死に損ないの春吹荘 

ちあ

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四章 ……学校ってこんなんだっけ?

入院常習犯?

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 宵衣先輩が入院してから五日。
 日曜日なので、お昼過ぎにきてみるとなんとちょうど検査中らしい。
 何というタイミングの悪さ。
「あら、確か……帝ちゃんの後輩さん?」
 知らない看護師さんから声をかけられる。
「え?」
「あ、やっぱりね。 氷室ひむろさんが言ってた子たちだわ」
 ひ、氷室さん……?
 そしてこの、中年くらいのおばさまはどなた?
「あなたは?」
「あぁ、私は、清原。帝ちゃんのある意味担当ナースよ♪」
 え?
 なにそれ。
 担当ナースってどんな制度?!
 私そんなの知らないよ!病院にお世話になったことまぁまぁあると言えばありますけども!
「なにそれぇ~?」
「知らん」
「?」
 わぁお、ユウと瞬先輩知らないのね!
 というか、案外こーゆーのに一番詳しそうなソラくん、一番初めに知らない宣言しちゃいますかww
「あぁ、私たちが勝手に呼んでるだけなんだけど、あの子、他人に心許さないから、長年お世話してるナースじゃないと、ダメなのよね」
 ……あぁ、生徒会に対するあの冷酷な態度みたいなのかな?
 いやいやいや!
 怪我してんだから手当してくれる看護師さんにそんな態度とっちゃダメじゃん!
「て、長年?!」
「ええ」
 何でもない顔で言ってますけど、え?宵衣先輩、病気?!
「あ、病気じゃないの。 あの子、よく怪我してくるから……。ついでに大怪我」
 そう言って、清原さんは微笑む。どうやら、今からお昼休憩らしい。
 まぁ確かにしそうではありますが!
 というか、宵衣先輩ぃ……。あなたもそーゆー系統なのね。
「! そういえば、帝ちゃん、あなたたちの前じゃ、どんな感じ?」
「え?」
「ほら、裏表あるじゃない?」
 そう言って清原さんは尋ねる。
 年齢的に見て大体、宵衣先輩のお母さんとしてでもおかしくないくらいの歳の差あるよね。うん。
 だから気になるのかな?
 ……宵衣先輩、迷惑かけすぎでは??
「どうだろ?」
「そこそこ明るい」
「向こうから構ってくる」
「あつくるしいくらい、笑顔だよ~」
 まぁ、三人の意見のまんまですね、先輩。
「あ!でも、頼れはしますよっ」
「……やまかけ?」
「だね!」
 私の言葉にソラはうなずくけれど、ほかの二人はため息をつく。ま、内容はそうだけどさ。
 でも、一応頼れるから!一応!
「頼れる、ね……」
 なんか含みのある言い方をしますね、清原さん。
「そーだ、私今からお昼なんだけど、中庭行かない? 帝ちゃんの話なら、してあげられると思うなー」
 ね?と、ニッコリ清原さんは微笑む。
 私たちは、宵衣先輩がいない間することもなかったので、大人しく清原さんについて、中庭に向かった。



 中庭には、紫陽花が咲き誇っていた。
「キレー」
「すごいな」
「たっいりょー!」
「魚じゃねぇぞ?」
 各々感想を述べる中で、少し変なのとツッコミが混じる。何なんだよ、ソラとユウは。感想か、それ?
「ふふっ。 で、なにの話ししてほしい?」
 え、好きなこと聞いていいんですか!
 何と、そんなラッキーなことあるんですか?!
「帝、ここによくくるってどういう?」
「んー、それ? それはね、あの子、もともと怪我する子だったのよね、昔から」
「え?わざと??」
「ええ。わざと。 階段から落ちてみたり、溺れてみたり……いろいろしてたわね」
 懐かしげに振り返る清原さん。 
 いやいやいや! 
 そんなこと、懐かしそうに思い出すことじゃないでしょ!いや、おかしくね?!
「あの子ね、五歳くらいまで、無意識なのか何なのか、自分でわざと怪我して入院したの」
 無意識って、それはそれでやばくない?
 ……わざとよりタチが悪い。
「でも、六歳ごろからそれはぱったりやんでね、みんな安心してたんだけど、そうもいかないというか……入院はしないんだけど、よく遊びにくるようになったの」
 は?
 え、は???は???
 病院に遊びに、来る?
 何ですか、その謎な子。え、謎じゃん。意味不明じゃん。
 何で病院をわざわざ遊び場にしたがるのかが私にはわかりませんね。はい。
「大抵この病院、満室にならないんだけど、怪我した時とかいつもあの部屋を使っててね、暇なとき、あそこで遊んだりしてたわ」
 うーん、だからさ、懐かしげな目で語るのやめて。
 それさ、結構業務妨害だよね?
「ま、みんな慣れてたし、それでも一年に一回くらいはそこからは絶対的に無意識で怪我しちゃうのよね、あの子」
 マジか。
「よく運ばれてくるから、仲良くなっていうのよ。 はじめは、ほんっとに敵意丸出しで、話しかけても完全無視。なにをしても反応しない。ご飯もあまり食べない」
 ……仕事にならねぇな!
 いやいやいや、業務妨害しすぎじゃん、先輩。
「そんなんだから、嫌われてたんだけど、六歳くらいからね、変わっていってさ、八歳とか九歳とかになったときには、おじいちゃん先生とかとほんっとに仲良しになってたわ」
 お祖父ちゃん先生!
 え、あの破天荒な宵衣先輩と仲良く慣れちゃうんですか?
「……それってどんな関係なんすか?」
 本当にそれだよね、ユウ。
「まぁ。お祖父ちゃん先生にとっては、孫娘みたいな感じ。私たちそこそこの看護師にとっては、姪っ子。若い子にとっては妹みたいな、マスコットキャラ的ポディションを確立してたわね」
 ……いやほんと、なにしてるんです、宵衣先輩。
 病院のマスコットキャラ的ポディションに、怪我をたくさんする子供がなるって相当だよ!?
「宵衣先輩、ここ最近入院とかしてたのー?」
「いいえ。 中学二年、三年の時は全く入院してこなかったわ。でも、高校の初めの頃に少しだけ入院してたわ」
 ……宵衣先輩、頻度やばくね?
 中学二年三年こなくて、高校はきたなぁ……って、看護師さんに覚えられてる時点で相当やばくね?!
 私たちはその後も宵衣先輩の小話を聞いて盛り上がる。
「あ、そろそろ検査終わったわよ」
 そう、清原さんに言われて、私たちは立ち上がる。
「ありがとうございました!」
「ありがとね~」
「おい……。 ありがとうございました」
「……」
 瞬先輩が最後になにも言わず頭を下げると、私たちは歩き出す。清原さんは手を振ってくれていた。





 夜。
ガラガラ
 宵衣の部屋の扉が開く。
 そこから、清原さんが部屋に入ってきた。
「帝ちゃん」
「……勝手に話したんだってね、キヨさん」
 清原の方を見ることなく、窓の外をじっと見つめたまま、宵衣は言う。
「ごめんね」
「……なに話したの」
「昔たくさん入院してきたやんちゃな子ってことと、ここの人たちの孫娘、姪っ子、妹キャラってことくらい」
「……中学のことは」
「もちろん、話てないわよ」
「……ホント?」
「ええ。 私なんて、こんなツンケンな姪っ子がどうしようもなく可愛くてたまらないもの。あなたが嫌がることは全部隠しておいたから安心して」
「……ありがと」
「いーえ」
 雪芽たちと同じように清原は、優しく微笑んだ。
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