魔法少女のファンな俺

世万江生紬

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魔法少女のファンな俺④

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 「キャァァァァ!モンストル!」

「た、助けてくれ~!」

 人々の恐怖の悲鳴が響き渡るここは、大きなビルの立ち並ぶ市街地中心部。いつものように推し活に励む俺だが、今日はいつもの何倍もしっかり仕事をしていた。

「みんな!ボクたちレインピースが来たからにはもう大丈夫!」

「モンストルは私たちに任せて逃げて下さい!」

「ま、待って、フレイム、ナトゥラ。よく見て、モンストルの数...!」

「え...モンストルが、一気に6体も!?」

そう、俺は今日闇の組織の幹部並み魔力を持ってして、モンストルを通常の6倍の数作り出していた。常人ではありえないほどの仕事量で流石の俺も立っているのがやっとなほどフラフラだった。が、しかし。俺がこんな限界を超える思いをしてまでこの仕事量をこなすのには、とある目的があった。

「これは...よし、1人1体がノルマだね!5人とも、任せたよ!」

「「「「「了解!」」」」」

よっし狙い通り!俺が6体という数にこだわったのは、1体のモンストルに1人ずつ対応してもらうため。元々モンストルは戦闘用に作ったものじゃなくて、負の感情を集める言わば回収目的で作ったもので、戦闘力はあんまり高くない。だから魔法少女たちの戦い方は6人でそこそこに攻撃し最後に必殺技で消滅させるのがいつものパターン。でもファンならば!いつもと違った戦い方も見たいじゃない!?俺は見たい!この市街地を選んだのも、道が多いこの地形なら、ビル屋上にいれば6人の戦いを一度に見ることが出来るから!という訳で俺は1人この特等席で魔法少女の活躍を目に焼き付けることにする。

「はいはい怪物さん、こっちだよー!ボクと遊ぼうじゃないか!」

スピードタイプのクリムゾンフレイムは素早い動きでモンストルの目の前を飛び回り、北東方面の道へおびき寄せる。そして右手でパチンッと指を鳴らすと、

「灼熱の炎で浄化されよ。フレイムパイラー!」

モンストルの立っていた地面から豪快な火柱が上がり、燃えるモンストルが一瞬で消滅する。炎の魔法なだけあって圧倒的迫力!

「ほら、お前はこっちだ!」

テクニックタイプのコバルトアクアはモンストルの足に絶妙な力と角度で攻撃を入れ、東方面の道へおびき寄せる。そして右手を腰の位置から勢いよく頭上に掲げると、

「激流に飲まれて輪廻を巡れ。アクアフォール!」

突然モンストルの体が浮き上がったと思ったらそのまま激しい勢いの滝に飲まれて消滅する。水の魔法でエフェクトが綺麗なのに勢いのある攻撃!

「貴方の相手は私です。こちらへどうぞ。」

頭脳タイプのピーコックナトゥラはモンストルの行動パターンを瞬時に計算し、的確な位置取りで南東方面の道へおびき寄せる。そして胸に当てた両手をゆっくり前に突き出すと、

「草木の中で生命を覆え。ナトゥラウォール!」

どこからか生えた草や蔦がみるみるうちにモンストルを覆いつくし消滅させる。植物な魔法は見てるだけで癒される緑だがその攻撃は確実に敵にダメージを与える!

「本当は嫌だけど...仕方ない。ほら、こっち来なよ。」

ディフェンスタイプのビオニーウィンドは一切攻撃することなく風で上手くモンストルを操り、南西方面の道へおびき寄せる。そして両手をパンッと合わせると、

「風の音から祝福を聴け。ウィンドケージ。」

一瞬でモンストルは風の檻に囲まれ、じわじわと縮まった檻の中で消滅する。風の魔法は汎用性が高く、争いを好まない彼女の戦い方を見ていると「防御は最大の攻撃」と言う言葉を想起させる!

「さぁ~暴れるよ~っ!」

パワータイプのレモントネールはモンストルの背中を派手に攻撃しながら押し出して、西方面の道へおびき寄せる。そして頭上に掲げた両手を勢いよく降ろすと、

「落雷に落ち運命を回れ。トネールライティング!」

どでかい落雷が命中しモンストルが消滅する。雷の魔法は彼女の派手なアクションも加わって一層派手に響き渡る!

「さ、サクッと片づけますか♡」

バランスタイプのマゼンタピンクは適度なスピード、正確な位置取り、絶妙な力加減で攻撃しながら北西方面の道へおびき寄せる。そしてウィンクからの投げキッスをすると、

「フローラカーニバル♡」

モンストルの足元に咲いた綺麗な花がバクッとモンストルを食らって消滅。花の魔法は見ているだけで心奪われるほど華やかだが、その攻撃は食虫植物顔負けのかなりのエグさ。小悪魔な彼女の良さが最大限に魅せられる魔法!

「みんな!片付いた!?」

「当たり前~♡」

「もちろんっ!」

一気に6体も作るとなると、当然1体1体のスペックは落ちる。1人で対応しても余裕なほどの弱さだから魔法少女たちの戦いはすぐに終わってしまった。少し残念ではあるが、6体すべてのモンストルを全て倒して少し誇らしげな魔法少女たちは見ていて癒されるものだ。疲れが吹き飛ぶ。

「ありがとう、助かったよ!」

「可愛かった~!ありがとうございました。」

「写真とか撮ってもらえますか!?」

推しが自分以外の人間からチヤホヤされるのを見ると嫌な気持ちになる人もいるみたいだが、俺は推しが人気であることに誇りを感じる。よって魔法少女たちが待ちゆく人々に囲まれているこの光景は俺にとっても最高のご褒美だ。良いものも見れたしそろそろ帰ろうかな、なんて考えた時、座っていた俺の頭上にふっと黒い影が覆いかぶさった。

「よぉ、ネロ。」

「先輩、なんですか。今日はちゃんと仕事しましたよ。おかげで疲れ切っちゃってて歩く気力もないです。ふらっふらですよ。」

俺の後ろに立っていたのは先輩だった。いつもは仁王立ちに腕組みをして威圧感たっぷりで怒っている先輩だが、今日は怒ってはいなさそうだった。

「分かってるわ、ちょっと前から街の様子見てたからな。そりゃ一度に6体もモンストル作ってたら立ねぇだろうよ。」

「じゃあ何しに来たんですか。」

「迎えに来たんだよ。その様子じゃ1人で帰れねぇだろ。ほら、肩貸してやるから帰るぞ。」

先輩はそう言うと、俺に手を差し出した。俺は差し出されたその手を見て、自分を助けてくれる仲間の存在というものについて思いを巡らせた。そしてろくに回らない頭で考えた挙句、ぱっと思い浮かんだ言葉を先輩にかけてしまっていた。

「先輩は...魔法少女だったんですか?」

「てめぇやっぱアホだな?」


 その日、俺は魔法少女の必殺技を見れた喜びと常人の6倍の仕事をやり切った疲労でぶっ倒れてしまい、目覚めたら自宅のベッドの上だった。どうやって帰ったのか記憶にないが、そんなことがどうでもよくなるくらい達成感に満ち溢れていた。
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