7 / 9
鏡の国の第3王子
しおりを挟む
翼の国を立って2日。翼の国の近くにある美しい国を目指し地図の通りに進むクロとロックの前に、1つの国の門が見えました。その門は今まで見た国のどの門よりも綺麗で、キラキラと光って見えました。
「クロ!国が見えてきた!何かすごいキラキラしてるし、あの国じゃないかな。」
「んん~、そうかも。鏡の国ルストラトリ。キラキラしてるのは門だ。豪華だ~目がつぶれる。」
「目はつぶれないから大丈夫。でも本当に外観すごく綺麗だね。よし、行ってみようか。」
「うん。」
クロとロックは鏡の国に向かって、門のところまで歩きました。門の近くまで来ると、キラキラと光っていた門は全面鏡になっており、太陽光が跳ね返っていたのでした。
「おっきな門だ~。」
「すごい、全部鏡だったんだ。」
「じゃあ開けるね、よーし、こんにちは~。」
クロは間延びした声で挨拶しながら、両手に力を込めて門を開けました。門を開けた先はステンドグラスで彩られたような、キラキラと綺麗に輝く街並みが広がっていました。
「ステンドグラスってガラスだよね?鏡の国の名産なのか...?」
「でもクロ見て。キラキラしてて綺麗だよー!時の国も綺麗な国だけど、こういう色鮮やかで綺麗な感じとはまた違うから新鮮でいいね!」
「それは確かに。」
この国の街並みは建物自体は時の国と大差ないような、こじんまりとしていているけれど解放感のある綺麗で趣のあるものです。しかしどの家にも窓やドア、壁の一部にステンドグラスが使われており太陽光に照らされて街全体が彩られているように感じます。クロとロックは今まで見たこともないような綺麗な街並みに言葉を失いながら、上を向いて歩いていました。すると前をよく見ていなかったためにドンッと誰かとぶつかってしまいました。
「わっ!ごめんなさい。」
「いえ、大丈夫...って、お前もしかして旅人か?」
「え?」
クロとぶつかった相手は、優しい笑顔で丁寧な対応をしたと思うと、クロの姿を見て表情を曇らせました。そして、まるで敵を見るかのような目をクロに向けます。
「はい、そーです。時の国から来ましたクロです。こっちは妖精のロック。あなたは?」
「僕はこの国の王子エメトだ。クロと言ったな、お前いくらこの国が綺麗だからって前を見ないと危ないだろうが。気を付けろ。」
「クロ、なんかこの王子様、こっちが旅人だと分かった途端ちょっと態度悪いね。」
クロの肩から様子をうかがっていたロックはクロにこそッと耳打ちします。クロは手でロックを軽く制すると、エメトに向かって頭を下げました。
「すみません、不注意でした。これから気を付けます。教えてくれてありがとう。」
「っ!わ、分かればいいんだよ分かれば。ラング、ほら行くぞ。」
エメトは素直に謝るクロを見て少したじろぐと、後方にいた妖精に一声かけて立ち去りました。その妖精はクロたちに申し訳なさそうな顔をすると、軽く頭を下げてエメトに付いて行きました。
「今の妖精、エメトの相棒かな。」
「王子って言ってたし、そうなんじゃないかな。旅を終えて戻ってきた王族かー。それにしても旅人にあんな態度取らなくてもいいのに。」
「んん~、言い方はちょっと厳しいけど言ってること間違ってないし、悪かったのはオレだからなー。とりあえず宿探そうよ。日が暮れかけてる。」
「クロがいいならもう何も言わないけど...分かった、行こう。あっちの方にある建物、多分宿じゃないかな。」
「この国の宿はお値段いくらくらいかな~。」
クロとロックはこの日、この国の旅人用のとても良い宿に泊まりました。今回もそこそこのお値段に目を丸くしたクロですが、この世界での平均的宿泊費を教えてもらったクロはこの日ようやくリーズナブルなお値段を知りました。受付を済ませた2人はゆっくりとくつろぎ疲れを癒すと、ベッドに入ってすぐにぐっすりと眠ってしまいました。
次の日、朝ゆっくりと起きた2人は支度をすると妖精を探しに出かけに行きました。宿を出て一番にぎわっている街中に向かって歩き出した時、2人は見覚えのある妖精を見かけました。
「あれ?あの子昨日の王子様の相棒じゃない?」
「ホントだ。1人なのかな?エメトもいるんだろうか。」
