死に損ないの春吹荘 

ちあ

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一章 ここが春吹荘

新たな住まい春吹荘

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 前日は雨続きだったが、今日は一転、カラッと晴れた青空が広がっている。
 もう直ぐ咲き誇りそうな桜たちが風になびく、冬の終わりと春の初めの間の時期。
 とある一軒家から、少女が飛び出し、勢い余ってつまずきそうになる。
「いってきますっ」
 元気な声と共に、アタッシュケースの車輪がゴロゴロと大きな音を立てる。
「紅羽ちゃん、いってらっしゃい」
「いつでも帰ってくるんだぞ」
「はぁーい」
 少女は手を大きく振りながら、交差点を右に曲がった。

 今日、私は、義父母である陽崎夫婦の家を出た。理由は、寮付きの進学校に転校できることになったからだ。
 んー、まぁ、二年から入るのはあれなんだけど……寮付きと言う単語に負け、その学校へ通うことにした。
 いつもの通り慣れた住宅街を、いつもより軽いリズムで歩いてゆく。この道とお別れっていうのはなんか寂しいけど、ま、いっか。
 さて、この楽観的代表みたいな感じの私は、陽崎 紅羽ひさき くれは。次の始業式から中学二年生になります。
 前の学校も悪くはないーーーーとはいえないんだけど、転校します。まぁ、いつまで経っても義両親に養ってもらうのはだめだと思うしね!(注意・代金は義両親から払われてます)
 まぁ、一人暮らしっぽいのに慣れておくべく、寮付きの学園に移ります。
 何度この話するんだ、私。しかも内容がとっても薄いって言う……。
ヴゥー
 スマホのバイブ音が聞こえる。
「ん?」
 画面を開くと、ラインのメッセージ……うっ、同じグループラインから、百十三件……。
 なんか、ごめんなさいぃ~!
 足を止め、急いでスマホを開き、ライン画面に移る。百十三件のメッセージがあったライングループ『さくら園』を開くと……案の定、結構お怒りの方がおられます。

♫『ねぇねぇ、まだ来ないよ???』
♦︎『だから、見てねぇの、あいつ』
♫『平気かなぁ??(・・?)』
♦︎『平気だろ あと5分間は来ないに百円かける』
♫『じゃあ僕は、来るに百円かけるね』

 ……私の来る来ないでかけしてんの、この人たち。酷くね?

♦︎『五分経過~』
♫『負けかぁ……』
♦︎『恨むなら、あいつ』
♫『恨まないけどさー』
♦︎『じゃ、百円』
♫『ちぇっ』
♦︎『紅羽、あと五分以内に来なきゃ説教な』
♫『わぁお♪大変だぁ』

 煽らないで、ソラ。天然煽りやめて。てか、まじ、これ、一時間前の会話なんだけど。(あ、死んだわww)
で、しばらく飛ばすとー

♫『僕、そろそろ練習なんだけど』
♦︎『俺、そろそろ課題やりたいんだが』
♫『ユーくん、機嫌悪いね?』
♦︎『そりゃあ。二時間も待ったからな』
♫『全然見ないよー?』
♫『あ、既読ついた!』
♦︎『おせぇぞ』
☆『ごめんなさい』
♫『僕時間だから抜けるねー』
☆『ほんとごめん ドゲサ』
♦︎『ライブ?』
♫『うん、まぁ、ちょいとね。行ってくるー』
☆『ごめんなさい』
♫『百円ね』
☆『?』
♦︎『賭けの代金、お前持ちで』
☆『へ?』
♫『百円払っといてねー』
☆『はぁっ?』

 既読、消えた……。ソラ、抜けちゃった……。ってことは、必然的に私が払うのですね(諦め)。

♦︎『で、いまどこ?』

 お、お説教なしか!?なら、百円くらい安い!いや、安くはないけどね。

☆『ちょーど駅の前』
♦︎『じゃ、各駅停車に乗れ』
☆『はーいヽ(´▽`)/』

 スマホを一回閉じて、私は、定期を取り出して、かざす。そして、駅の中へ。んーと、2番線だっけ。
 二番線のホームへ向かうと、ちょうど各駅停車が来ていた。
「ナイス!」
 駆け込むと、ちょうどドアが閉まる。ギリギリセーフ!

