自己満足

世万江生紬

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小人のイタズラ

小人のイタズラ

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 俺の名前は真壁奈生まかべなな。いきなり何を言っているのか分からないと思うが、俺の家には小人がいる。しかもガッツリ目の前に現れる。その証拠に今も俺の目の前、食卓テーブルから、夕飯食べようと思って置いていた箸を床に落としている。

「こらぁ!箸を床に落とすな!またいちいち洗わなきゃいけねぇじゃねぇか!」

「キャー!!」

俺が小人に怒鳴り声を上げると、2匹の小人はまるで大人に構って貰えた子どものようにはしゃいで走って逃げ回る。

「まったく…。」

俺の家に住む小人は、いつもいつもくだらないイタズラで俺をイラつかせる。

 そもそも、なぜ俺の家に小人がいるのかと言うと、俺にも分からない。俺がこの家に引っ越してきたのが約1か月前で、俺がこの家に住み始めてだいぶ慣れた頃、俺がごくごく普通にテレビを見ていた時にこの小人2匹はひょっこり俺の前に現れた。

「ヒョイッ」

「ん、…え、わぁぁぁ!?なに!え、小人!?」

俺が初めて見る人ならざるものの存在に慌てふためいている中、この可愛らしい幼児をそのまま小さくしたような2匹の小人は、俺の見ていたテレビの主電源を消した。

「…は?え、なんでテレビ消すの。」

「クスクス」

「は?え、なにお前らイタズラして笑ってんの?」

「クスクスクスクス」

「…はあっ!?!?」

これが小人との出会い。それからというもの、小人はことある事に俺にくだらないイタズラを仕掛けてくる。ボールペンのバネの部分だけ抜く。靴を左右反対に置く。タンスの引き出しを開けっぱなしにする。畳んで重ねた洗濯物の1番上の服だけぐちゃぐちゃにする。寝る前の布団をどうやってか冷たくする。などなどなどなど、怒るに怒れないけど結構困るようなイタズラばかり。そんなイタズラに俺は心底嫌気が刺していた。


 ある日の朝、俺は彼女とのデートに浮かれてウキウキで身支度をしていた。いつもよりオシャレな服を着て、髪をワックスで固める。指にはリングをはめて少し高いカバンを持つ。

「よっし!」

気合いは十分。ここまで小人に邪魔されることも無く無事に玄関扉から出た瞬間。植木鉢がフワッと飛んできた。

「えっ!?」

植木鉢は為す術なく俺に軽くぶつかり、そのまま落ちて割れてしまった。そして植木鉢が元々あったであろう隣の家の扉の傍には2匹の小人が立っていた。

「お前らがやったのか?」

「…」

小人は珍しく笑うことなく黙っていた。俺がいつもと違って真剣に怒ったからかもしれない。当然だ、植木鉢を投げつけるなんて、いくらふんわり優しく投げたとしても怪我する危険性は充分あった。それに、せっかくデートのためにオシャレした服も汚れてしまった。

「…お前らいい加減しろよ。」

俺はそう小人に冷たく言うと、着替えに家に戻った。幸いにも浮かれて集合時間より早めに家を出ようとしてたから、急げば間に合う。着替え終わった俺はまた玄関扉を開けると、そこにはもう小人の姿はなかった。が、そんなことよりもデートで頭がいっぱいの俺は少し走ってデート先に向かった。


 デート先に向かう途中の交差点。何故か人だかりが出来ていた。あまりにも大勢の人がいるので、俺は自由に身動きすら取れないほどだった。

「なんだよこの人混み!ここ通んなきゃ集合場所行けないって言うのによ!」

俺は出かける前のこともあって完全にイライラしながら進んでいた。その歩みの中で野次馬の中から話し声がはっきり聞こえた。

「事故だって…居眠り運転のトラックのせいで玉突き事故って…だいぶ酷いわよねぇ。結構な人が巻き込まれたみたいよ。」

「ほんと、怖い怖い。私もあと5分来るのが早かったら巻き込まれてたわ~。」

その瞬間、俺は足をピタッと止めた。あと5分、あと5分ここに来るのが早ければ巻き込まれていた。その5分は、俺が着替えて家を出るのを遅めた時間だ。つまり、あの小人が俺に植木鉢をぶつけていなければ、俺は事故に巻き込まれていた?小人は、俺を事故に巻き込まれないようにするために植木鉢を?俺は一気に冷えた頭を動かすことが出来ず、暫くその場に立ちすくんでいた。


 その日の晩、デートから帰宅した俺は複雑な気持ちだった。もちろんデートには遅刻し、彼女には怒られ、デート中もどこか心ここに在らずでまた彼女を怒らせてしまった。挙句心配され家に返されてしまった。普段の俺なら彼女にここまでされたらかなり凹む、けど今の俺は罪悪感のようなものでいっぱいだった。小人の姿を見たら、なんて言ったらいいのか。怒ってごめん?助けてくれてありがとう?いや、小人が俺を助けてくれたのもただの偶然の重なりなだけかもしれない。俺がどうすればいいのか分からず家のドアの前で立ちすくんでいたその時、隣の部屋のドアが空いて、隣人の中井さんが出てきた。

「真壁さん!!あなたでしょう!うちの植木鉢壊したの!!」

「え!?」

「あなたの家の前にうちの割れた植木鉢があるのよ!あなた今朝バタバタしてたみたいだったし!どうせ蹴っ飛ばしたりしたんでしょう!!」

「あ、いや、違くて、俺は何も…。」

「言語道断!とりあえずこの植木鉢は弁償してもらいますから!そんなに高いやつじゃないから良かったと思うけど、これに懲りたら気をつけて頂戴!」

中井さんはその割腹のいい体を揺らしながら家に戻っていった。それはその様子をぽかんとして見ていたが、ふと自分の部屋のドアを見ると、そこには小人がクスクスと笑いながらこちらを見ていた。俺は怒りや罪悪感や恥ずかしさ、とにかく色んな気持ちがごちゃ混ぜになって叫んだ。

「お前らっ…マジでもう二度とお前らにごめんもありがとうも感じねぇから!!」


 俺の家に住むイタズラ好きの小人はクスクスと笑うだけだった。
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