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リスタートはいつだって

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 数分後、私は謎の答えである昇降口...ではなく、応接室の前にいた。そしてニヤッと笑い、わざと大げさにドアを開け宣言する。

「助けに来たよ、羽矢くん!」



ドアのバンッと開く音で僕は思わず体を震わせる。そして次に響いた声に思わず頬が緩む。僕のいる応接室の入り口にいたのは紛れもなく先輩で、ドヤ顔でそこに立っていた。そして先輩は僕の方にツカツカと寄ってきたかと思うと、机の上と僕の手の中にあった写真を奪い取った。

「没収、ね!」

「あぁ!一枚くらいもらえたりしませんか?」

「しないよ!コレ取り上げるために謎解きラリーしてきたんやから!」

先輩はそう言ってちょっと困ったような照れたような顔で笑った。先輩にそんな顔をさせてしまった、困らせてしまったのは少し申し訳ないけど、どんなか表情の先輩もやっぱりかわいい。幼い頃の写真をずっと眺めていたからか、改めてそう思ってしまった。

「さて、蛍ちゃん。チェックメイトだよ!写真は無事に取り上げ、羽矢くんも無事に救出した!私の勝ちやね!」

「あらら~?次は昇降口のはずでしょ?何で最終ゴール地点のここに来てるのかしら♪」

先輩に指を指されても全く動じないこの人は、水谷蛍さん。先輩の幼馴染のお姉さんなんだそう。今日いつものように先輩の元へ行こうとした僕に、幼少期の先輩を見せてあげるから着いてきてなんて甘い誘惑をしてきた張本人。狡猾で茶目っ気のある人だと思うけど、こうやって先輩と対峙しているところを見るとちょっとだけ怖いという感情が浮かんでくる。

「ふふん。じゃあ答え合わせと行こう。羽矢くんは私が解いてきたラリーの謎は知ってるの?」

「謎解きラリーをやらされている、というのは知っていますけど、どんな謎なのかは知りませんね。」

「じゃあ丁寧めに解説しようかな。まず最初に送られてきた謎はこんなイラストだよ。」



そう言うと先輩は僕に1枚の画像を見せた。メールで送られてきた画像をそのまま表示してある。これは...学校のイラストかな、窓になんか数字が書かれてるけど、僕にはさっぱりだ。

「この謎の個人的ヒントは問題文。一見ただの問題文やけど、これはまるまる謎解きに必要なヒントになってる。窓に書かれてる数字がこの問題文の文字数と対比してるんだよ。1番左のはちょっと置いといて「2」「8」「6」はそれぞれ文字数と合わせると「が」「く」「室」。この時点でまあ音楽室かなーとは思ったけど、一応一番左のも見て見るとこれだけなんか違うよね。「E」って数字じゃないし。問題文の文字数に当てはめるタイプの謎なら英語が入ってくるわけない。となると、これは多分数字の一部。」

「数字の一部?どういう意味ですか?」

「簡単だよ。これは18の一番右部分だけ欠けてるものなんよ。デジタル数字で考えたら分かりやすいかな。一番右の縦棒が消えてる感じ。18番目の文字は「♪」だけど、これを「おんぷ」と呼んで一番右、つまり最後の文字を消して読むと「おん」。ぜーんぶつなげて音楽室が答えってこと。合ってるよね、蛍ちゃん。」

先輩が蛍さんに聞くと、蛍さんはニヤッと笑って先輩を見る。

「せいか~い♪」

「でもこれ結構無理やりだと思うよ?せめて「1E」じゃなくて手書きにするか、全部の数字をデジタル数字で書いとくべきだった。」

「気持ちよく解いておいて文句は言うのね...。まあいいわ、じゃあ次の謎も解説してあげて。」

「蛍ちゃんに言われなくてもするよ。次の謎はこれやね。」



先輩はそう言うと僕にスマホの画面を見せる。さっきとは違ってイラストと言うよりは図みたいだ。まだイラストの方がとっかかりが掴めたかもしれないけど、僕はもうお手上げだ。

「これは個人的ヒントはやっぱりここに書かれてるヒント的な言葉。スマホで送られてきてるものを表示してみてるんだから、当然スマホを見てるはず。なのにわざわざスマホ見てもいいよなんて書き方するんだから意味はあるんだよね。」

「検索してもいいよ...みたいな意味ではないんですか?」

「それも考えられるね。でも今回は違うよ、これはスマホのキーボード画面を表してるんだ。縦4横3の12の丸がそれぞれのキーボードで、矢印はフリック入力のこと。これを数字の順番通りに押していけば「あ」のボタンを上にフリックで「う」。「さ」のボタンを一回押すので「さ」。「か」のボタンを左フリックで「き」。左下濁点のボタン一回で「き」が「ぎ」になる。「か」のボタンしたフリックで「こ」。左下濁点のボタン一回で「こ」が「ご」になる。繋げて読んでウサギ小屋やね。」

