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死にたがりの双子を引き取りました。
死にたがりの双子を引き取りました。
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俺の名前は神楽木零。両親は他界済みだが親の遺産で不動産経営をしている二十四歳。そんな俺の目の前には、俯いている、顔がそっくりな双子がいる。
「あのさぁ...君ら二人の事引き取ることになったんだから、ある程度のコミュニケーションは取ってくんない?」
返事はない。まあそれもそのはず、この双子は目の前で両親が強盗に殺されたところを見た上に、親戚たちで誰が引き取るかもめているところを目撃してしまった、現在傷心中の身。あまりにもハードすぎるので俺も出来るだけそっとしておいてやりたいけど、何せこの双子、見た目がそっくりすぎてどっちがどっちか分からない。どちらかが兄の『陽人』で、どちらかが弟の『月人』だと聞いているのだが、どっちがどっちか見分けが付かない。この二人を引き取る身としては、せめてそれだけ知っておきたい。
「あのー、自己紹介くらいはしてほしいな、とか思ってんだけど...。」
返事はない。ピクリとも動かない。
「俺の名前が神楽木零って言うのは知ってるよな...?」
返事はない。けどほんの少しだけ頷いたような気がした。
「今頷いてくれた?」
またピクリとも動かない。でも何となく、俺の話は聞いてくれてんだろうなとは思った。
「えっと、とりあえず、どっちが陽人でどっちが月人かだけ教えてくんね?これが分かったらもう何も聞かないから。」
返事はない。けどゆっくり、双子は俺の顔を見た。双子と目が合って、俺はそこでようやく二人の顔をちゃんと観た。似てるけど、よく見れば違いはある。俺がもう少し双子の顔をよく観ようと近づいたとき、俺の向かって左に座ってる方が口を開いた。
「死にたい。」
「え?」
思わず聞き返してしまった。ちゃんと聞こえてはいたけど、こういうのは条件反射だと思う。
「死にたいから、放っておいてほしいです。」
今度は俺の向かって右に座ってる方が口を開いた。顔はそっくりとはいえよく見たら違うところもあるけど、声は全く一緒だな、なんてぼんやり考えてしまった。
「えっとぉ、俺はとりあえず名前を教えてくれって、どっちが陽人でどっちが月人か教えてくれって言ったの。お前らが死にたがってることなんてどうでもいいから、名前、教えて。」
俺はわざと冷たい声で言った。すると双子は、俺に呆れたのか慄いたのか小さい声で「ボクが陽人」「オレが月人です」と教えてくれた。双子の声を聞いた俺はとりあえず空気を換えるため手をパンと叩いた後、「分かった」と立ち上がって部屋を出て行こうとした。ら、
「「ちょっと待って」ください。」
呼び止められた。
「なに?」
「なにじゃない。止めないの?」
「は?」
「はじゃなくて、ボクたち死にたいって言った。これから自殺するかもしれない。止めないの?」
陽人、の方がため口で俺に聞いた。まあ、常識ある大人なら確かに子どもが死にたいって言っていれば原因を聞いたり、話をしたり、なんだかんだ止めようとすると思う。でも俺は悪い大人だから。
「別に止めない。生きるも死ぬも個人の自由だ。それを他人である俺がどうこうするのは、俺は違うと思ってる。」
「引き取ってすぐに自殺なんてしたら、親戚に色々言われるんじゃないですか。」
今度は月人の方。なるほど、陽人はため語で月人は敬語、分かりやすくていいな。じゃなくて、確かに今すぐ死なれたら俺がとやかく言われるんだろうな。それは嫌。でも、
「確かに何か言われるのは嫌だし、俺が嫌だって言って自殺やめてくれるならそうして欲しいけど、お前らの死にたい気持ちを理解できるのはお前らだけだから。周りに何か言われたって、じゃあお前ら陽人と月人の死にたい気持ち払拭してやれたのか?って言ってやるから別にいい。」
俺がそう言った途端双子は黙った。しばらく沈黙が続いた後、示し合わせたわけでもないのに双子は同じタイミングで立ち上がった。そして、ゆっくり台所に向かって言ったかと思うと、包丁を取り出した。俺の家には普通の食材を切る包丁と、刺身を切る時用の刺身包丁がある。双子はそれらを一本ずつ持つと、お互いに切っ先を向けた。その瞬間、俺はその包丁を取り上げた。
「何するのさ。」
「包丁を取り上げたんだけど。」
「そうではなく、なぜ邪魔をするのですか。止めないって言ったじゃないですか。」
「止めないとは言ったな。でも、邪魔をしないとは言ってない。」
俺はニヤッと笑った。
「俺は、お前らを止めるつもりはない。お前らの悲しみはお前らにしか分からないし、お前らの悲しみを俺が払拭してやることもできねぇ。ならお前らの死にたがりを俺に止める権利はねぇ。でも、シンプルにお前らに死なれるのは夢見が悪い。だから、死にたがるなら死ねばいい!俺はそれを全力で邪魔してやる!」
俺は双子に高らかに宣言した。自分のこの考えが、この選択が、間違っているとは思ってない。元死にたがりだから、この双子の気持ちは痛いほど分かる。でもだからこそ、この双子を引き取った俺は、この双子には生きてほしいと思う。双子のぽかんとした顔を見て、それを強く思う。いつかこの二人の目に、希望の光が宿ることを願って。
