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選択制のセリフ
選択制のセリフ
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「ねぇねぇ!空も帰りゲーセン寄ってくでしょ?」
友達、川崎遥に話しかけられる。そして私の目の前に2つの選択肢が現れる。
『もちろん!行く行く!』『今日は帰って本読みたいな』
私は、いつものように左を選んだ。
私の名前は日下部空。突然だけど、私は自分の言葉が選択制になっている。もちろん常にって訳じゃないけど、ルート分岐になるんだろうなって所では目の前に選択肢のようなものが見えるのだ。左が相手が欲しい言葉で、右が私自身の本当の言葉。そして私はいつだって左を選んできた。当然だ、だって嫌われたくなんてないから。
「あ~歌った~!やっぱカラオケは定期的に行きたいなー。」
「そうだね。私も楽しかった。」
「遥はバンバン歌ってたけど、空ちゃん全然歌ってなくなかった?」
「あ、確かに~。」
『音痴だから恥ずかしくって~』『歌いたい気分じゃなかったから』
「音痴だから恥ずかしくって~。」
「マジ!?確かに歌ってた曲もあんまり上手くなかったもんね。じゃあカラオケはあんまり誘わない方がいいかな?」
「え!ううん、全然、皆とカラオケ行くの楽しいから!」
「そう?」
疲れる。相手の求める答えばかりを答えて、自分の意思はそこには無い。でも周りはそんなこと気づいてないし、寧ろ私を気遣ってくれる。だから余計に、心が疲れる。
次の日、学校に向かった私はまず職員室に行った。日直だから日誌を取りに行かなきゃいけない。職員室のドアをノックしガラッと開ける。一歩踏み出したところに一人の女子生徒がいた。
「あれ?あ、隣のクラスの空ちゃんだ。」
「えーっと…。」
「あ、私、久坂藍だよ。同じ図書委員だよ?」
『そうだった、ごめんド忘れしちゃって…』『覚えてなかったや』
「そうだった、ごめんド忘れしちゃって…。」
「…。」
久坂さんは、私をじっと見つめてきた。何を考えているのか分からないけど、ちょっと居心地が悪くて私はふいっと目を逸らした。
「なんか、無理してそう。」
「…え?」
私は突然の言葉に思わず拳を握りしめた。
「…ううん、なんでもない。じゃあまた委員会でね。」
「あ、う、うん。」
初対面ではないけれど、話をしたのはほぼ初めて。そんな相手にいきなり「無理してそう」と言ってくる久坂さん、正直少しどころじゃなく苦手だ。言われたことが正解だったとしても。
その日の放課後、早速委員会があった。私は久坂さんと出来るだけ顔を合わせたくなかったけど、隣のクラスだからどうしても近い席になる。せめて委員会中は我慢するとしても、終わったらすぐに帰ろうとしていたら帰る前に話しかけられてしまった。
「空ちゃん、良かったら一緒に帰らない?」
『うん、もちろんいいよ』『嫌だ。久坂さんとは出来るだけ話したくない』
「…うん、もちろんいいよ。」
「やっぱ、なんか辛そう?」
私は一瞬頭に血が登ったように感じた。けれどグッと押しこらえ「そんな事ないよ?」と、久坂さんと一緒に帰ることになった。
帰り道、一緒に帰っているものの私たちには共通点が委員会くらいしかない。そして委員会についても特に話すことがないとなると、二人の間に流れるのは無言。でもずっと久坂さんは私に何か話したそうにしていた。
「…あの、私に何か用だったの?」
「え!あ、うん。そーだね。えっと、なんか空ちゃん、無理してる、というか辛そうというか、だから大丈夫かなって。」
「…朝から思ってたけど、私無理してそうに見える?そんなことないよ、大丈夫だよ。」
「そう?でもなんか、」
「大丈夫だって。」
「なんか無理して言いたくない言葉言っているような気がして。」
私の中でぷちっと何かが切れた。なんと言うか、面倒くさくなった。
「だったら?無理して言ってたら、なに?」
「え…。」
久坂さんは私の急に冷たくなった声色に、少しだけたじろいだ。そして私の目の前に選択肢が見える。
『ちょっと悩みがあって、モヤモヤしてるんだ』『私の事何も知らないくせに中途半端に首突っ込んで来ないで』