そんな会話をしながらラングと呼ばれていた妖精に近づくと、ラングはこちらに気づいたのかクロたちに向かって飛んできました。
「あの!昨日エメト様にいちゃも...いえぶつかってた人ですよね。その、昨日はすみませんでした。」
「え?んん~、オレ全然気にしてないから大丈夫だよ?」
「でも、大分失礼な態度でしたし...。すみません、エメト様は旅人というか他国の王族が嫌いみたいで。」
「王族が嫌い?なんで?」
「彼は王子と言っても第3王子で...。」
「あぁ。」
この世界では国にもよりますが王位継承権は王の子ども、つまり王子に与えられます。しかし本人が拒否をしたり王にふさわしくないとされない限りは出生順位が高い方が継承権順位も高くなります。よって第3王子となると王になるのは難しいのです。
「ラング!お前何をしている!」
「エメト様、すみません。昨日の旅人がいた...いらっしゃったので挨拶を。」
「こんにちはエメト、昨日ぶり。」
「クロ、王子様なんだから様を付けようよ。」
「お前たちは昨日の旅人か...。旅をしているということは12歳かそこらか。妖精を連れているということは帰りなんだな。一泊して十分体も休めただろう、早く国へ帰れ。」
「んん~ロックは相棒じゃないよ。時の国の妖精。今もまだ相棒探し中。だからこの国も観光したいんだ。良かったら案内しておくれよ。」
「はあ!?」
エメトは妖精を連れた旅人が相棒ではなく自国から共に旅に来ているという事実に加え、あまり好感を持たれていないことが明らかな相手に案内を求めるクロの行動に驚きの声をあげました。
「ふざけるなよ。俺は旅人、王族が嫌いなんだ。誰が案内なんかするか。」
「あー、第3王子だから?」
「おいなんでそれを...ラングお前か!」
「す、すみません!」
「ラングは悪くないよ、ロックたちが聞いたんだから。でもさエメト様、王族が嫌いだからってそんな態度取ってたら普通に国の評価も落ちちゃうと思いますよ。国の案内だって、国のいいところを他国にも知ってもらうチャンスじゃないですか。」
「オレもそう思いますー。」
クロとロックは翼の国で出会った、自分たちの国のことが大好きな妖精のことを思い出します。彼らは自分たちの愛する国を色々な人に知ってもらいたい、自分たちの国で楽しんでもらいたいと、たくさん国のことを教えてくれました。そのおかげでクロたちも翼の国が大好きになったのです。
「うるさい!お前たちに何が分かる!第3王子の僕では王にはなれない!王になれないこの国なんて...!お前たちに僕の気持ちは分からないだろう!」
「んん~、オレ、第5王子なんだけど...。」
「は?第5?」
「うん。オレの上に兄上が4人いる。だから俺は王にはならないだろうな~。」
「...ならお前も僕の気持ちが分かるだろう!」
「でも王じゃなくても国のために出来ることはたくさんある。オレはオレに出来るやり方で、時の国をもっとよくしたいと思ってる。」
クロはエメトに面と向かって堂々と言います。その立ち振る舞いは第5とは言え王族だと、王子だと言えるものでした。クロのそんな様子を見て、エメトは下を向いてプルプルと震えます。そしてガバッと顔を上げたかと思うと、ガシッとクロの手を掴み、
「嘘だっ!!第5王子がそんなこと本気で思っているわけがない!お前が嘘をついているということを僕が証明してやる!」
と言って走り出しました。クロは仰天、とにかく手を引っ張られるまま走り出します。ラングとロックも驚きながら後を追います。どれくらい走ったころでしょうか、エメトがようやく立ち止まったのは人気のない裏路地。鏡もステンドグラスもなくキラキラと彩るものはありませんが、日光が入り、草木もあり、どことなく温かい印象を受ける場所です。
「ここは僕のお気に入りの隠れ場所だ。ここなら人気もない。だからこそ僕はお前に問う、お前の先ほどの発言が真実かどうか。」
「ぜー...はー...問うって、真実なのだけれど。オレ嘘ついてないよ。」
「嘘つきはいつだってそう言う。お前も本当は王になれないことを嘆いているんだろう?王になりたいと叫んでいるんだろう?王になれずとも国のためになりたいなど、現実から逃げるための自分への言い聞かせだろう。僕がそれを証明する!」
