死に損ないの春吹荘 

ちあ

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四章 ……学校ってこんなんだっけ?

まさかのあの人が入院です?!

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 最近は、もう梅雨になっていて、雨ばっかり。並んで帰るにも、傘がぶつからないようにしなきゃだし、ちょくちょく私がソラが、傘を忘れるし……結構災難な季節です。
 

 今日、私はソラとユウと帰宅し、もうほぼ恒例行事と化した、宿題タイム&ゲームタイムを行なっていた。
 宿題&ゲームタイムとは、ゲームで遊んで、その順位などで宿題をする時間が割り決められ、三位が一人残ってる間に二人対戦のゲームをやるって形。 ユウは、三位だとしても、割り当てられた量をこなし、あと予習して暇そうにしてるんだよなぁ。
 ずっちぃ!
 神様の不平等ダァ!
 ……と、現在二回連続三位となった私は絶賛心の中で嘆いております。
「くそぉ」
「がんばーーって、あぁっと!」
「チッ……」
 応援するなら、応援しきれや、ソラ!
 そして、ユウは、無言なのに、時々ソラがトラップを交わすと舌打ちして怖いって!ユウの無言は怖いんやて!
ガチャ
「おまえら」
 リビングの扉を空けて、瞬先輩が入ってきた。
「なんですー?」
「……出かける用意をしろ」
 ……は?
 いや、真面目な顔つきでいきなりそう言われても困るのだが?!
「ワゥッ!ガウガウッ」
 瞬先輩の横で、シキが大きな声で、今まででいちばんの迫力で吠える。
 え、え!?
 な、なになになに?
 ユウは、ゲームのスイッチを一方的に切り、立ち上がる。
「なにがあったんです」
 真面目な顔つきで、瞬先輩に問う。
 ……これ、なにかあったんだな。
 ユウは、他人のそーゆーのに気が付きやすいけど、私はからっきし。でも、ユウのなら、なんとなくはわかる。
「さっき、部屋にいたらーーー」



 俺が部屋で読書に励んでいると、
 こ、コンコン!
 と、少し遠慮がちに扉がたたかれた。俺は不思議に思いつつも立ち上がって、ドアノブへ手をかけた。
「誰だ?」
 開けようとすると、向こうから扉を押さえつけられ、こう言われた。
「でっ、出て……こないで……っ」
 それは、中性的な声で、女と一瞬勘違いした。数秒遅れで、それが、神坂のものだと気が付き、俺は問うた。
「おまえがなぜ?」
「詳しいことは後で……っ。 よ、宵衣ちゃんが、病、院に……。若葉総合病院、ですっ。いえば、通して、もらえる……からっ……行って、あげて……」
 怖がりながら、辿々しく神坂は泣き声まじりにそう言った。
「ぼ、僕がいなくなって、三十秒、たったら、出て行ってください!」
 その声と同時に、ドタドタと足音が遠ざかる。
 三十秒後、急ぎ足で扉を開けると、そこにはシキがいて、俺は支度をした。



「……ってわけだ」
 宵衣、先輩が病院に……?
「なっ、なんで!」
 私は、瞬先輩の腕を掴むと、ギュッと握って聞いた。 
 ソラは驚いていて、ユウは静かに支度を始めていた。
「詳しいことはなんとも。ただ、帝宵衣の面会に来たといえばいい、そう灰咲から言われたらしい」
 そう言って瞬先輩は、私の手を離させると、用意をするように促す。
 私たちは、ソファの上に置いていたカーディガンなどを軽く羽織り、鍵やお財布を軽く持って、玄関へ向かう。
 玄関で、傘を持って、外に出ると、雨は先ほどよりも増していた。
 ただ、静かすぎる沈黙の中、雨の音が響いたーーー。