私は今までずっと、嫌われたくないから、変にギクシャクしたくないから、相手の望む言葉をかけるようにしてた。例えそれが私自身の言葉じゃなくても。でももうどうでも良くなった。この人には嫌われたって構わない。私にズケズケ入ってくるなら、私もズケズケ言う。だから私は、この日初めて右を選んだ。
「私の事何も知らないくせに中途半端に首突っ込んで来ないで!」
私は怒りをぶつけるようにして久坂さんに叫んだ。久坂さんは一瞬ビクッとしたものの、すぐに私の目をじっと見た。
「知らないから、知りたいんじゃん。今、初めて本心聞いた気分。…うん、そっちの方が気味が良いね。」
「…は?」
「なんか、周りに合わせて言葉を選んでるような気がしてたから。そういうのって見たら何となく分かるから。だから今私に本心ぶつけてくれたの嬉しい。」
「…何それ。」
「周りの人がどんな人かは知らないけど、少なくとも私は忖度のない本心で話してくれた方が嬉しいタイプの人間。だから、私の望むかけて欲しい言葉は、空ちゃんの本心とイコールだよ。」
『ありがとう』『人にズケズケ踏み込んで、不躾だよ。でもありがとう』
「…人にズケズケ踏み込んで、不躾だよ。」
「うぇ、本心って感じのする言葉だね。」
「でもありがとう。」
「…!じゃ、友達だね。LINE交換しよう!」
「嫌だ。」
「嘘でしょこの流れで!?」
私は、久坂さんには左を選ばないようにした。でも久坂さんは、私の言葉に笑顔で応えてくれた。
「空、今日放課後どっか寄ってく?」
『もちろん、行く行く』『今日は帰ってドラマ見たいな』
「もちろん、行く行く。」
あれから1週間、私は特に変わったことも無く、遥たちと一緒にいる。左の選択肢を選んで。でも変わったことが1つ。
「空ちゃーん!一緒に帰ろー!」
「空、今日も来てるよ、隣のクラスの久坂藍。」
「あぁ…ちょっと待ってて。」
私は遥に断りを入れてからドアに近寄る。
「空ちゃん!一緒に帰ろ。」
「帰らない。今日は遥たちと帰るの。」
「えぇ…それ本心?」
ジトりと私の顔を覗き込んでくる。私は少しため息を吐いて、ビシッと指を突き立てた。
「藍ちゃんと帰るくらいなら遥たちと帰るの!」
「…はは。りょーかい。じゃ、また誘うよー。」
『うん、また誘って』『誘わなくていい』
「誘わなくていい!」
私の日常は何も変わらない。でも何か少し変わった。ほんの少しだけ、疲れなくなった。
友達、川崎遥に話しかけられる。そして私の目の前に2つの選択肢が現れる。
『もちろん!行く行く!』『今日は帰って本読みたいな』
私は、いつものように左を選んだ。
私の名前は日下部空。突然だけど、私は自分の言葉が選択制になっている。もちろん常にって訳じゃないけど、ルート分岐になるんだろうなって所では目の前に選択肢のようなものが見えるのだ。左が相手が欲しい言葉で、右が私自身の本当の言葉。そして私はいつだって左を選んできた。当然だ、だって嫌われたくなんてないから。
「あ~歌った~!やっぱカラオケは定期的に行きたいなー。」
「そうだね。私も楽しかった。」
「遥はバンバン歌ってたけど、空ちゃん全然歌ってなくなかった?」
「あ、確かに~。」
『音痴だから恥ずかしくって~』『歌いたい気分じゃなかったから』
「音痴だから恥ずかしくって~。」
「マジ!?確かに歌ってた曲もあんまり上手くなかったもんね。じゃあカラオケはあんまり誘わない方がいいかな?」
「え!ううん、全然、皆とカラオケ行くの楽しいから!」
「そう?」
疲れる。相手の求める答えばかりを答えて、自分の意思はそこには無い。でも周りはそんなこと気づいてないし、寧ろ私を気遣ってくれる。だから余計に、心が疲れる。
次の日、学校に向かった私はまず職員室に行った。日直だから日誌を取りに行かなきゃいけない。職員室のドアをノックしガラッと開ける。一歩踏み出したところに一人の女子生徒がいた。
「あれ?あ、隣のクラスの空ちゃんだ。」
「えーっと…。」
「あ、私、久坂藍だよ。同じ図書委員だよ?」
『そうだった、ごめんド忘れしちゃって…』『覚えてなかったや』
「そうだった、ごめんド忘れしちゃって…。」
「…。」
久坂さんは、私をじっと見つめてきた。何を考えているのか分からないけど、ちょっと居心地が悪くて私はふいっと目を逸らした。
「なんか、無理してそう。」
「…え?」
私は突然の言葉に思わず拳を握りしめた。
