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行き先を告げるエレベーター
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今日のシャーロックパーティーの待ち合わせはエレベーターホール前のソファ。僕が待ち合わせ場所に着くと先輩は僕を見つけてパッと笑顔になる。僕はその笑顔を見るだけで幸せな気分になる。
「羽矢くんヤッホー。」
「こんにちは先輩。今日の予定は?」
「んー、今日は小等部の図書室とかその辺に行ってみようかなーって思ってるよ。こういう時何か噂とかあれば目的地もすぐに決まるのになー。」
「七不思議とかそういうやつですか?」
「そうそう!誰もいないはずの音楽室からピアノの音が…!みたいな噂でもあれば調査に乗り出すもんやけど、何にもないからテキトーに目的地決めてブラブラするしかないんよね。」
「まあまあ。平和でいいじゃないですか。」
「それもそうなんやけどねー。」
今日もいつもと変わらない、なんてことない話をしていると、エレベーターからチンッという音がした。この階に到着したという音だから何の疑問もないけれど、この時ばかりは違った。エレベーターの扉が開きかけると、まだ完全に開いてもいないのに中に乗っていた女性が慌てて飛び出した。とにかく慌てて走って行くものだから僕は思わず見入ってしまった。
「羽矢くん!乗るよ!」
僕はその女性を見送っていたものだから、先輩がいつの間にか先程のエレベーターに足を向けていることに、先輩の声を聞いてから気づいた。慌てて僕も先輩と一緒にエレベーターに乗り込んだけど、小等部に行くのにこのエレベーターに乗る必要はない。先輩は何を考えているのだろう。
「あの、先輩?」
「あぁ、ごめんね羽矢くん。さっきの女の人が気になってつい乗っちゃった。さっきの人、何であんなに慌ててたんだと思う?」
「え?急いでいたから…ですかね?」
先輩はエレベーターには乗ったものの行先のボタンを押すことなく僕に質問する。僕は先程の女性になんの疑問も持たなかったけど、先輩はなにか引っかかることがあったんだろうか。
「さっきのエレベーター、下から登って来たんだよ。で、ここは2階。急いでいるなら階段使った方が早い高さだよ。それにさっきの女の人、エレベーター降りた後階段を登って行ったから、目的地はやっぱりこの階じゃなくてもっと上かな。」
「え?じゃあさっきの人は1階でエレベーターに乗って3階以上の階に行くつもりだったのに慌てて2階で降りて、階段で目的階に行った…ってことですか?」
「そうなるね。ちなみに今私はどの階のボタンも押さなかったわけだけど、4階に到着した。多分さっきの人の目的階は4階だったのかな?学生がよく使う講義室がある階やし。」
「それなら、やっぱり2階で降りた理由もあんなに慌ててた理由も分からないですね。」
僕と先輩は女性の行動の意図を推理する。その間もエレベーターは上の階に向けて動き続けている。ボタンの点灯を見るに8階に向かっているらしい。
「考えられる予想といえば、急に階段で登りたくなったとかかな。」
「そんなことあります?」
「ん~、階段踊り場で想い人が待ってる、なんて可能性は0じゃないっしょ。」
「0では無いと思いますけど…それが先輩の推理ですか?」
「まさか。このエレベーターに乗った時になんとなくこうかなって検討はついてるよ。」
「そうなんですか!?」
じゃあなんで1回検討ハズレな予想を語ったんだ、なんて野暮なことは言わない。先輩のちょっとしたジョークだろう。お茶目で可愛いじゃないか。
「じゃあ先輩の推理を聞かせてください。」
「任せろ~!まず個人的ヒントはボタンの点灯、かな。」
「ボタンの点灯?えーっと、女性が降りて僕達がすぐ乗った時に付いてたボタンは4階と8階。多分乗ってた女性が押したのが4階?だから…あれ?8階は誰が押したんだろ。」
「そうそう、そこがミソ。まず2階にいた私たちはエレベーターが登ってくるのを見たわけだから女性は間違いなく1階から乗ってる。女性が降りた時他に誰も乗ってなかったから多分1人で。んで女性は多分講義室がある4階に行くつもりで4階のボタンを押した。そして2階に来た時点でとあることに気づいた。」
「とあることって?」
「8階のボタンが光った事だよ。」
それの何がおかしいんだろう?エレベーターなんだから行先のボタンが光るのは不思議じゃない。8階にいる誰かがエレベーターに乗ろうと思ってボタンを押しただけじゃないのか。
「それの何が問題なんですか?」
「気が付かない?光ったのは階のボタンなんだよ。」
「…?すみません、ギブアップです。」
「じゃあハッキリ言うけど、ボタンはエレベーター内で押さなきゃ光らないんだよ。」
「…あっ!」
そうか、仮に8階で待ってる人がいるんだとしても、エレベーター内の行先階のボタンが光るのはおかしい。あれはエレベーター内の人が手動で押して初めて光るんだ。
「ということは、8階のボタンはエレベーターの中で誰かが押したってことですね。」
「いえす!で、そのボタンを押したのは誰?って話になるけど、あのエレベーター内にはさっきの女性しかいなかった。そしてあの女性の焦り様。」
「え、待ってください。まさかこの事件のオチって…。」
「心霊現象オチだね。自分以外誰もいないはずのエレベーター内に目に見えない誰かがいるって気づけばかなり恐怖だと思う。だから慌てて飛び出したんやろうね。」
「…先輩、8階に到着したんですけど。」