「証明って何するつもりですか。クロに何かひどいことするって言うならロックは他国の王子様相手でも容赦しないですけど。」
ロックはエメトをジトッと睨みながら言うと、両手のひらを胸の前で合わせました。これですぐにでも魔法が使えます。しかしその動きを見てエメトはフンッと鼻を鳴らします。
「ふん。拷問なんてことしなくても真実を聞き出すことくらい出来る。ラング、やれ。」
「わ、分かっ...りました。」
ラングはそう言うと、両手を握り、目を瞑ると、エメトが背負っていた荷物から取り出した30㎝ばかりの鏡に向かって呪文を唱えました。
『心が通う まことの言葉 さあ聞かせて 心のメッセージ すてきな言葉』
ラングが呪文を唱え終わると、エメトの持つ鏡がキラキラと光りました。やがて光が収まったかと思うと、エメトはその鏡をクロに向けました。
「さあ、では問う。お前は本当は王になりたいのだろう?第5王子であることを恨んでいるのだろう?」
「いや、だからオレは、」
クロがそこまで言った瞬間、エメトの持つ鏡の中のクロが口を開き、クロの意思とは関係なく話し始めました。
『オレは王になりたいと思ったことは無い。王になれないからこそ、オレのやり方で国のためになりたいと思ってる。もちろん第5王子であることを恨んだことも、1度もない。』
「えっ、オレ何も喋ってないのに鏡の中の俺が何か喋ってる...。」
「すごい、これがラングの魔法!?」
クロとロックは目の前で起こったことに対して驚きの声と、感嘆の声を上げます。エメトの持つ鏡はクロに向けられていて、当然クロが写っています。しかし鏡の中のクロはエメトの問いに、クロの意思に関係なく話し出しました。鏡とは自分の姿を写すものですが、エメトが持っている鏡の中のクロはまるで別のもう1人のクロがいるかのようでした。
「あ、はは。私は言葉の国の妖精でして、元々魔法は『かけた相手が嘘偽りのない本心で話す魔法』なんですけど、鏡の国ならではのエメト様の考えで鏡に魔法をかけたら『鏡に写った相手の、本心の像を鏡の中に作り出す』魔法になったんです。だから今鏡に写ってるのはクロ本人じゃなくて、あくまでクロの本心の像。1度鏡に写れば、その後は魔法を解かない限り鏡に写っていなくても像はそこに存在するんですよ。」
「すごい、じゃあ嘘付こうとしても付けられない上に1度鏡に写ったら逃げることも出来ないんだ。」
「まあそうなる、なりますかね?クロにはちょっと申し訳ないことしちゃいましたね。」
「んん~聞かれて困ることないし大丈夫。それより、ショック受けてるエメトは大丈夫?」
エメトはクロの本心を暴こうとしたものの、クロの言っていたことが嘘間違いない本心であるということを自分自身の策によって突きつけられ、ショックで崩れ落ちていました。
「いや、いや...この世に嘘をつかない人間なんていないんだ。この言葉の国の魔法と掛け合わせた魔法の鏡があれば、どんな真実だって暴くことが出来るんだ!クロ、僕はお前に再度問う!」
「んん~、へこたれない王子様だね。」
「うるさい!俺は必ずお前の秘密を暴いてみせるんだ!」
「...そこまで行くとロックはもうなんか違うように感じるんだけど。」
「エメト様は自分の思い通りにならないと暴走してしまうことがあるので...すみません。」
こうしてエメトによる、クロの秘密を暴くための質問攻めが始まったのでした。
「クロ!国が見えてきた!何かすごいキラキラしてるし、あの国じゃないかな。」
「んん~、そうかも。鏡の国ルストラトリ。キラキラしてるのは門だ。豪華だ~目がつぶれる。」
「目はつぶれないから大丈夫。でも本当に外観すごく綺麗だね。よし、行ってみようか。」
「うん。」
クロとロックは鏡の国に向かって、門のところまで歩きました。門の近くまで来ると、キラキラと光っていた門は全面鏡になっており、太陽光が跳ね返っていたのでした。
「おっきな門だ~。」
「すごい、全部鏡だったんだ。」
「じゃあ開けるね、よーし、こんにちは~。」
クロは間延びした声で挨拶しながら、両手に力を込めて門を開けました。門を開けた先はステンドグラスで彩られたような、キラキラと綺麗に輝く街並みが広がっていました。