「…ううん、なんでもない。じゃあまた委員会でね。」
「あ、う、うん。」
初対面ではないけれど、話をしたのはほぼ初めて。そんな相手にいきなり「無理してそう」と言ってくる久坂さん、正直少しどころじゃなく苦手だ。言われたことが正解だったとしても。
その日の放課後、早速委員会があった。私は久坂さんと出来るだけ顔を合わせたくなかったけど、隣のクラスだからどうしても近い席になる。せめて委員会中は我慢するとしても、終わったらすぐに帰ろうとしていたら帰る前に話しかけられてしまった。
「空ちゃん、良かったら一緒に帰らない?」
『うん、もちろんいいよ』『嫌だ。久坂さんとは出来るだけ話したくない』
「…うん、もちろんいいよ。」
「やっぱ、なんか辛そう?」
私は一瞬頭に血が登ったように感じた。けれどグッと押しこらえ「そんな事ないよ?」と、久坂さんと一緒に帰ることになった。
帰り道、一緒に帰っているものの私たちには共通点が委員会くらいしかない。そして委員会についても特に話すことがないとなると、二人の間に流れるのは無言。でもずっと久坂さんは私に何か話したそうにしていた。
「…あの、私に何か用だったの?」
「え!あ、うん。そーだね。えっと、なんか空ちゃん、無理してる、というか辛そうというか、だから大丈夫かなって。」
「…朝から思ってたけど、私無理してそうに見える?そんなことないよ、大丈夫だよ。」
「そう?でもなんか、」
「大丈夫だって。」
「なんか無理して言いたくない言葉言っているような気がして。」
私の中でぷちっと何かが切れた。なんと言うか、面倒くさくなった。
「だったら?無理して言ってたら、なに?」
「え…。」
久坂さんは私の急に冷たくなった声色に、少しだけたじろいだ。そして私の目の前に選択肢が見える。
『ちょっと悩みがあって、モヤモヤしてるんだ』『私の事何も知らないくせに中途半端に首突っ込んで来ないで』
私は今までずっと、嫌われたくないから、変にギクシャクしたくないから、相手の望む言葉をかけるようにしてた。例えそれが私自身の言葉じゃなくても。でももうどうでも良くなった。この人には嫌われたって構わない。私にズケズケ入ってくるなら、私もズケズケ言う。だから私は、この日初めて右を選んだ。
「私の事何も知らないくせに中途半端に首突っ込んで来ないで!」
私は怒りをぶつけるようにして久坂さんに叫んだ。久坂さんは一瞬ビクッとしたものの、すぐに私の目をじっと見た。
「知らないから、知りたいんじゃん。今、初めて本心聞いた気分。…うん、そっちの方が気味が良いね。」
「…は?」
「なんか、周りに合わせて言葉を選んでるような気がしてたから。そういうのって見たら何となく分かるから。だから今私に本心ぶつけてくれたの嬉しい。」
「…何それ。」
「周りの人がどんな人かは知らないけど、少なくとも私は忖度のない本心で話してくれた方が嬉しいタイプの人間。だから、私の望むかけて欲しい言葉は、空ちゃんの本心とイコールだよ。」
『ありがとう』『人にズケズケ踏み込んで、不躾だよ。でもありがとう』
「…人にズケズケ踏み込んで、不躾だよ。」
「うぇ、本心って感じのする言葉だね。」
「でもありがとう。」
「…!じゃ、友達だね。LINE交換しよう!」
「嫌だ。」
「嘘でしょこの流れで!?」
私は、久坂さんには左を選ばないようにした。でも久坂さんは、私の言葉に笑顔で応えてくれた。
「空、今日放課後どっか寄ってく?」
『もちろん、行く行く』『今日は帰ってドラマ見たいな』
「もちろん、行く行く。」
あれから1週間、私は特に変わったことも無く、遥たちと一緒にいる。左の選択肢を選んで。でも変わったことが1つ。
「空ちゃーん!一緒に帰ろー!」
「空、今日も来てるよ、隣のクラスの久坂藍。」
「あぁ…ちょっと待ってて。」
私は遥に断りを入れてからドアに近寄る。
「空ちゃん!一緒に帰ろ。」
「帰らない。今日は遥たちと帰るの。」
「えぇ…それ本心?」
ジトりと私の顔を覗き込んでくる。私は少しため息を吐いて、ビシッと指を突き立てた。
「藍ちゃんと帰るくらいなら遥たちと帰るの!」
「…はは。りょーかい。じゃ、また誘うよー。」
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