死に損ないの春吹荘 

ちあ

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五章 夏休みっ!

誕生日、ねぇ

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 みんなが一斉にパーンっと、クラッカーを鳴らす。
 ボクはその光景を固まって見ていた。
 なにが起きているんだ……?
 困惑していると、ゆっきーに手を掴まれ、半ば強引に真ん中の席に座らされる。
「お誕生日よ」
 そう告げられて、ボクは驚いた。
「え、そうだっけ?」
 その一言に真っ青にクーちゃんがなったけど、そうでしょ!と大人二人がツッコむ。
 別にどうとも言えない行事だし、やらなくてもいいと思うけど……。
 そんなことを考えていると悟らせないように笑顔で微笑んで、蝋燭の火を消した。



 リューくんからの手紙はなかなか嬉しいものだった。
 まさかこんなギミックがあるとは思ってなかったからね!


 クーちゃんからのプレゼントはなかなか的を射ていて、少し驚いた。
 ボクが落ち着きないことを示しているかのようにラベンダーの匂いだなんて……まぁ、クーちゃんだから、多分偶然だろうけどね。
「ありがとっ」
 驚いたことは、まぁバレててもプレゼントが意外だったで済むからありがたいな。
「俺からは」
 そう言ってユーキんから差し出されたのは、茶色い紙に黄緑などでクローバーが少し書かれた可愛い日記帳だった。
「日記?」
「はい」
 なんでも、この頃色々あって結構内容が濃かったから、それを残していけるように、だってさ。
 いやぁ、しっかりしすぎてて怖いなー。
 というかこれ、ちゃんと書かなきゃ駄目なパターンじゃないかい?!
「僕からはね~」
 そう言ってそらっちが差し出した袋に入っていたのは、オレンジのハンカチと小さなカバン。
 カバンの中には、小さな紙切れが入っていて、
『 お誕生日おめでとー!
 僕ね、なにあげればいーかわかんなかった!
 はっ、とその時気付いたんだけど被らなきゃいーんでしょ?プレゼントとしては、
 認めてもらえるかわかんないけど
 メールで聞いたらオッケーだった!
 なんか、しょぼくてごめんね?
 いい年に今年がなりますよーに!』
 そう書かれていた。
 ふぅん。
 バレバレだね。というか、無理やりだね。
 クーちゃん程度ならバレないかもしれないけど、他の人にはバレバレだなっ!
 ボクはそう思ってその紙をカバンの奥の方に押し入れた。
「ありがとねっ」
 一瞬舌を出して、そう言う。
 そらっちは、ボクがメッセージに気がついたとわかったらしい。
「(嫌い)」
 そう口を動かされちった。
「俺からは」
 マッくんは、恥ずかしがりつつも、ボクとシキの分まで考慮して、ブラシと櫛を用意してくれていた。
 あんなに初めはつんけんしていて、関わろうとしてくれなかったマッくんが今やプレゼントを……。
 嬉しい!
 …………なんてことは特になく。
 まぁ、他の人より何倍かは嬉しいけどさ、その程度。
 心開いてくれてよかったなーくらい?
 ま、それを悟られないように大袈裟に振る舞った。
「ほいっ」
 そう言って投げられたプレゼントを机の下に落ちかけたところでキャッチし、ボクは包装を開ける。
 中にあったのは、青色のネクタイだった。
「お前つけてねーから」
 理由が不純だぞ!いや、そらっちもだけど。
 でも、よく見ると、そのネクタイは少し、古いような気がした……。
 それと同時に、クーちゃんが
「これ古くありません?」
 と言い出す。
 やっぱりか。
 センセーが言うには、家にあったんだとか。
 いや、ひどいな!
「ハルらしいやつだろ~」
 そう言って、ニヤニヤ笑う。
 ……。
 ボクはその言葉を聞いて一瞬、仮面を取り繕うのを忘れてしまった。
 ……なるほどね、そういう、こと、か……。
 君もひどいなぁ。
 そんなボクの心情を察してか、否か、ゆっきーは高額ヘッドホンをくれた。
 いや、流石に高いな!
 センセーはともかく、ゆっきーも、チサも流石に、お金使いすぎてないかい?
 ボクが心配するのもなんだけどね♪
「ワンっ」
 シキが鳴いて、ボクの手にふたつのい石を落としてくれた。
 一つは、深い深海の藍色。
 一つは、深い深緑の緑色。
 これを見て思わず息を飲む。
「ありがとな、シキ」
 まさか、シキがプレゼントをくれるとはな!




 その日の夜。
 ボクは、三時ごろにリビングに行った。
 呼び出しをくらったからだ。
「よ」
 そう言ってこちらに手を招くのは、センセー。
 その横に、疲れた顔をしたゆっきーいた。
「誕生日はどうだった?」
「いや、忘れてたからどうとも思ってないにゃ」
「あら、電話でせがんでたじゃない」
 ゆっきーはそう言った。
 電話でせがんだ……?
「!」
 あっ!
「あぁっ! ゆっきーもあそこにいたんだにゃ?!」
「あ……」
「お前さぁ……」
 流石に君、墓穴掘りすぎだろ!
 そしてこの間会えたっちゃ会えたけど、二人だけずるいぞ!
「まぁいいじゃない? リトがやりたいことあったんでしょ?」
 強制的に雪芽は話を変えた。
「で、なんのよーだい?呼び出して」
「これ」
 そう言って理人は改めて宵衣に、黄色い包装紙で包まれた箱を渡す。
「え?」
「プーレーゼーントっ!」
「もらったぞ?」
「あれはあれ、これはこれ」
 ほんっと、大人ってこーゆー時に金使いたがるな~。
 そう思いながら、包装紙を破り、箱を開けると、中にはバニラ色のテディベアが入ってきた。首には、茶色いリボンをつけている。
「これ……」
「俺からのプレゼント」
 ボクはそのぬいぐるみをマジマジと見つめる。
 クリクリの目に、小さな体。
 そこそこ愛らしい。
「子供じゃないんだぞ」
「嬉しそーじゃん」
「これがプレゼントか?」
「あぁ。それがプレゼント」
 センセーはたまに、というかよくボクのことを子供扱いするから嫌いだー!
「なんでこれなんだい?!」
「だってさ、アレは、からよ」
 だから、一応あげとかないとだろー?
 そう言って笑う。
「雪芽も、アイツもさ、そこそこ高価なのあげてんじゃん? 俺もここは腹を切らないとと思ってよ、オーダーメイドだ」
「まぁ! テディベアを一からオーダーメイドってそこそこよ?」
 いや、十何万もするヘッドホンをくれた人がなにをいうのかね?!
「ま、大事に使ってくれや」
「そーね」
「そのリボン外して、ネクタイ付けるのもアリじゃね?」
 そう言って笑う声が聞こえなかった。
 アレは、センセーからのプレゼントじゃない。
 ただその言葉ばかり頭に残って。
 ボクはさっさと部屋に戻ることにした。
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