。
 そこには予想通り、灰咲先生の後ろ姿がある。
 窓に手をかけようとして、宵衣先輩から待ったを掛けられた。
「なんでですか?」
 そう聞くと、にっと、彼女は笑う。
「電話してるだろ~? 電話終わって一息ついたところでわっ!ってやろーぜ☆」
 あぁ、悪巧みなのね。
 まぁ、宵衣先輩らしいですし、灰咲先生相手ならやっでバチは当たらない気がするんでいーですけど。
 窓から覗くと、灰咲先生がスマホを耳から話す。
 私たちはうなずいて、イッセーので、窓から飛び出す。
ガラガラ!
 と大きな音を立てて開いた窓の方に振り返るより先に、宵衣先輩が灰咲先生の背中に体当たりした。
「ぐわぁっ?」
「わぁー!」
 テンションの落差~。
 そして、悲鳴と歓声……。
「っ、おまえなぁ!火があるの!わかる??」
 そう言って灰咲先生は、手元のタバコを見せる。
 確かに、火を落としたら万一のことがありますからね。危ない危ない。
 ってことは、これ駄作すぎない?!
「落とさないだろ~」
「楽観主義か!」
「え、そーだけど?」
「灰咲先生、宵衣先輩に対してまともなツッコミは意味ありません」
「……だな」
 ため息を吐きながら、彼は頷く。
 まぁ、相手は宵衣先輩なんだし、当たり前っちゃ当たり前だけどねー。
 宵衣先輩に勝てるわけないじゃん。
 まぁ、雪芽さんとか、もしかしたらソラは勝てるかもだけど。
「で、何の用?」
「逃げ出したセンセーの処刑!」
 笑顔で言うことちゃいます。
 まぁ、似た感じだけど。
「え、俺殺されんの?」
 あ、そこノるのね! 
 いやぁ、ユウはつっこむからなぁ。加減がわからん!
「ってことで、買い出しな♪」
「は?」
「……ん?」
 は?の灰咲先生に続き、私も首を傾げた。
 え、いや、そんな話微塵も聞いとらん。
「スーパー遠いんだよね。だから、車運転できる人いるんだ~」
 あ、だから灰咲先生を口実で利用しようとしたと。なるほど。
「えー、おまえバイクできるからそれで行けよ」 
 ……えっ?
「宵衣先輩、バイクの免許持ってるんですか?!」
「え、うん。だってあれ16歳からだぜ?」
 そーゆー問題かな?!
 いや、すぐさま十六になったらソラくんは取りそうだけど!
 取ってるとは思わなんだ!
「すごっ」
「そーかい?」
「俺が取らせたんだよ……」
 ため息まじりに灰咲先生はそう言った。
「え、どゆこと?」
「いつまでも車だなんだって言われてパシリにされるのは御免だからな。 バイクの免許取らせた」
 ……まさかの自らの保身のためにバイク免許を取らせるとは。
 意外……んんぅ、まぁらしいですが。
 でもさ!意外というかさ、変すぎん?!
 自分の保身のためにバイク免許って、おかしくない!今更だけど!
「おかしいでしょ!」
 絞り出した答えがそれだった。だってー、何言ったって無駄な感じするし、かと言って言わないのもあれだし、でも、私語彙力ないから言葉上手く使えないんだよ!(何ギレ?)
「え~そうかい?」
「楽だったらなんでもいーだろ」
 あぁ~、ここの人たちの基準がおかしい!
 そりゃ、ツッコミに回ったら、疲れで倒れるわ。ユウ、なんか今まで、ごめんね。
「で、なんで俺が行くんだよ」
 話戻してくださってありがとうございます。
「バイクじゃ運びきれないだろ、この人数分。毎回行くわけにはいかないし」
 まぁね。
「それに第一、バイクがない」
 わぁお。
 そこかよ!
 全ての答えそこかよ!
「あと、車の方が楽」
 まぁ確かに。
「パシれるし!」
 うん、本音もれてません?
「思ってもいうなよ」
 と呆れ気味の灰咲先生。
 うん、ほんっと今更だけどここの人たちさ、ボケが絶えない。どーしよ?





~ ソラside     ~
 ユーくんは、いつもより少しゆっくりと素麺を食べる。まぁ冷たいし、軽いし、食べやすいのか、病気の割には、さっさと食べる。
「ねー、ユーくん」
「ん……ゴクッ」
 素麺を飲み込んでこっちをみる。
「なんだ?」
 礼儀正しいね。ほんと。
「火って怖い?」
「あぁ」
 率直な答えにソラは目を丸くする。
 え、素直。
 ユーくんだから、あやふやにされたことにさえ気づかせずにあやふやにすると思ってた。
「おまえや紅羽が失敗して何か問題を起こすかと思うと心底怖ぇ……」
 ユウは、真面目な顔で少し震える。
 そーゆー話じゃないんだけど。
 いや、それもあるかもだけど。
「違う。タバコとかそーゆーの」
「いや別に? ただ、体に悪いだろタバコは」
 だから、そーゆー話じゃないって。
「本当にヘーキ?」
「なんで?」
「キャンプファイヤーと花火しようかと」
「キャンプファイヤーする場所はねぇよ」
 ユウは、そう言って素麺を食べだす。
 またソラは目を丸くしていた。
「なんでないって知ってんの?」
「ん。 ……辺りを見るからになかった」
「ふぅん」
 見るからにない、ねー。
「でも、大人組があれなんだし、ありそーじゃん?」
「ねーもんは、ねーよ」
 呆れ気味にそう返される。
 ふぅんつまんないのー。
「花火は?」
「う~ん、砂浜でならできるだろ」
 そう言ってユーくんは、窓の外を指差す。
 あ、なるほどね。
 あそこなら、いけるか。
「ねー、それとさ、」
「まだあるのか?」  
 食べるの邪魔するなよ、と言いたげなユーくん。ごめんごめん。
「クレちゃんたち、追い出してよかった?」
 僕は、ベッドに上半身を預けながらそう聞いた。そんな僕を煩わしそうにしっしと、よけながら、ユーくんは答える。
「さぁな。 別にいたっていなくたって、関係ねぇよ」
「あるんじゃないのー?」
 茶化すように聞くけど、いつもと表情は変わらない。
「ねぇ」
 ないのかー。
 ……本気かわかんないから困るんだよね、ユウって。
 何考えてるかわかりにくいし、僕と全くと言っていいほど思考回路が違う。
 ユウが正義なら、僕は悪ってところかな?
 まぁそれなら、同族の宵衣先輩もだけど。
「見栄っ張りはダサいよー」
「違うつってんだろ。てか、うるせぇ」
 そう言って軽く手刀で叩かれたかと思うと、部屋から追い出された。
 マジでユウ、病人?
「おーい?」
「出てけ」
 はぁい。
 僕は、仕方なく部屋から離れる。
 でもどこかに行こうにも、クレちゃんがいるとはいえ、ベランダには近寄りたくないし、リビングも嫌だ。
 二階と三階(屋上)の間にある階段に座り込んだ。
 ほんっと何考えてんの、あの人たち。
 くっそめんどくさいことしやがった。
 それに、ユウは倒れるし、紅羽は気がつかないし、帝は変に聡いし。
 まったく、本当にややこしいな。
 


 ソラはイライラしながらも、十五分程度経つとユウのもとへ戻っていった。
しおりを挟む

処理中です...