メゾン・ド・エシクス

世万江生紬

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ヴィトゲンシュタインとヴォルテール

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 私たちが次に調査に向かったのはヴィトゲンシュタインという人の元でした。部屋の扉の前に立つと、プラトンがコンコンコンッとノックします。しばらく待っていると綺麗な黒髪のメガネクールイケメンが出てきました。ちょっと怖い印象もありますがとにかく知的なイケメンさんですね。

「何だ。」

「この2人は探偵事務所の人。回覧板読んだ?メゾンの人たちを調査してるんだよ。」

「初めまして、私は双葉と言います。こっちは空です。空って呼んであげてください。」

「空、か。で、何の用だ。」

ヴィトゲンシュタインはくーちゃんの方をちらっと見ると、すぐにふいっと私の方に顔を戻して話を続けます。呼び方なんてどうだっていいって感じですね。まあ確かに呼び方なんてどうでもいいです。

「私たちソートスキルの調査をさせてもらってます。あと最近何か事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりしてないか...。」

「俺はソートスキルは無い。だから語れることもない。」

「え。」

私は驚いてプラトンの方を見ます。するとプラトンは私の耳に口を寄せて「本当だよ。ヴィトゲンシュタインは無能力者なんだ。」と教えてくれます。と言うかずっと思ってたのですが、調査っていちいち本人に話を聞いていますがソートスキルがどんなものなのかは知っているならプラトンが全員分説明してくれればいいのではないでしょうか。ダメですか、調査は自分の足を運んでこそですか、そうですか。

「語れることだけ語る。語れないものは沈黙する。」

「あ、えっとそうですか...。じゃあ何か事件に関連してないかは」

「俺は言語学専攻の教育者だ。基本部屋から出ずオンラインの授業や会議に出席している。事件に関わっている暇はない。」

「でもお前超強いじゃん。腕っぷしの強い奴は疑われる。」

口をはさんだのはくーちゃんです。くーちゃん、ヴィトゲンシュタインのことあんまり好きじゃないんでしょうか。言葉の節々に棘があるような気がします。自分の同じようなクールキャラだからでしょうか、同族嫌悪ですかね。

「...腕に自信のあるやつが自らケンカを売りに行くと?二次元でもあるまいし、俺は非現実は信じない。もういいだろう。それじゃあな。」

「あ、ありがとうございました。」

ヴィトゲンシュタインは私たちの質問に答えるだけ答えるとすぐに部屋に戻ってしまいました。キャラがキャラだけに冷たい態度も格好良いという感想しか出てきません。

「さ、じゃあ次はヴォルテールかな。ヴォルテールはなんと言うか、ちょっと天然さんだ。寛容すぎるくらい寛容な人だけど、偏見が嫌いだからあんまり偏見的なことは言わないようにね。」

「偏見...?と言うと具体的に何がNGなんですか?」

「男は強くなくちゃいけない、とかじゃね?」

「くーちゃんは強くないですけど、男ですか?...っていたたたた!ごめんなさいくーちゃんはいつまでも性別不詳です!」

ちょっとからかうつもりで言っただけなのに、くーちゃんは無表情のままにフロントネックロック決めてきました。慌てて謝ったのですが、何故か余計に強く締められました。私はもう少しで川の向こう側が見えそうというところでようやく解放してもらえました。くーちゃんに性別の話はNGですね。

「2人は仲良いねー。でももういいかい?ここがヴォルテールの部屋だから。」

「あ、はい大丈夫です...。」

私がそう言うとプラトンは扉をコンコンコンっとノックします。しばらく待っても出て来ないのでもう一度コンコンコンッとノックするとのそっと出てきたのは高身長に筋肉質、ボーっとした表情だけど端正な顔立ちのマッチョイケメンです。

「何だ?誰だ?」

「ヴォルテール、この2人は探偵事務所の人だよ。回覧板読んだ?」

「あー...悪ぃ、読んでない。何?なんで探偵?」

「あ、私から説明を。えっと私は双葉と言います。こっちは空です。思うところはあっても空って呼んであげてください。私たちはソートスキルと、最近事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりしていないかを調査してます。とりあえずソートスキルは教えてもらえませんか?」