「すごーい、正解♪」

蛍さんが拍手をしながら言う。自分で作った謎があっさり解かれてるのにすごく楽しそうに笑ってる。

「サクサク行くね。羽矢くん、次の謎はこれ。」



先輩が僕に見せた画像は文字がひたすらいっぱい並んでるもの。何だかゲシュタルト崩壊起こしそうだ。これも僕はさっぱりわからない。下の方に書かれてる「今日中に解くのは無理かもね。明日になれば分かる?」の文字が煽られてるみたいで癪に触る。

「これはすごくシンプル。個人的ヒントはになれば分かるんだよ。」

「明日になれば...?じゃあやっぱり今日中には解けないってことですか?」

「ううん。違うよ、「あ」の下に答えがあるんよ。だからこのいっぱいある文字の中から「あ」の文字を見つけ出して、その下にある文字を抜き出すと「せ」「い」「し」「う」「ど」「と」「し」「つ」で、これを並べ替えて生徒指導室が答えやね。」

「うんうん正解。じゃあ次がいよいよ最後ね。答えが昇降口になる謎だったのに、どうして応接室に来たのかな?」

蛍さんはコツコツと吐いているヒールの音を鳴らしながら先輩に近づく。ただ対峙してるだけなのにすごく緊張感がある。

「次の謎はこれだよ、羽矢くん。」



先輩が見せてくれた画像は扉のイラストと鉛筆のイラスト。さっきまでの図みたいな謎よりは解けそうだけど、やっぱり僕には意味が分からない。

「これね、個人的ヒントはそれぞれイラストが表すものの数え方。」

「数え方...?えーっと、この扉は「まい」で鉛筆は「ほん」かな。」

「惜しいね。この扉は二枚扉やから「つい」って数えるし、鉛筆の方は3本なのがミソ。3本ならほんじゃなくてぼんって数えるんよ。だからこの○と□に当てはまるのは「つぼ」。」

「なるほど...小等部で壺が飾ってあるのは昇降口だけだから、答えは昇降口が答え...。」

「正直これも結構無理ある気がする。確かに二枚扉だから対って数えるのはそうなんだけど、謎解きにするにはちょっと無理やりかなー。もうちょっと解けた時にスカッとしたい。」

「悪かったわねー。謎解き作るのなんて初めてなんだから、その辺は大目に見なさいよ。さ、じゃあ何で応接室に来たのか説明しなさい。」

蛍さんはちょっと拗ねながら言う。初めてだからって言ってたけど、初めてでこんなに凝った謎が作れるのは結構すごいと思う。先輩にかかれば一瞬だったみたいだけど。それにしても僕もそろそろこの応接室にどうやってたどり着いたのか気になる。今まで応接室なんて単語出て来なかったし、何より最後の謎の答えは昇降口だ。先輩はどうして応接室に来たんだ?

「それは...個人的ヒントは蛍ちゃんの性格。蛍ちゃんの性格上愉快犯的な感じもあるだろうけど、何回も謎を解かせることに何か意味があるかなーって思ったんよ。だから今までの問題をもう一度振り返って気づいた。答えの場所の頭文字。」

「頭文字?えっと、まず「音楽室」で次が「ウサギ小屋」。次が「生徒指導室」で最後が「昇降口」...?」

「今回の場合は謎の答えだった「壺」の方かな。これを順に読むと「おうせつ」。ここまでくれば後は何となく想像できるね。謎は全部で6つあって、残り2問の答えは「し」と「つ」から始まるもの。6問目が解けたタイミングで「謎解きラリーはここまで、お疲れ様~」とか言われるんやろうなーって。だから私はここまで気づいた時点で最終地点である応接室へ向かうことにしたんよ。さ、答え合わせはおしまい!蛍ちゃん、今回のゲームは私の勝ちやね!」

先輩は笑顔で蛍さんを指差しながら言う。さながら犯人を追い詰める探偵だ。全ての謎の答えを言い当てられた蛍さんは成す術なく脱力して...と言うこともなく、面白おかしく笑いながら言った。

「はぁ~あ。ぜーんぶ見事に解かれちゃった♪うん、今回は私の負けね。残念。でもまた今度リベンジするから楽しみにしててね夕陽ちゃん。」

「結構楽しかったしそれはいいんだけど、今回みたいに羽矢くん拉致ったり昔の写真持ってきたりするのはやめてね。普通にゲームで遊ぼうよ。」

「ふふ、それはどうかしら。やっぱり探偵たるもの、ある程度のリスクは欲しいでしょ?」

「私は欲してないよ。平和が一番なんやから。」

「あっそ。じゃあね後輩君。また夕陽ちゃんのお話しましょ。」

「え、あ、はい。また...。」

「じゃあね~。」

蛍さんはそう言って応接室から出て行った。残された僕は先輩の方をチラリと見る。少し頬を膨らませながらも遊園地を楽しんで来た子どものような顔をした先輩は、幼馴染のお姉さんと楽しくゲームが出来て喜んでいるように見えた。この後蛍さんの誘いにほいほい付いて行ったことや写真を食い入るように見ていたことにちょっと怒られたけど、僕は今日の出来事を結構楽しかったと思っている。
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