死にたがりの双子と、生きていてほしい引き取った俺。俺たちの怒涛の生活は今ここから始まった。
「あのさぁ...君ら二人の事引き取ることになったんだから、ある程度のコミュニケーションは取ってくんない?」
返事はない。まあそれもそのはず、この双子は目の前で両親が強盗に殺されたところを見た上に、親戚たちで誰が引き取るかもめているところを目撃してしまった、現在傷心中の身。あまりにもハードすぎるので俺も出来るだけそっとしておいてやりたいけど、何せこの双子、見た目がそっくりすぎてどっちがどっちか分からない。どちらかが兄の『陽人』で、どちらかが弟の『月人』だと聞いているのだが、どっちがどっちか見分けが付かない。この二人を引き取る身としては、せめてそれだけ知っておきたい。
「あのー、自己紹介くらいはしてほしいな、とか思ってんだけど...。」
返事はない。ピクリとも動かない。
「俺の名前が神楽木零って言うのは知ってるよな...?」
返事はない。けどほんの少しだけ頷いたような気がした。
「今頷いてくれた?」
またピクリとも動かない。でも何となく、俺の話は聞いてくれてんだろうなとは思った。
「えっと、とりあえず、どっちが陽人でどっちが月人かだけ教えてくんね?これが分かったらもう何も聞かないから。」
返事はない。けどゆっくり、双子は俺の顔を見た。双子と目が合って、俺はそこでようやく二人の顔をちゃんと観た。似てるけど、よく見れば違いはある。俺がもう少し双子の顔をよく観ようと近づいたとき、俺の向かって左に座ってる方が口を開いた。
「死にたい。」
「え?」
思わず聞き返してしまった。ちゃんと聞こえてはいたけど、こういうのは条件反射だと思う。
「死にたいから、放っておいてほしいです。」
今度は俺の向かって右に座ってる方が口を開いた。顔はそっくりとはいえよく見たら違うところもあるけど、声は全く一緒だな、なんてぼんやり考えてしまった。
「えっとぉ、俺はとりあえず名前を教えてくれって、どっちが陽人でどっちが月人か教えてくれって言ったの。お前らが死にたがってることなんてどうでもいいから、名前、教えて。」
俺はわざと冷たい声で言った。すると双子は、俺に呆れたのか慄いたのか小さい声で「ボクが陽人」「オレが月人です」と教えてくれた。双子の声を聞いた俺はとりあえず空気を換えるため手をパンと叩いた後、「分かった」と立ち上がって部屋を出て行こうとした。ら、
「「ちょっと待って」ください。」
呼び止められた。
「なに?」
「なにじゃない。止めないの?」
「は?」
「はじゃなくて、ボクたち死にたいって言った。これから自殺するかもしれない。止めないの?」
陽人、の方がため口で俺に聞いた。まあ、常識ある大人なら確かに子どもが死にたいって言っていれば原因を聞いたり、話をしたり、なんだかんだ止めようとすると思う。でも俺は悪い大人だから。
「別に止めない。生きるも死ぬも個人の自由だ。それを他人である俺がどうこうするのは、俺は違うと思ってる。」
「引き取ってすぐに自殺なんてしたら、親戚に色々言われるんじゃないですか。」
今度は月人の方。なるほど、陽人はため語で月人は敬語、分かりやすくていいな。じゃなくて、確かに今すぐ死なれたら俺がとやかく言われるんだろうな。それは嫌。でも、
「確かに何か言われるのは嫌だし、俺が嫌だって言って自殺やめてくれるならそうして欲しいけど、お前らの死にたい気持ちを理解できるのはお前らだけだから。周りに何か言われたって、じゃあお前ら陽人と月人の死にたい気持ち払拭してやれたのか?って言ってやるから別にいい。」
俺がそう言った途端双子は黙った。しばらく沈黙が続いた後、示し合わせたわけでもないのに双子は同じタイミングで立ち上がった。そして、ゆっくり台所に向かって言ったかと思うと、包丁を取り出した。俺の家には普通の食材を切る包丁と、刺身を切る時用の刺身包丁がある。双子はそれらを一本ずつ持つと、お互いに切っ先を向けた。その瞬間、俺はその包丁を取り上げた。
「何するのさ。」
「包丁を取り上げたんだけど。」
「そうではなく、なぜ邪魔をするのですか。止めないって言ったじゃないですか。」
「止めないとは言ったな。でも、邪魔をしないとは言ってない。」
俺はニヤッと笑った。
「俺は、お前らを止めるつもりはない。お前らの悲しみはお前らにしか分からないし、お前らの悲しみを俺が払拭してやることもできねぇ。ならお前らの死にたがりを俺に止める権利はねぇ。でも、シンプルにお前らに死なれるのは夢見が悪い。だから、死にたがるなら死ねばいい!俺はそれを全力で邪魔してやる!」
俺は双子に高らかに宣言した。自分のこの考えが、この選択が、間違っているとは思ってない。元死にたがりだから、この双子の気持ちは痛いほど分かる。でもだからこそ、この双子を引き取った俺は、この双子には生きてほしいと思う。双子のぽかんとした顔を見て、それを強く思う。いつかこの二人の目に、希望の光が宿ることを願って。
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