死に損ないの春吹荘 

ちあ

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一章 ここが春吹荘

初めましての自己紹介

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ー 十五分後 ー
「遅くなってごめんね~」
 そう言いながら、あの銀髪の先輩が扉から顔を出した。その後ろから、青髪赤目の青年、茶髪黒目の男性がぞろぞろと入ってくる。
「なんで俺が」
 青髪の青年はそう呟きながら、三人がけソファに腰をかける。機嫌が悪そうに、手に持っていた小説を開き、こちらに目もくれず読み始める。
「めんどくせぇ……。帝がやれよ」
と、男性は言いながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
 でも、銀髪の先輩はそれを許さず、取り上げる。
「なっ!」
「センセーには、こっちの方がお似合いだにゃ~」
 先輩はそう言いながら、自分の持っていた缶を男性に渡す。その缶は、
「……オレンジジュース?」
「ん、オレンジジュースだよ」
 そう言いながら先輩はビールを冷蔵庫に戻した。わぉ、やり手だ。
「ったく、うぜぇ」
 まぁ、確かに飲み物取られた上に、ジュース渡されて、からかわれたら、そりゃあうざいよね。
「ほらほら、じこしょーかいだぞ⭐︎」
「俺から?」
 男性は自分の顔を指差して尋ねる。先輩はこくんと大きく頷いた。
「めんどくせぇ……。 はぁ、俺は、灰咲 理人はいざき りひと。学校で、数学教師をしてる。 ま、休みだし、学校外だし、法に触れなきゃ、ハメ外してもいいからな~。あ、校則を破るんなら、見つかんなよ?」
 法に触れなきゃて……(呆)。
 この先生さぁ、本当にこれでいーのかな?え、先生なんだよね?え?え?
 まって、自分で言ってて混乱してきたんだけど!
「こいつは、教師ではあるけど、クズすぎてみんなから舐められてる」
 うん、わかるわ。いや、大人を舐めるなとかいうけどさ、この先生は、論外だわ。
ガチャ
 大きな音がして思わず振り返る。そこには、金髪白目の少年、ソラがいた。
「クレちゃん!」
「ソラ!」
 私たちは飛びつきあい、手を取って、ぴょんぴょんと跳ねる。まるで、おもちゃを買ってもらえた幼い子供のようだ。(……表現あってるよね?ドラマとか、そーゆーのでもこういう感じだもんね?)
「ん~、おまえら知り合い?」
 訝しむように、灰咲先生は首を傾げた。
「幼馴染みなんだぁ~。 で、なにしてたの?」
「自己紹介。灰咲先生が終わったとこ」
「じゃ、僕も駄目人ダメひとのことしょーかいする!」
だ、駄目人……?人って字しか合ってないと思うんだけど。
「えーっとねぇ、先生はとってもクズで駄目な大人でしょ?だからね、僕、先生のこと、駄目な大人略して、駄目人って呼んでるの」
 わぁお……マジか。いやぁ、想像の斜め上を行ってたわ。灰咲の灰と、理人の人で灰人あたりかと思ったけど、駄目人かぁ……ww
「やめろつってんだろーが」
「言っても聞かねぇだろ」
うんうん、聞かないよねー、ソラは。
「ひでぇ、センセイ傷付いたなぁ。これ、成績下げたりしてもいいよなぁ?」
「え……(固まる)」
 ソラ、ソラ?!いや、思考停止しちゃってるね、フリーズってるね(フリーズるってなんだ?)
 そんなに、成績下がるとヤバいの、あんた?
「……ユーくん(泣)」
 いや、もう涙声じゃん、ソラ。
「おい、ソラ?嘘泣きやめろ、自業自得だし」
 まぁ、嘘泣きだけどさ……ww(わかってたけど、ノッてみた人)
 そこまで言う?かわいそうだなぁ、なんか。
「もういいかい?次はボクだにゃ」
はい、ソラになんか雰囲気似てる、銀髪の先輩、どうぞ!
「ボクは帝 宵衣みかど よい。可愛い子と~、甘いものが好きだにゃ♪ よろしくね」
「年齢言えや」
 ナイスツッコミ・ユウ!カタカナのオンパレードだ~。
 ツッコミ要員、なんか、ユウくらいしかいない気がしてきたんだけど、気のせいかな?あれ?
