シャーロックパーティーによろしく

世万江生紬

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名探偵の姪

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 ここはこの国唯一の幼少中高大一貫の私立学校、『暁学園』。幼稚園児から大学生までが一つの敷地内に通う。それぞれのキャンパスは決められており、南西が幼稚園、そこから時計回りに北西が小学校、北東が中学校、南東が高等学校になっており、この四つのキャンパスが囲む中央に大学のキャンパスがある。それぞれのキャンパスに入り口はあるものの、南に大きな正門があるためほとんどの生徒はそこから入り、大学のキャンパスを通って自分の通うキャンパスへ向かう。キャンパスは決められているとは言っても、基本どの校舎にも入ることは自由で、大学校舎に幼稚園児がいることもよくある。

 そんな暁学園大学校舎の開放感のある共有スペースに集まる男女が2人。1人は僕、弓月羽矢。ごく普通の高校2年。他に紹介するような事項なし。そしてもう1人が紹介すべき事項の盛り合わせ、要夕陽先輩。まず先輩は要翼という世界的にも超有名な名探偵の姪。要翼の弟の娘。ちなみにこの暁学園には要翼の実の娘であり、先輩の従弟にあたる人が在籍している。その人は名探偵の娘ではあるけど探偵業には興味がないらしく、学園の相談所的なサークルのサークル長をやっているんだとか。でも先輩は実の娘とは逆に探偵に強いあこがれを持っているらしく、この平和な日常の中で常日頃から謎や事件を追い求めている。そして作ったのが『シャーロックパーティー』。後ろ盾も何もないサークルなので学園非公認だけど、先輩はこのサークル名を語りながら日々学園内を観察もとい散歩している。当然部室のような部屋もないので、毎日いろんな場所に集まっている。今日は共有スペースだけど、音楽室だったり、屋上だったり先輩からの指示通りの場所に集まっている。

「羽矢くん羽矢くん、今日はどの辺に行こうか?昨日は中等部に行ったから、今日は高等部にしよっか?今日こそ何か謎が舞い込まんかな~。」

このほんわか関西弁で喋るのが要夕陽先輩。今日も今日とて謎を所望しているみたい。先輩は謎を求めて放課後の時間や授業の合間の時間にこの学園の色んなところを歩き回っていて、僕も時間があるときはご一緒してる。色んな所に顔を出すものだから顔見知りは多いし、色んな頼まれごとをする。先輩からしたら、色んな場所に行って色んなことをすることで謎にたどり着くかもしれないから全然苦じゃないらしいけど、もうシャーロックパーティーは実質何でも屋みたいになってる。このままボランティアを続けていればボランティア部として正式なサークルになれる可能性もあるらしいから結果オーライなのかな。

「謎に出会えるといいですね。」

「そうやね~!じゃあ行こっか!」

こうして先輩と僕は高等部に向かった。


 高等部の校舎に来たからと言ってそんなに都合よく謎に出会える訳もなく、僕と先輩はしばらく校舎内を散歩する。まあいつもこんな感じで校舎内を散歩しているだけなのでいつも通りなんだけど。でも僕は、こうやって先輩と2人でゆっくり散歩する時間が結構、いやかなり好きだ。

「ん~、今日も平和な日常やね。」

「何よりですね。」

「刺激的な謎ももちろん好きやけど、こういう平和も私は好きなんよ~。」

「そうなんですね。もっと事件が起きろー!とか思ってるのかと思いました。」

「そんなことは無いよ~、平和が一番。謎もね、正確に言うなら事件が起こってもそれを私が解決して平和が戻るのが好きなんよ。もっと言うなら真相を導くよりも平和を取り戻したいんよ。」

「...?ちょっと良く分かんないですけど、平和主義なんですね。」

「んふふ~!そうそう~。」

今日もこんな感じで先輩と何気ない会話をしながら校舎内を歩いていく。先輩はどこ出身なのか聞いても答えてくれないけど、ほんわかとした関西弁を喋ってる。勝手に四国あたりかな、なんて思ってるけど、この喋り方が絶妙に癒されて心地いい。声も高めで可憐だから聞いていて癒される。

「むっ!?羽矢くん、事件の匂いがするよ!」

先輩はそう言うと急に足を止めて、とある教室の中を覗いた。その教室は高等部2年で僕の隣のクラスだった。事件と言うからには何か起こったのかな?と中を覗くと、そこは普通の教室。今は放課後だから一つの机に数人で集まって駄弁っていたり、男子生徒数人が教室内を走り回ったり、勉強したりお菓子食べてる人もいる。ありふれた光景だ。そんな中、入り口のドアに近い席で1人の男子生徒が困惑したような憤ったような様子で机の周りをぐるぐると歩いていた。その顔に見覚えがあったので、僕は思わず声をかけた。