 病院へ行くと、私はフロントに駆け寄る。
「あのっ」
 私が慌てているのを見て、看護師さんは、落ち着いて、と言って微笑んでくれる。
「どうされました?」
「よくわからないんですけどっ、先輩が、ここにいるって……」
「お名前は?」
「帝、宵衣さんです!」
 看護師さんは、少し目を見開いて、あぁ、とかすれた声を出した。
 宵衣先輩のこと、知ってるの……?
「大丈夫です、帝さんは軽傷ですよ。ただ、検査入院と念のためってことで一、二週間ほど入院ですね」
 私を落ち着けるように手を握って彼女は優しく話してくれた。
 よ、よかった……。
「そんな慌てるほどじゃない」
「焦りすぎだよ~」
 瞬先輩と、ソラは軽く私を嗜める。
「ま、よかったな」
 ユウは、私の頭に手を置いて撫でてくれる。
 私が焦ってる間にどうやらユウは、シキの入場の話をしていたようだ。すげぇ、冷静。
「ふふっ、先輩思いの優しい後輩さんですね。帝ちゃんは、一階の大部屋、112号室です」
「ありがとうございます!」
 私はお礼を言って頭を下げて、部屋を探す。
 廊下の途中。
「ひとつ疑問なんだけどー」
 ソラが口を開いた。
 私たちは軽くソラの方を見る。彼はにこりと笑って聞いた。
「なんであの人、宵衣先輩のこと、『帝ちゃん』なんて呼んだんだろーね?」
「え?」
「……そうだな。もう、『ちゃん』なんて歳じゃないし」
 あぁ、確かにー。謎だな。
「……クセ」
 瞬先輩が何かを呟く。
「ん?」
 なんて言った?声小さすぎます、先輩。
「いやなんでもない」
 彼は頭を軽く振ると、扉に手をかけた。
 病室には、『帝 宵衣』と書かれている。
ガラガラ
 扉を横に引くと、そこには、ベッドの中の宵衣先輩と、椅子に腰掛ける雪芽さん、雪芽さんの向かい側に立つ灰咲先生がいた。
「お? なんでいるのかにゃ?」 
 宵衣先輩は、いつもと変わらぬ口調で微笑みを向ける。
 私はそれにほっとした。
「早ぇ~」
「あんたが急かすからよ!」
 今にもグーパンチしそうな雪芽さんに対して、ベッドを挟んでいるため灰咲先生は冷静だ。
「なんで、病院……」
 私は思っていたことを聞く。私たちは部屋に入り、扉を瞬先輩が閉める。
「あぁ、ちょっとヘマやってな。階段から転がり落ちたんだよ」
 いやぁ、ミスったミスったと、彼女は、笑って、ん?と首を傾げる。
 し、心配して損したぁ~。
 私たちは、宵衣先輩のベッドの周りに集まる。
「ちょっとぉ、ネコ先輩ぃ、しっかりしてよ~」
「ごめんごめんっ♪」
 彼女は、いつもと変わらぬ表情で微笑みを浮かべる。私はそのことに、改めて安堵した。
「よ、かったぁ……」
「おい! 神坂がすごく心配してたぞ」
「えっ、リューくんが?」
 瞬先輩の言葉に、宵衣先輩は驚いていた。
「そーです! もう、部屋から出て、扉越しに瞬先輩と会話したらしいですよ!」
 大人二人も、マジか!と表情を変える。
 それくらい、みんな心配してたんですよ、先輩!
「あははっ……。悪いこと、したなぁ」
「それもこれも、すべて話が下手な灰咲のせいよ」
 澄まし顔で、いつから持っていたのか(今気がついたけど)リンゴを剥きながら、雪芽さんはそう言い放つ。
「いや、俺はさ、『帝が怪我して、若葉総合病院に運ばれた。しばらく入院が』って言ったんだよ。そこでさ、あいつ慌てたのか、切りやがってよ」
 いや、話の初めに軽傷って言いなよ!
 勘違いしちゃうじゃん!それは、慌てて切っちゃうよ!うん!
「あんたさぁ」
「おぉい、センセー」
「「馬鹿なの?」」
 雪芽さんと宵衣先輩が声を揃えてそう言った。
 ……まぁ、そうですよね。そうなりますよね。予想はしてた。
「そもそもなんで怪我なんて」
 まぁそこよね。
「え? センセーがさ、ボクの頭のとこくらいまである資料運ばせてきてさ~。それで階段の段を見誤ってドッスン!てね」
 あはは~っ、と笑いながら宵衣先輩はそう言った。
 マジすか。
 なんて、なんて、ショボい。本人もそう思ってるから、笑ってんだろーな。
「要するにセンセーが悪い~?」
 笑いながらソラが聞く。
 まぁ、確かにそうかも。
「……考えようによる」
 バツの悪そうに灰咲先生はそう言った。
「というかさ~、なんでシーがいんの?」
 それっすね、ふつーに。
 まぁ、今回はユウくんのお手柄ってことで。
「友人の大切な相棒であり、雨の中おいておくわけにはって言ったら渋々許してもらえた。 今回だけらしいが」
 ユウは、そう説明する。
 へぇ、そうなんだ。
 心配しすぎて、そんな会話入ってこなかったよー。
「会話術すごいな!」
 と、ユウを褒めながら、先ほどからずっとベッドに前足を乗せているシキくんを、自分の上に横たわらせ、宵衣先輩は撫でてやる。
「ごめんなぁ、シキ。怖かったなぁ」
 そういいながら、シキくんを撫でる姿は、まるで、子供を見る親のような目で。
 いつもと違うなぁ、なんて思った。
「おい、そろそろ時間だ」
「! そっかぁ」
 宵衣先輩は、少し残念そうに笑う。
「今回は、私が泊まって行くわね」
 雪芽さんがそう宵衣先輩に微笑む。
 すると、宵衣先輩は少し笑って見せて、うん、と答えた。
 ん?私が泊まる?
「え?なんで?」
 それ!ソラくん、ナイス!
「宵衣ちゃんの家、多忙って書いてあってね。だから、着替えをこれから私がとりに行って、それからまた来て、そのまま泊まるってことになったの。 一人部屋ってそーゆーのありだから」
 なるほど!
 宵衣先輩、雪芽さんに見張られるのってどーなんだろ?
 窮屈なのかな?逆に、好奇心旺盛同士、楽しいのかな? 
「ほら帰るぞー」
 そう言って、さっさと灰咲先生は、部屋から出て行く。
「あ、ちょ!」
「またね、宵衣ちゃん」
「また」
「神坂に心配かけるなよ」
「じゃね~」
「さようなら!」
 私たちは一気に挨拶をして、灰咲先生は、振り向かずに手をひらひらさせる。
 ふふっと笑って、宵衣先輩も手を振り返す。
「うん、来れるときは来てくれよ~。暇で暇で仕方ない!」
 そんな彼女を残して、私たちは春吹荘に帰っていった。
 
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