☆『乗れたよ』
♦︎『ナイスタイミング』
☆『d(^_^o)』
♦︎『それじゃあ、そのまま電車に揺られて、七駅な』
☆『ん。りょーかい』

 私は電車のドアの部分によりかかって、スマホを見る。

♦︎『で、なんで全然見ない訳?』
☆『充電しててー、そのままバッグへポイ的な?』
♦︎『(´ー`) お前さぁ……』
☆『ごめんっ!ドゲサ』
♦︎『……まぁいいや。じゃ、ちゃんと降りるんだぞ。俺課題やるから』
☆『地図忘れた』
♦︎『ナビ使え』
☆『わかんない、使い方』
♦︎『……送ってやる』
☆『サンキュー!(*´꒳`*)』

 なんか……ごめんなさい。そう思いながら、私は、電車に揺られていた。

 ーーーー

 こ、ここですか……。
あのラインから三十分後。私は、年季の入った建築物の前に立っていた。まぁ、おしゃれだし、海辺の別荘とかにありそうな見た目なのですが、あのー、本当にここが春吹荘?ってなるんですよね。
 いや、看板のとこに、『若葉学園 春吹荘』と書いてあります。はい、書いてあるんです。
 でも、でもですよ。
 信じられます?いや、あのーかなりの年季入った建物と聞いていたのですが、こんな豪華なおしゃれなので良いのでしょうか?
 迷っていることじつに五分。
ガラガラッ
と、扉が開いた。そこは、横に引く型なのですか!
「あら、どちら様?」
 そこから出てきたのは、色素の薄いふわっとした茶髪をポニーテールにした女の人だった。綺麗だし、しかもおしゃれ。
「えっと~、新入生です?」
「なぜに疑問系?まぁ、あなたのことはちゃんと聞いてるわ。ちょっと待っててね」
 そういって、女の人は、後ろを振り向き、扉の中に向かって叫ぶ。
「すぅ……ゆーーーくーーーん!お客さんよーーー!」
 声が凄い通ってるんですけど!え、なに、声優か何かなの、この人。声すごい綺麗なんだけど!
 それからすぐ、黒髪の青目の少年、私の幼馴染みユウが出てきた。
「連絡しろって言わなかった?」
「……言われました」
「なんでチャイム押さないの?」
「……迷いました」
「なにに?」
「ここが本当にあってるのかなー、って」
「書いてない?読めない?」
 お怒りですね、ユウさん!
「建物新しいんだもん……」
「えー、そう?」
 おぉ、いきなり会話に入ってきましたね、女の人!
「ここねぇ、十年前に改築したのよ」
「そうなんすか、管理人さん」
「え、管理人さんなの?!」
「ん、そうよ。今から買い出し。ユウくん、今日なに作る?」
「俺任せっすか」
「ソラくんの苦手なもの、わかってるでしょ。食べてもらえないの、辛い……」
「ソラの好き嫌いまだ激しいの……?」
「ちょっとやそっとで治れば苦労しねーの。てか、立ち話もなんだろ、入れ」
「おじゃましまーす」
「あと、今日は肉じゃが」
「了解よ」
 そんな会話を交わして、私たちは中へ入った。中も、結構綺麗。全体的に、白とか、バニラ色とかが主な色になってる。
「まず部屋な」
「りょーかいです」
 私は軽く敬礼してから、すぐ前にあった階段を上り、ユウを追って二階へ上がる。廊下は結構広々としてて、大きな窓が右側に。左側が扉。
「ここが、俺らの部屋のあたり。てか、中等部がここ」
「高等部は?」
「ほら、すぐそこに梯子あるだろ?あれで三階に行く」
「なぜ梯子?」
「ん?階段は奥にあるけど、まぁ後で紹介するセンセーが壊しちまったって、管理人さんが言ってた」
 なんという先生だ。え、キン肉マン?え、怖。え、やば。(語彙力!!)