チンッと音を立て、僕たちの乗っているエレベーターは8階に止まった。目に見えない誰かが、共に乗る人間を導いた先の8階に。この後の展開はご想像にお任せするけど、僕は先輩と一緒ならどんなことが待っていても大丈夫だと改めて思った。
「羽矢くんヤッホー。」
「こんにちは先輩。今日の予定は?」
「んー、今日は小等部の図書室とかその辺に行ってみようかなーって思ってるよ。こういう時何か噂とかあれば目的地もすぐに決まるのになー。」
「七不思議とかそういうやつですか?」
「そうそう!誰もいないはずの音楽室からピアノの音が…!みたいな噂でもあれば調査に乗り出すもんやけど、何にもないからテキトーに目的地決めてブラブラするしかないんよね。」
「まあまあ。平和でいいじゃないですか。」
「それもそうなんやけどねー。」
今日もいつもと変わらない、なんてことない話をしていると、エレベーターからチンッという音がした。この階に到着したという音だから何の疑問もないけれど、この時ばかりは違った。エレベーターの扉が開きかけると、まだ完全に開いてもいないのに中に乗っていた女性が慌てて飛び出した。とにかく慌てて走って行くものだから僕は思わず見入ってしまった。
「羽矢くん!乗るよ!」
僕はその女性を見送っていたものだから、先輩がいつの間にか先程のエレベーターに足を向けていることに、先輩の声を聞いてから気づいた。慌てて僕も先輩と一緒にエレベーターに乗り込んだけど、小等部に行くのにこのエレベーターに乗る必要はない。先輩は何を考えているのだろう。
「あの、先輩?」
「あぁ、ごめんね羽矢くん。さっきの女の人が気になってつい乗っちゃった。さっきの人、何であんなに慌ててたんだと思う?」
「え?急いでいたから…ですかね?」
先輩はエレベーターには乗ったものの行先のボタンを押すことなく僕に質問する。僕は先程の女性になんの疑問も持たなかったけど、先輩はなにか引っかかることがあったんだろうか。
「さっきのエレベーター、下から登って来たんだよ。で、ここは2階。急いでいるなら階段使った方が早い高さだよ。それにさっきの女の人、エレベーター降りた後階段を登って行ったから、目的地はやっぱりこの階じゃなくてもっと上かな。」
「え?じゃあさっきの人は1階でエレベーターに乗って3階以上の階に行くつもりだったのに慌てて2階で降りて、階段で目的階に行った…ってことですか?」
「そうなるね。ちなみに今私はどの階のボタンも押さなかったわけだけど、4階に到着した。多分さっきの人の目的階は4階だったのかな?学生がよく使う講義室がある階やし。」
「それなら、やっぱり2階で降りた理由もあんなに慌ててた理由も分からないですね。」
僕と先輩は女性の行動の意図を推理する。その間もエレベーターは上の階に向けて動き続けている。ボタンの点灯を見るに8階に向かっているらしい。
「考えられる予想といえば、急に階段で登りたくなったとかかな。」
「そんなことあります?」
「ん~、階段踊り場で想い人が待ってる、なんて可能性は0じゃないっしょ。」
「0では無いと思いますけど…それが先輩の推理ですか?」
「まさか。このエレベーターに乗った時になんとなくこうかなって検討はついてるよ。」
「そうなんですか!?」
じゃあなんで1回検討ハズレな予想を語ったんだ、なんて野暮なことは言わない。先輩のちょっとしたジョークだろう。お茶目で可愛いじゃないか。
「じゃあ先輩の推理を聞かせてください。」
「任せろ~!まず個人的ヒントはボタンの点灯、かな。」
「ボタンの点灯?えーっと、女性が降りて僕達がすぐ乗った時に付いてたボタンは4階と8階。多分乗ってた女性が押したのが4階?だから…あれ?8階は誰が押したんだろ。」
「そうそう、そこがミソ。まず2階にいた私たちはエレベーターが登ってくるのを見たわけだから女性は間違いなく1階から乗ってる。女性が降りた時他に誰も乗ってなかったから多分1人で。んで女性は多分講義室がある4階に行くつもりで4階のボタンを押した。そして2階に来た時点でとあることに気づいた。」
「とあることって?」
「8階のボタンが光った事だよ。」
それの何がおかしいんだろう?エレベーターなんだから行先のボタンが光るのは不思議じゃない。8階にいる誰かがエレベーターに乗ろうと思ってボタンを押しただけじゃないのか。
「それの何が問題なんですか?」
「気が付かない?光ったのは階のボタンなんだよ。」
「…?すみません、ギブアップです。」
「じゃあハッキリ言うけど、ボタンはエレベーター内で押さなきゃ光らないんだよ。」
「…あっ!」
そうか、仮に8階で待ってる人がいるんだとしても、エレベーター内の行先階のボタンが光るのはおかしい。あれはエレベーター内の人が手動で押して初めて光るんだ。
「ということは、8階のボタンはエレベーターの中で誰かが押したってことですね。」
「いえす!で、そのボタンを押したのは誰?って話になるけど、あのエレベーター内にはさっきの女性しかいなかった。そしてあの女性の焦り様。」
「え、待ってください。まさかこの事件のオチって…。」
「心霊現象オチだね。自分以外誰もいないはずのエレベーター内に目に見えない誰かがいるって気づけばかなり恐怖だと思う。だから慌てて飛び出したんやろうね。」
「…先輩、8階に到着したんですけど。」
チンッと音を立て、僕たちの乗っているエレベーターは8階に止まった。目に見えない誰かが、共に乗る人間を導いた先の8階に。この後の展開はご想像にお任せするけど、僕は先輩と一緒ならどんなことが待っていても大丈夫だと改めて思った。
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