「ボクはね、今年で高二だよ。キミの、三つ上だね。 生徒の中では一番上だ。三年はいないからね」
 そう言って、宵衣先輩はニカっと笑う。
「いわゆる天才タイプだから、あんま気にすんな。訳わかんねーこと言うのはしょっちゅうだ。 気になったことはとにかく調べなきゃ気が済まないミテェなやつだから、深入りすんのはやめな」
 むっちゃ解説してくれますね、ユウくん。いや、名前は違うけど。
「つっぎはぁー、マッくんね」
「マッくん言(ゆ)な」
「無駄だろ~」
 ほぼ諦めモードの灰咲先生。それに対し、もう一人の先輩はキッと宵衣先輩を睨み付けるも、宵衣先輩はまるで気にも留めない。
 わぁお、さすがというか……。そのスルースキル、どこで身につくわけ?私も欲しいのですが!
「俺は、司佐 瞬つかさ まどか。高校一年だ、問題を起こすなよ」
 わぁお、簡・潔!そして何故か圧をかけられたのだがww
「マドくんはぁ~、そぅだなぁ。頭いいじゃん?」
「まぁぽいよね」
「人付き合い苦手じゃん?」
「まぁ……確かに苦手そうかも」
「で、上から目線」
 すべての理由がそこにあるのね。なるほど。頭いいから上から目線、上から目線だから友達できない。
 わぁお、簡単。なんて簡潔。なんてわかりやすくて、覚えやすい。
「真面目というか、頭いいな。天才とは少し違うタイプ。ソラと違った意味のマイペースで、上から目線などの理由ゆえに、友達ゼロ疑惑浮上中」
「友達付き合いなんて、面倒なだけだろ」
 はい、この人の友達はゼロ人でーす。
「これで、全員?」
「管理人さん抜いて、そーじゃない~?」
 ソラが相槌を打つも、はぁ……と言いたげにユウがため息をつく。
「まだいるだろ、先輩。おまえにも言ったろ先輩いるって三年の」
「あ」
「あぁ~」
 ソラ、あんたは覚えときなよ。仮にも、同じ場所で暮らしている仲間でしょう?
「ん、あ!リューくんのことか!」
「リューくん……サン?」
 私は首を傾げる。これ、絶対あだ名だよね。
「うん、まぁ出てこないし~ボクらが自己紹介しちゃっていいと思うな♪」
 そう宵衣先輩が言うと、「だな」と先生も頷く。
 瞬先輩は、もう興味を失ったのか、文庫本を読み始めてる。わぁお、マイペース。
「やっぱ、ここはセンセーだよなぁ?」
「おまえめんどくせぇからって押し付けたな?」
「にゃはっ」
 笑顔で笑って見せ、宵衣先輩は言及を逃れる。もう、そのテク、マジで知りたいんだけど!
「しかたねぇなぁ」
 灰咲先生って結構甘いよね。え、あ、クズだからかな?だから、強気になれないだけかな?それか、宵衣先輩が上手すぎるのか???
 多分、全部だな。うん。
「若干引きこもりの、神坂 隆かみさか りゅう。今の、中三がいる。ま、当分出てこねーから」
「僕あったことなーい」
「俺も」
「ちらりと見たことは」
 あ、灰咲先生はあるのね。
「興味ない」
 ひどい、かなりひどい。いや、仮にも同じ場所で暮らす仲間だよね?!あれ、これ、ソラにも言ったなぁ……?しかも話題はほぼ同じ人のことで。つい、数秒前くらいに。
「ボクはね~、たまぁにゲームの話するよ♪」
「「「「「え?」」」」」
 張本人の宵衣先輩以外が同時に、疑問を口にする。本を読んでいた、瞬先輩でさえ。
 てか、こっちの話聞いてるよね、瞬先輩。もしや、文庫本本当は読んでない系ですか???
 話に入り辛くて読んでる風を装ってるとか……だとしたら、結構ギャップあるな。かわいー(若干の煽り)。わざとじゃ無いからね?!