ヴォルテールはくーちゃんをちらっと見て「エピ...」まで口にしましたが、くーちゃんがギロッと睨んだので口を瞑んいました。もうこれは今日中にくーちゃんのことは「エピクロス」ではなく「空」だと回覧板で回してもらわなくちゃダメですね。調査対象者を睨むだなんて、探偵業としてはNGが過ぎます。

「えーっとソートスキル?いいぜ。何か紙あるか?」

「はいどーぞ。」

プラトンが持っていた手帳のページを一枚破り、ペンと一緒に渡します。

「ん。えーじゃあアンタの個人情報ちょっと探るな。『双葉の情報』っと。異能力ソートスキル『哲学書簡』」

「え、ちょっと待ってください。」

私の困惑の制止も空しく、ヴォルテールは紙にさらさらっと『双葉の情報』と言う文字を書きました。私はここまでの調査でソートスキルを見せてもらう時に巻き込まれるとろくなことにならないのは学んでいます。嫌な予感しかしません。

「んー、お、なになに、双葉は誕生日3月20日の19歳。血液型はO型でお姉さんが1人。身長155㎝で体重が...」

「わー!!!」

やっぱりろくなことがありません!これでも乙女なので複数人の前で体重を暴露されるのは恥ずかしすぎます。一対一なら考えますが、こんな感じでバレるのは断固として拒否します。

「続けて。」

「続けなくていいです!くーちゃん面白がっているでしょう!ヴォルテールのソートスキルは名前を書いた相手の個人情報を得るものですか!?」

くーちゃんはニヤニヤ笑っています。さっきの仕返しでしょうか。もう2度とくーちゃんを性別のことでからかったりしません。

「いや、俺のソートスキルは紙に文字を書くことで千里眼の力が使えるんだよ。」

「千里眼...?ってことは、別に私の個人情報を探る必要なくないですか?」

「まあそうだな。分かりやすい方がいいかと思って。未来も見えるけど、ここで未来予言したってホントか分かんねぇから。」

「それなら...確かに...?」

「いや、別に個人情報じゃなくてもここに調査に来た経緯とかでもいいし。」

「確かに!?」

くーちゃんの言う通りです。千里眼ってころは見えるものは多岐にわたるはず。未来予知はここで証明出来ないにしても、別に見えて証明も簡単にできるものはたくさんあります。

「確かにそうだな、気づかなかったぜ。」

「嘘でしょう!?」

「いやマジ。俺ガタイはいいけど頭は弱いんだよな。」

「筋肉馬鹿は頭良くない。」

「...オイ、それは偏見だろ。やめろよ。」

くーちゃんの一言にヴォルテールは本気で機嫌を悪くしたようでした。一瞬で雰囲気が変わります。なるほど、これがプラトンの言ってた偏見が嫌いってことですか。いや、それは理解出来たんですけど、とても面倒くさいことになってきてるような気がします。

「ごめん。じゃあ事件に首突っ込んでるかどうか教えろ。」

「おう、素直に謝ってくれて嬉しいぜ。事件かどうかは知らねぇが親父狩りに出くわしたから悪ぃ奴ボコったぞ。4、5人はいたな。」

「数週間前にあった20代のイキったガキがボコられてた事件か。OKもういい。」

「もういいのか?また何かあったら聞いてくれ。」

「あ、ありがとうございました。」

「ん。あ、個人情報探って悪かったな。」

ヴォルテールはそれだけ言うと手をひらひらッとふりつつ部屋に戻っていきました。謝ったら許してくれるんですね。最後に私にも謝ってくれましたし、何だかとても素直な人でした。マフィアか?ってくらいの筋肉でしたが。

「さ、じゃあ次行く?」

「次はどなたですか?」

「次は...あ、このメゾンの上層部の1人だね。エリクソンだ。」

「上層部の1人!?緊張するのですが...。」

「双、プラトンも上層部の1人。」

「えっ、あ、じゃあ大丈夫ですね。」

「『プラトンに失礼だった、すみません』じゃないんだ...。」

「?何か言いましたか、くーちゃん。」

「何でも。」

次の調査はどうやらお偉いさんのようです。少し緊張しますが頑張らないとですね。
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