「え、橙くん?」

「羽矢?」

僕の声に、その男子生徒は僕の方を振り返った。先輩が「知り合い?」と言うので紹介ついでに話を聞こうと僕たちは教室に入った。

「先輩、この人は僕の友達、松園橙くんです。僕はクラスが隣なので別クラスですけど去年は同じクラスで...。」

「よろしくです。先輩なんですよね?」

「要夕陽だよ~よろしくね。」

「要...?あ、もしかして要翼の娘っていう!?」

「それは従弟の天馬ちゃん。私は姪なんよ。なんかこう、娘よりは希薄だけど親戚と言うには近いこの絶妙な血縁もどかしい~。いつもヤキモキするんよね。」

「そっか...。名探偵の娘なら解決してくれるかと思ったんだけどなー...。」

「むむっ!それはどういうこと!?話を聞かせてくれんかな!?」

橙くんの意味深な言葉に先輩が食いついた。元々謎を探して歩いてたから願ったりかなったりなんだろうけど、まさか本当に謎に出会うとは思わなかった。先輩のキラキラした目にちょっとたじろいたみたいだったけど、橙くんは口を開いて何があったか話し始めた。

「えっと...購買行こうと思って500円玉を机の上に置いてたんだけど、ちょっと目を離したすきに無くなってたんすよ。」

「消えた500円玉事件だね!もっと詳しく聞かせて!」

「いや詳しくって言うか...。えーっと、お金を置いたのは机の角のとこで、だから普通に落っこちたんだと思ったんだけど。隣の席で女子が数人駄弁ってたし、机に脚が当たるとかありそうだし。でもどこにも落ちてなくて。じゃあまさか誰か盗ったんじゃとも思ったり...でも誰がって話だし。」

「ふむふむ、謎めいてるね~!」

「何か嬉しそうっすね。」

「私は名探偵の姪なだけあって探偵に憧れがあるからね!事件を解決したい欲があるんよ~!」

「へぇ、じゃあもう1つ謎な点伝えておきましょうかね。この事件、起こったのはわずか10秒にも満たないっすよ。机の上にお金おいて、ちょっと話しかけられたから後ろ向いて答えて、すぐ机の方に向いたら無くなってたんで。」

「なんですと!?」

先輩がどんどん鼻息荒くなってる。でも確かに、今回の事件は謎めいてると思う。机の上に置いたはずの500円玉。ほんの数秒目を離しただけでその場から忽然と消え、机の周りに落ちているわけでもない。これは誰かが一瞬のうちに盗んだと考えるのがやっぱり妥当なのかな。僕にはさっぱりわからないけれど。

「先輩、この事件解決できるんですか?」

「え?うん。まあもう大体分かってるよ?」

「「え!?」」

あまりにあっさり答えられたので思わず声を上げて驚いちゃった。同じように橙くんも驚いてるし。今の話に500円玉を見つける手掛かりはあったんだろうか。

「んー、まず誰かに盗まれたって仮説やけど、この場合こんなに人目につく放課後の教室内で起こすとは思えないかな~。目を離した一瞬の隙にって結構勇気いるっしょ?」

「それはまあ確かに...。じゃあ俺の500円玉はどこに行ったんすか?」

「個人的ヒントは教室内で騒いでる男子たち。教室全体を走り回ってるからね。偶然の力もかなり大きいと思うけど、私の推理はこうだよ!まず500円玉は普通に落ちた。隣の席で駄弁ってる女子の誰かの足にでも当たったのかな。そしてこの後、落ちた500円玉は教室内を走っている男子にたまたま蹴られた。蹴られた方向は予想でしかないけど教室内に500円玉が見当たらないとこを見ると廊下の方。」

「ということは...!」

そこまで先輩の推理を聞いた僕たちは廊下に飛び出した。先輩の推理の通りならたまたま蹴り飛ばされてしまった500円玉は廊下に落ちていることになる。ただ落ちただけじゃなく、たまたま蹴り飛ばされてしまったのなら教室内に落ちてないことにも納得がいくけど...ここで落ちていなければ橙くんの500円玉は見つからないどころか先輩の初めての事件が解決失敗になってしまう。それは嫌だ。お願いだから落ちていて、と僕が願っていると、先に廊下に出ていた先輩はニヤッと笑って何かを拾った。

「私の推理は間違ってなかったっぽいよ~!」

そう言って笑う先輩の手の中には500円玉が握られていた。これは間違いなく、事件解決だ。

「すっげー!!先輩マジですごいっすね!本当にあったんだ!ありがとうございます!」

「んふふ!お礼は...そうだね、この事件解決の話を色んな人にしてくれればいいよ。この『シャーロックパーティー』が鮮やかに解決した、ってね!」


 こうして先輩の初めての事件解決が幕を閉じた、ように思えた。この事件の本当の真相は次の話に続く。
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