「ステンドグラスってガラスだよね?鏡の国の名産なのか...?」
「でもクロ見て。キラキラしてて綺麗だよー!時の国も綺麗な国だけど、こういう色鮮やかで綺麗な感じとはまた違うから新鮮でいいね!」
「それは確かに。」
この国の街並みは建物自体は時の国と大差ないような、こじんまりとしていているけれど解放感のある綺麗で趣のあるものです。しかしどの家にも窓やドア、壁の一部にステンドグラスが使われており太陽光に照らされて街全体が彩られているように感じます。クロとロックは今まで見たこともないような綺麗な街並みに言葉を失いながら、上を向いて歩いていました。すると前をよく見ていなかったためにドンッと誰かとぶつかってしまいました。
「わっ!ごめんなさい。」
「いえ、大丈夫...って、お前もしかして旅人か?」
「え?」
クロとぶつかった相手は、優しい笑顔で丁寧な対応をしたと思うと、クロの姿を見て表情を曇らせました。そして、まるで敵を見るかのような目をクロに向けます。
「はい、そーです。時の国から来ましたクロです。こっちは妖精のロック。あなたは?」
「僕はこの国の王子エメトだ。クロと言ったな、お前いくらこの国が綺麗だからって前を見ないと危ないだろうが。気を付けろ。」
「クロ、なんかこの王子様、こっちが旅人だと分かった途端ちょっと態度悪いね。」
クロの肩から様子をうかがっていたロックはクロにこそッと耳打ちします。クロは手でロックを軽く制すると、エメトに向かって頭を下げました。
「すみません、不注意でした。これから気を付けます。教えてくれてありがとう。」
「っ!わ、分かればいいんだよ分かれば。ラング、ほら行くぞ。」
エメトは素直に謝るクロを見て少したじろぐと、後方にいた妖精に一声かけて立ち去りました。その妖精はクロたちに申し訳なさそうな顔をすると、軽く頭を下げてエメトに付いて行きました。
「今の妖精、エメトの相棒かな。」
「王子って言ってたし、そうなんじゃないかな。旅を終えて戻ってきた王族かー。それにしても旅人にあんな態度取らなくてもいいのに。」
「んん~、言い方はちょっと厳しいけど言ってること間違ってないし、悪かったのはオレだからなー。とりあえず宿探そうよ。日が暮れかけてる。」
「クロがいいならもう何も言わないけど...分かった、行こう。あっちの方にある建物、多分宿じゃないかな。」
「この国の宿はお値段いくらくらいかな~。」
クロとロックはこの日、この国の旅人用のとても良い宿に泊まりました。今回もそこそこのお値段に目を丸くしたクロですが、この世界での平均的宿泊費を教えてもらったクロはこの日ようやくリーズナブルなお値段を知りました。受付を済ませた2人はゆっくりとくつろぎ疲れを癒すと、ベッドに入ってすぐにぐっすりと眠ってしまいました。
次の日、朝ゆっくりと起きた2人は支度をすると妖精を探しに出かけに行きました。宿を出て一番にぎわっている街中に向かって歩き出した時、2人は見覚えのある妖精を見かけました。
「あれ?あの子昨日の王子様の相棒じゃない?」
「ホントだ。1人なのかな?エメトもいるんだろうか。」
そんな会話をしながらラングと呼ばれていた妖精に近づくと、ラングはこちらに気づいたのかクロたちに向かって飛んできました。
「あの!昨日エメト様にいちゃも...いえぶつかってた人ですよね。その、昨日はすみませんでした。」
「え?んん~、オレ全然気にしてないから大丈夫だよ?」
「でも、大分失礼な態度でしたし...。すみません、エメト様は旅人というか他国の王族が嫌いみたいで。」
「王族が嫌い?なんで?」
「彼は王子と言っても第3王子で...。」
「あぁ。」
この世界では国にもよりますが王位継承権は王の子ども、つまり王子に与えられます。しかし本人が拒否をしたり王にふさわしくないとされない限りは出生順位が高い方が継承権順位も高くなります。よって第3王子となると王になるのは難しいのです。
「ラング!お前何をしている!」
「エメト様、すみません。昨日の旅人がいた...いらっしゃったので挨拶を。」
「こんにちはエメト、昨日ぶり。」
「クロ、王子様なんだから様を付けようよ。」
「お前たちは昨日の旅人か...。旅をしているということは12歳かそこらか。妖精を連れているということは帰りなんだな。一泊して十分体も休めただろう、早く国へ帰れ。」