「え?ふつーじゃんか。リューくんね、ゲーム上手くてさ~。ボク、三回に一回くらいしか勝てないんだよねー」
「おい……帝さん、勝ってるのか?」
 あ、瞬先輩、宵衣先輩に対しては一応目上って意識があるんだ。苗字にさん付けしてるし。上から目線なのに。以外と、結構礼儀正しい系ですか??
 ん。ちょい待て。瞬先輩、この数分の間に色々と疑惑浮上しすぎでは???
 いや、イメージが偏ってるせいなの……か?
「え、うん♪まぁ、手加減してくれてるんだろーね、ほんと、規則正しく、三回に一回勝たせてくれるよー。 ってか、帝でいーよ?なんなら宵衣で」
「帝、お前……」
 呆れとも、驚きともなんともいえない表情で瞬先輩は固まる。まぁ、そうなるわな。
「じゃあ、学校来るように言ってくんね?俺言われてんだけどさー、無理?」
 頼む!と土下座をして顔を少しあげて、宵衣先輩の顔を見る灰咲先生。
 わぁ……プライドもクソもなんにもねぇわ、この人。てか、土下座のスピーディーさよ。何度やってんの?土下座し慣れてる感しか感じない。
「仕事を投げるな! ってか、無理だよー。行く気ないもん、りゅーくん。ムリヤリは駄目だぞ」
 うーん、正論だけどさ、絶っっ対、これ、後々のフラグだよね?そのうち、先輩なにか、無理矢理やらせそうなんだけど。
 あれ、そーゆー系の話を私が読みすぎなだけ?いらない心配?
 まぁ。それならいーんだけどね……。(今、フラグをへし折った疑惑浮上中)
ガラガラッ
 玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー」
 お。この綺麗で透き通った声は、管理人さん!……私、なにやってんだろ。ほんとに。
ガチャ
 この部屋、多分リビングの扉が開いて、先ほどあった管理人さんが入ってきた。
「あら、自己紹介?」
「うむ。ゆっきーもだぞ」
 ゆっきー?あ、あだ名ですか。
「りょーか~い。でも、荷物置いてからでOK?」
「うん、いーよー」
 そう言って、宵衣先輩は近くにあった(管理人さんの右手の)荷物を持ち、冷蔵庫へ先導する。なんと、紳士的な行動!
 それに比べ男性陣は、ダラーっとしてたり、ユウはテーブルの上が散らかっているのが気になるのか、片づけ始めてる。女子力……!
「ありがとね、ミカちゃん」
「へーきだぞ、このくらい~」
「おまえさぁ、ほんっと、この扱いの差なんなん?」
 先ほどビールを取り上げられた灰咲先生が抗議の声を上げる。
「さぁ、ナンノコトデショー?」
「カタコト」
「先輩もかよ……」
 先輩!私と同じタイプですね!(なんか、親近感湧くんだがww)
 私も、手持ち無沙汰だったため、手伝いに加勢する。
 まぁ、そんな荷物はーーーありましたね。ふつーに。結構な量の荷物、ありましたね。こんな荷物、そんな細くてか弱そうな手でどうやって持ってたの、管理人さん。いや、ひょいっと持ち上げて運ぶ宵衣先輩も先輩だけど。
「ありがとね~。 じゃ、自己紹介しましょうか。私は、西園寺 雪芽さいおんじ ゆきめ。ここの管理職をしています。まぁ、ほとんど住み込みだけど、たまに実家に帰るなぁ。
家事は、ここ一応、独り立ちのための施設って名目もあるから、普通の生活で必要な分は、みんなに分担してもらってるわ。 まぁ、みんながいるゆえの特殊な掃除とかはやるけど主にみんなが活動することになってるわ。私は、金銭面とか、そーゆーところのケアというか助言、あと、手回しとかそーゆー係。まぁ、ほとんど趣味でやってて、ある意味副業なの。お金あんまでないし、だから、家事は基本みんながやってもらう形になってる。あんまりあてにしちゃダメよ?」
 結構自己紹介に関係ないこと打ち込みましたね、管理人さんこと、西園寺さん。
「ね~、いくら知り合いとはいえ~、二人もやれば?」
 確かに。聞いてみたくはある!ナイス提案です、宵衣先輩!
