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第2話
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俺と千晶が出会ったのは1年の時。俺たちの通う高校は駅から一本道だけど、電車通学の生徒が多い学校なのでどうしても人が多くなる。俺は人込みは避けるためあえて一本道から少し外れた道を歩いていた。そして学校から少し離れた交差点で、千晶と出会った。出会ったと言ってもその時は俺意外にもこの道使う人いたんだ、くらいだった。それでも毎日毎日同じ道を通って、毎日毎日同じ人の顔を見ていればそれなりに顔見知りにはなる。1年の頃は同じクラスでもなかったからお互い名前も知らなくて、でも毎朝交差点で会う人くらいには挨拶をしていた。話しかけるほどではないし、「おはよう」くらいの挨拶はしているから丁度良い距離感だったと思う。でも俺はいつからか毎朝同じ場所で目があったら笑顔で挨拶をしてくれる相手に少し興味が湧いていた。
『おはよう。ね、俺春日奈月、一年生。毎朝挨拶してくれるよね。名前とか聞いていい?』
俺は元々顔見知りと課せずに初対面の相手とでも仲良くなれるタイプだったから、その日何の躊躇もなく話しかけた。ずっと挨拶する程度だった相手に急に距離を詰められたのか千晶は最初すごく怪訝な顔をしていたのを覚えてる。
『冬川千晶...。同じ1年だけど。』
『え?マジ?じゃあ敬語はいらないのか、よかったー。同じ道を使う者同士、仲良くしようぜ。』
『え、いやそういうのいらない。』
『え?』
俺が初めて千晶に話しかけた日、千晶はものすごく塩対応で俺の質問にだけ答えるとスタスタと歩いて行ってしまった。俺は今まで話しかけた相手に無下に扱われてきたことがなかったから何が起こったのか良く分からなくて、他亜その場に立ちすくんでいた。
「...つき?奈月?」
「うぉっ!?」
「奈月?大丈夫?なんかぼーっとしてたけど。」
「あー、ごめん。千晶と初めて話した日のこと思い出してた。」
二学期初日の千晶との帰り道。俺は早くもなく遅くもなくポテポテと歩きながら昔のことを思い出していた。同時にぼーっとしていたらしく、千晶に名前を呼ばれるまで気づかなかった。
「初めて話した日?」
「そうそう。千晶その時はすごい塩対応だったんだよねー。友達とかいらない的な一匹狼だったし。」
「いやそれは、俺母子家庭で家事やるために授業終わったらすぐ帰るし部活とか入れなかったし、遊びに行ったりも出来ないから、そんな俺とは友達でいない方が楽だと思って...。」
「...うん。知ってる。だから俺はこうやって千晶と二人で一緒に帰ってる時間を大事にしてる。」
千晶の家庭は父親がおらず、母親が1人で千晶を育てている母子家庭。そしてその母親も千晶に必要以上に厳しく当たり、それはしつけの域を超えたモラルにまで触れるものだった。今まで育ててやったんだから口答えはするな、お金稼いでやるんだから家事は全部やれ、私はアンタのために休む間もないんだからアンタだけ遊ぶなんて許さない、そんな虐待とも言えるような家庭の中に千晶はいた。それでも千晶は産んで育ててくれている母親に感謝し、母親の言うことを律儀に守っている。俺自身としてはそんな母親どうかとも思うけど、恋人とは言え他所の家庭に足を踏み入れるものじゃない、と自分に言い聞かせて口出しはせず千晶の意見を尊重するようにしている。
「でも、そんな冷たい態度取ってた俺に奈月はホントしつこく構ってきたんだよね。」
「だってー、仲良くなれそうな相手と仲良くなれないなんて寂しいじゃん。それに、言葉は冷たかったんだけど、嫌なやつだと思えなかったし。どんだけ俺が付きまとってもあの交差点を通る道だけは変えなかったし。」
「家がそっちの方だからね。でも、今となっては感謝してる。あの時俺のこと諦めないでくれてありがと。」
「~!どーいたしまして!千晶大好き!」
「照れるよ。」
「そこは俺も大好きって返して!」
『おはよう。ね、俺春日奈月、一年生。毎朝挨拶してくれるよね。名前とか聞いていい?』
俺は元々顔見知りと課せずに初対面の相手とでも仲良くなれるタイプだったから、その日何の躊躇もなく話しかけた。ずっと挨拶する程度だった相手に急に距離を詰められたのか千晶は最初すごく怪訝な顔をしていたのを覚えてる。
『冬川千晶...。同じ1年だけど。』
『え?マジ?じゃあ敬語はいらないのか、よかったー。同じ道を使う者同士、仲良くしようぜ。』
『え、いやそういうのいらない。』
『え?』
俺が初めて千晶に話しかけた日、千晶はものすごく塩対応で俺の質問にだけ答えるとスタスタと歩いて行ってしまった。俺は今まで話しかけた相手に無下に扱われてきたことがなかったから何が起こったのか良く分からなくて、他亜その場に立ちすくんでいた。
「...つき?奈月?」
「うぉっ!?」
「奈月?大丈夫?なんかぼーっとしてたけど。」
「あー、ごめん。千晶と初めて話した日のこと思い出してた。」
二学期初日の千晶との帰り道。俺は早くもなく遅くもなくポテポテと歩きながら昔のことを思い出していた。同時にぼーっとしていたらしく、千晶に名前を呼ばれるまで気づかなかった。
「初めて話した日?」
「そうそう。千晶その時はすごい塩対応だったんだよねー。友達とかいらない的な一匹狼だったし。」
「いやそれは、俺母子家庭で家事やるために授業終わったらすぐ帰るし部活とか入れなかったし、遊びに行ったりも出来ないから、そんな俺とは友達でいない方が楽だと思って...。」
「...うん。知ってる。だから俺はこうやって千晶と二人で一緒に帰ってる時間を大事にしてる。」
千晶の家庭は父親がおらず、母親が1人で千晶を育てている母子家庭。そしてその母親も千晶に必要以上に厳しく当たり、それはしつけの域を超えたモラルにまで触れるものだった。今まで育ててやったんだから口答えはするな、お金稼いでやるんだから家事は全部やれ、私はアンタのために休む間もないんだからアンタだけ遊ぶなんて許さない、そんな虐待とも言えるような家庭の中に千晶はいた。それでも千晶は産んで育ててくれている母親に感謝し、母親の言うことを律儀に守っている。俺自身としてはそんな母親どうかとも思うけど、恋人とは言え他所の家庭に足を踏み入れるものじゃない、と自分に言い聞かせて口出しはせず千晶の意見を尊重するようにしている。
「でも、そんな冷たい態度取ってた俺に奈月はホントしつこく構ってきたんだよね。」
「だってー、仲良くなれそうな相手と仲良くなれないなんて寂しいじゃん。それに、言葉は冷たかったんだけど、嫌なやつだと思えなかったし。どんだけ俺が付きまとってもあの交差点を通る道だけは変えなかったし。」
「家がそっちの方だからね。でも、今となっては感謝してる。あの時俺のこと諦めないでくれてありがと。」
「~!どーいたしまして!千晶大好き!」
「照れるよ。」
「そこは俺も大好きって返して!」
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