「んん~ロックは相棒じゃないよ。時の国の妖精。今もまだ相棒探し中。だからこの国も観光したいんだ。良かったら案内しておくれよ。」
「はあ!?」
エメトは妖精を連れた旅人が相棒ではなく自国から共に旅に来ているという事実に加え、あまり好感を持たれていないことが明らかな相手に案内を求めるクロの行動に驚きの声をあげました。
「ふざけるなよ。俺は旅人、王族が嫌いなんだ。誰が案内なんかするか。」
「あー、第3王子だから?」
「おいなんでそれを...ラングお前か!」
「す、すみません!」
「ラングは悪くないよ、ロックたちが聞いたんだから。でもさエメト様、王族が嫌いだからってそんな態度取ってたら普通に国の評価も落ちちゃうと思いますよ。国の案内だって、国のいいところを他国にも知ってもらうチャンスじゃないですか。」
「オレもそう思いますー。」
クロとロックは翼の国で出会った、自分たちの国のことが大好きな妖精のことを思い出します。彼らは自分たちの愛する国を色々な人に知ってもらいたい、自分たちの国で楽しんでもらいたいと、たくさん国のことを教えてくれました。そのおかげでクロたちも翼の国が大好きになったのです。
「うるさい!お前たちに何が分かる!第3王子の僕では王にはなれない!王になれないこの国なんて...!お前たちに僕の気持ちは分からないだろう!」
「んん~、オレ、第5王子なんだけど...。」
「は?第5?」
「うん。オレの上に兄上が4人いる。だから俺は王にはならないだろうな~。」
「...ならお前も僕の気持ちが分かるだろう!」
「でも王じゃなくても国のために出来ることはたくさんある。オレはオレに出来るやり方で、時の国をもっとよくしたいと思ってる。」
クロはエメトに面と向かって堂々と言います。その立ち振る舞いは第5とは言え王族だと、王子だと言えるものでした。クロのそんな様子を見て、エメトは下を向いてプルプルと震えます。そしてガバッと顔を上げたかと思うと、ガシッとクロの手を掴み、
「嘘だっ!!第5王子がそんなこと本気で思っているわけがない!お前が嘘をついているということを僕が証明してやる!」
と言って走り出しました。クロは仰天、とにかく手を引っ張られるまま走り出します。ラングとロックも驚きながら後を追います。どれくらい走ったころでしょうか、エメトがようやく立ち止まったのは人気のない裏路地。鏡もステンドグラスもなくキラキラと彩るものはありませんが、日光が入り、草木もあり、どことなく温かい印象を受ける場所です。
「ここは僕のお気に入りの隠れ場所だ。ここなら人気もない。だからこそ僕はお前に問う、お前の先ほどの発言が真実かどうか。」
「ぜー...はー...問うって、真実なのだけれど。オレ嘘ついてないよ。」
「嘘つきはいつだってそう言う。お前も本当は王になれないことを嘆いているんだろう?王になりたいと叫んでいるんだろう?王になれずとも国のためになりたいなど、現実から逃げるための自分への言い聞かせだろう。僕がそれを証明する!」
「証明って何するつもりですか。クロに何かひどいことするって言うならロックは他国の王子様相手でも容赦しないですけど。」
ロックはエメトをジトッと睨みながら言うと、両手のひらを胸の前で合わせました。これですぐにでも魔法が使えます。しかしその動きを見てエメトはフンッと鼻を鳴らします。
「ふん。拷問なんてことしなくても真実を聞き出すことくらい出来る。ラング、やれ。」
「わ、分かっ...りました。」
ラングはそう言うと、両手を握り、目を瞑ると、エメトが背負っていた荷物から取り出した30㎝ばかりの鏡に向かって呪文を唱えました。
『心が通う まことの言葉 さあ聞かせて 心のメッセージ すてきな言葉』
ラングが呪文を唱え終わると、エメトの持つ鏡がキラキラと光りました。やがて光が収まったかと思うと、エメトはその鏡をクロに向けました。
「さあ、では問う。お前は本当は王になりたいのだろう?第5王子であることを恨んでいるのだろう?」
「いや、だからオレは、」
クロがそこまで言った瞬間、エメトの持つ鏡の中のクロが口を開き、クロの意思とは関係なく話し始めました。