「やってー」
「悪ノリするんじゃねぇよ……」
「僕やるー」
「……マジか」
「マジ~」
「はぁ……」
 なんか……ごめんね。
「僕はぁ、影島 ソラかげしま そら。ん~と……学校では、問題児?扱いされてて……んとぉ……」
「授業をどう思ってる?先生をどう思ってる?」
 それ、助け舟?でも……まぁ、性格を知るにはうってつけか。
「え、マジうざい。なんで御宅に付き合わなきゃいけないの?わざわざ古い考え押し付けんなって思ってるよ♪」
 ……ほら、人間性がわかったじゃん。ね?ね?私言ったでしょ?
「まぁ、知っての通り、マイペースで、人のこと舐め切ってる。性格上天然なのか、煽りをしてきて、敵が多い」
 さすが幼馴染み。無駄なく語れるねぇ。
「で、ユウは?」
「やんのかぁ……」
 なんか、ごめんね。でも、聞きたい!単なる好奇心。ごめんねー。
「俺は、真水 ゆまみ ゆーーー」
「本名はいーや」
「言わせといてなんなんだよ……」
「ごめんねー。 早く聞き終わりたいから」
「おまえなぁ……、ほんっと理不尽なやつ。 俺は、まぁ一応この中では真面目に授業受けてるかな。一応、ソラとの関係とか、なんか……教わってないことやりすぎて、教師に目ぇつけられてる。 この中で、オカンの愛称をつけられた」
「またオカンなの?」
「あぁ、オカンだ」
「僕がつけたー」
「ならそっかー」
 だって、そもそものオカンって異名をつけたの、あんただもんね。それに変更ないだけか。
「てか、オメーの自己紹介は?」
「あ」
「あ、じゃないよ、クレちゃん~」
 ごめんなさぁい。
「私は、陽崎 紅羽。えーと、この問題児とオカンの幼馴染みで、ツッコミすることが多くあります」
「おまえはボケだろ」
「ツッコミもしてるけどね~」
 ユウはともかく、ソラから突っ込まれるのって珍しいなぁ……シミジミ。
「クーちゃんか、よろしくね!」
「あ、はい。よろしくです」
「……部屋に戻っても?」
「ん、いーよ、マッくん。ありがとね~」
「……」
 なにも言わずに、さっさと瞬先輩は、部屋を出て行ってしまう。
「あ、部屋の場所だけ言っとくね。僕ら高学年と、大人メンツは、三階に住んでるね。ま、学年が上がったとて、この位置関係は変わらないと思うなー。 一番手前がマッくん。その横がボク、その横が空き、センセー、ゆっきーって順だにゃ。で、奥の階段から、屋上にも行けるよ。 大抵センセーがタバコ吸ってるから、タバコが嫌なら先生がどこにいるか確認してから言ってみな♪」
 なんか、ゲームのキャラクターみたいな話し方だよね、今の宵衣先輩。……まぁ多分、わざとだな。
「あ、クーちゃん。一応、挨拶言いに行っときなね」
「誰にですか?」
 ソファに寝そべり、もこもこ感を存分に味わっている宵衣先輩に尋ねる。
「ん、リューくん。ドアを三回コンコンってして、はじめまして、新入生のナニナニですって、挨拶して。起きてたら、コンコンッて返してくれるから。それ以上の接触しようとすると、ネット上で殺されるからやめときなね」
 ネット上で殺される?!なんですかそれ、引きこもりってそんな強いんですか。むっちゃネットに精通してるじゃないですか!
「ほんとですか?」
「うん、ほんと~。三回の時は、返事必須。二回の時は一応話しときます、で。五回とボクが遊ぼーの時は、遊びの誘いって感じで覚えてるから、彼」
 すご……。引きこもるのって、そんなに色々準備いるんだぁ……。
「わかりました。やっときます」
 私はそう言って、二人に断って出ていこうとすると、二人もなぜかついてくることになった。
 宵衣先輩と灰咲先生は、まったく異論を言わない。それどころか、「一応みんなで行っておいで」と何故か送り出されてしまった。
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