「でー、いちばん手前が俺、その横がお前、その横がソラ、その横が空き、その横も空き、その横も空き、んでいちばん奥が、先輩」
「何年?」
「んーと、三年?てか、俺ら二年で中等部の先輩って三年しかいねーだろ」
 たしかに。当たり前すぎること聞いてたな、私。
 え、てことは私、バカすぎ?!
「まぁ、部屋は荷物テキトーに出しといたから」
「サンキュー! てか、なんで三部屋空いてんの?」
「んー?いや、管理人さんが空けとけって」
 あぁ、あんたもわかってないのね、了解。てか、管理人さんなんか権限強いな!
 私は、202の部屋のドアを開ける。
 中は、主に薄いパステルカラーを中心とした配色になっていて、結構かわいい。
 右奥のところにベッドが置いてあり、奥の真ん中あたりに出窓がある。左奥に勉強机。その手前に、チェスト。扉の横の壁に、クローゼットがあった。
「かわゆい!」
「いうなら、可愛いじゃね?」
「そこはいいの!」
 私は荷物を置いて、ベッドにダイブした!
 ふかふか、もこもこぉー!最高!
「気に入った?」
「うん!」
「食い気味だな……。 ま、いーや。それなら結構」
「え?なんで?」
「それ作ったの、俺とソラな」
「ええぇっ!?」
 今日一の驚きなんだけど!
「んなに驚く?」
「いや、あのお堅いオカンこと、ユウと、あのつかめないトラブルメーカーのソラがこれを作ったかと思うと」
「お前サラッと貶したな?サラッと」
「サァナンノコトデショー」
「カタコトになっとるわ」
 バレたか。いや、そもそもバレるか。
「ほら!紹介して、メンツ!」
「お前、説教嫌だからって変わりすぎだろ」
 嫌なものは嫌なのです!!!
 私の勢いに押されたのか、ユウは下に降りていった。私もついていく。
 階段の下には、左右に扉があり、ユウは右手、まぁ、玄関から見て左手にある扉を開けた。
「よーす」
「んぉ?ユーキんじゃないかぁ!」
 いちばん初めに聞こえたのは、少し高い女の人の声。声の元を見ると、白いというか、銀髪?のふわふわな長髪を垂らしたパーカーの女の人が床にゴロンと寝そべっていた。女の子にしては、少し高身長かもしれないな、この人。
「ん、その子は誰だい?」
 女の人は、私を見ると、首を傾げた。彼女の瞳は、琥珀色。猫のような、目をしていると思った。
「私は、陽崎紅羽です」
「んー、新入生?」
「俺の幼馴染み」
「年下?」
「いーや、同い年」
「二年の、転校生かい?!珍しいねー」
 その先輩?は、私に勢いよく近づいてくると、私のことを観察しているようだった。
 なにがしたいんだ、この人は。
「あ、変人だから、安心して」
「安心できないわ!」
「ツッコミ要員?」
 そう来たかー、ツッコミ要員と聞かれますかー。
「ツッコミ要員になってます、一応。ボケの方が多いかもです」
「りょーかい。ボケるね、ボク」
いや、ボケないでいいよ?!
「先輩、先生知らない?」
「んー、センセーかい?往生だよ」
「え?死んだんですか?」
「つまんねぇから、それ」
「単なる言い間違えなのだが……。屋上にいると思うにゃ♪ みーんな、呼ぶ?」
「呼んできてくれる?」
「お願いします」
「ん、わかったー。そこらへんでゆっくりしててねー」
 そういうと飛ぶように、先輩はどこかにいってしまった。
「あ、名前聞いてない」
「後で自己紹介すっか」
「だね」
 そんなことを言って、私はすぐそばのソファーに座って、待つことにした。
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