『オレは王になりたいと思ったことは無い。王になれないからこそ、オレのやり方で国のためになりたいと思ってる。もちろん第5王子であることを恨んだことも、1度もない。』
「えっ、オレ何も喋ってないのに鏡の中の俺が何か喋ってる...。」
「すごい、これがラングの魔法!?」
クロとロックは目の前で起こったことに対して驚きの声と、感嘆の声を上げます。エメトの持つ鏡はクロに向けられていて、当然クロが写っています。しかし鏡の中のクロはエメトの問いに、クロの意思に関係なく話し出しました。鏡とは自分の姿を写すものですが、エメトが持っている鏡の中のクロはまるで別のもう1人のクロがいるかのようでした。
「あ、はは。私は言葉の国の妖精でして、元々魔法は『かけた相手が嘘偽りのない本心で話す魔法』なんですけど、鏡の国ならではのエメト様の考えで鏡に魔法をかけたら『鏡に写った相手の、本心の像を鏡の中に作り出す』魔法になったんです。だから今鏡に写ってるのはクロ本人じゃなくて、あくまでクロの本心の像。1度鏡に写れば、その後は魔法を解かない限り鏡に写っていなくても像はそこに存在するんですよ。」
「すごい、じゃあ嘘付こうとしても付けられない上に1度鏡に写ったら逃げることも出来ないんだ。」
「まあそうなる、なりますかね?クロにはちょっと申し訳ないことしちゃいましたね。」
「んん~聞かれて困ることないし大丈夫。それより、ショック受けてるエメトは大丈夫?」
エメトはクロの本心を暴こうとしたものの、クロの言っていたことが嘘間違いない本心であるということを自分自身の策によって突きつけられ、ショックで崩れ落ちていました。
「いや、いや...この世に嘘をつかない人間なんていないんだ。この言葉の国の魔法と掛け合わせた魔法の鏡があれば、どんな真実だって暴くことが出来るんだ!クロ、僕はお前に再度問う!」
「んん~、へこたれない王子様だね。」
「うるさい!俺は必ずお前の秘密を暴いてみせるんだ!」
「...そこまで行くとロックはもうなんか違うように感じるんだけど。」
「エメト様は自分の思い通りにならないと暴走してしまうことがあるので...すみません。」
こうしてエメトによる、クロの秘密を暴くための質問攻めが始まったのでした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
死にたがりの双子を引き取りました。
世万江生紬
ライト文芸
身寄りのない青年、神楽木零は両親を亡くした双子の少年たちを引き取った。しかし、引き取った双子は死にたがりだった。零は死にたがりの双子とどう暮らしていくのか――――。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
最強の弱虫達
影悪・ドレミ
ファンタジー
登場人物全員が人には言えない苦い秘密を持っているミステリーファンタジー小説。
記憶を無くした少年が目覚めたのはおかしな世界。
しかし、そこで生活するにつれこちらが本当の世界ではないかと思ってくる。
そして、そこで出会った人物たち。
チート魔法同士の心理戦。
記憶を取り戻した時、本当の仲間が分かる。
今そこにいる仲間は本当に信じても大丈夫ですか?
仲間と思ってた人物が謎を深め、沢山の情報の中から無い記憶の自分を呼び起こせ!
0秒の石は欲望を叶え爆発させる。
願いを叶えるのに危険は付きもの。
バットエンドかハッピーエンドか、
それともトゥルーエンド?
メリーエンド?
最後の最後までどうなるか分からない。
敵は目の前だけじゃない。
嘘と隠し事、その中から真実の絆は生まれ…る…?
「ハッピーエンドなんて言わせない」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
惜別の赤涙
有箱
ファンタジー
シュガは、人にはない能力を持っていた。それは人の命を使い負傷者を回復させる能力。
戦争真っ只中の国で、能力を使用し医者として人を治しながら、戦を終わらせたいと願っていた。
2012年の作品です(^^)
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる