薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

「こんにちは。いちごちゃん、薔薇紳士さん。」

「杏ちゃん!いらっしゃい。」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はよく薔薇紳士に相談事を聞いてもらいに来ている恋多き乙女、いちごの友人の木下杏です。

「ここのお席どうぞー。」

「ありがとう。薔薇紳士さん、いつもの紅茶下さい。」

「かしこまりました。」

杏はいつものようにいちごに案内されてカウンター席に座り、いつもの紅茶を注文すると、ふぅっと息をつき、指をいじいじといじり始めました。

「さて杏ちゃん、今日も何かアオハルの匂いがするよ?薔薇紳士さんが紅茶淹れてる間、話聞かせてよ~。」

「いちごちゃん、ノリがおじさんみたいだよ...。でも、うん、聞いてくれる?」

「もちろん!さあ、耳の準備はばっちりだよ。前に話してたD組の子と進展あったのかな?」

「へへ、んとね、その彼と連絡先の交換が出来たんだ。」

「おおおおお!すごい!進展だね!」

杏はもじもじと恥ずかしそうに、でも嬉しそうな笑顔で話します。そしてそれを聞いているいちごも楽しそうにピンクの声を上げます。

「でもね、でもね、文字だけのやり取りだとやっぱり感情までは送れないじゃない?この文章で大丈夫かな?変に思われないかな、とか考えると送れなくなっちゃって...。」

「うんうん!変に思われたくないもんね!でも他愛もない話とかしたいもんね、むず痒いジレンマだね!」

「そう、そうなの!変に思われたくはないけど会話はしたいの。だから文章ずっと考えて、変じゃないかなって何回も確認したりしちゃうの!」

「うわぁぁぁぁ!キュンキュンする!」

杏といちごがきゃあきゃあとコイバナに花を咲かせていると、フルーティーな良い香りが漂ってきました。

「杏様、紅茶入りましたよ。どうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

「薔薇紳士さん、話きいてましたよね?どうですか、きゅんきゅんしませんかー!?」

いちごが興奮した顔のまま、薔薇紳士にも話を振ります。薔薇紳士は一瞬だけ困ったように眉を下げましたが、すぐにいつもの紳士な口調で話し始めます。

「そうですね、確かに青春を感じるお話でした。ですが...そうですね、私は、どれだけ相手を思って書いても、下書きに保存したメッセージでは相手に読まれることは無いと思います。」

「薔薇紳士さん意外と現実的だなぁ…。それに今はメールじゃなくてLINEなので下書きに保存とかないですよ?」

「おや、それは失礼しました。」

「薔薇紳士さんは謝ることないですよ!むしろありがとうございますです!薔薇紳士さんの言う通りでした。相手に送らないと伝わらないですもんね。私、悩むだけじゃなくて、ちゃんとメッセージとして送ろうと思います。」

「おお、杏ちゃん決意した目だ。うんうん、悩んで悩んで行動に移す、アオハルだ。応援するよ!」

「えへへ、ありがとう、いちごちゃん。じゃあ早速だけど送るメッセージを…」

「考えよ!おー!」

この後、いちごと杏は1つのメッセージを送るのに30分も悩み、考え、送信しました。その間薔薇紳士は青春真っ只中にいる2人を優しく見守っていたのでした。

 どんなに悩んでも、迷っても、メッセージは相手に送らないと伝わりません。悩む時間も楽しんでも、最後は勇気を持って伝えることが大事なのです。
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